Book Review Title

「かもめのジョナサン」 (リチャード・バック著・五木寛之訳、新潮文庫)

自己実現物語の決定版と言えばコレ!

ジョナサンといってもファミレスじゃなくてカモメの話ですが...電車待ちの時間に駅の本屋で暇つぶしをしていて衝動買いをしてしまいました。

リチャード・バックの名著で、出版されるまで幾多の出版社に断られ続け、やっと出版したけどまったく売れず、2年後(1972年)に突如として大ベストセラーになったという本です。当時のヒッピーたちのバイブルだったようで、なるほど精神世界のにおいがする話です。

生きる意味、そして価値を追求する前半、セミナー系に傾いていく後半...

前半は「食べるために働き、無難な人生を送る」保守的な価値観に縛られず、「飛ぶこと」と極めることで生きる意味や価値を追求しようとするジョナサンの奮闘が描かれていて、無駄と思われることでも突き詰めていけばよく分からない価値観や使命感みたいなものが生まれるもんだなぁと、軽く納得するわけです。

しかし後半になると、話は徐々にセミナー系になり、飛ぶどころかテレポーテーションを達成したフォース使いのヨーダみたいなカモメマスターが登場し、飛行の追求により完全なる精神状態を達成したジョナサンが、その高尚な価値を布教する師になって地上に舞い戻ります...。ってまあこんな感じで後は読んでのお楽しみなんですが...(いや別に楽しい結末はないですが)。

評価が極端に分かれる名書

書評をいろいろと見ていると、こんなに評価が分かれる名著も少ないんじゃあないかと...。セミナー系の独善的説教臭いんでウザイって人が居たり、人生で迷った時に読んで心の支えにしてます、みたいにまんまとハマっちゃってる人が居たりして面白いです。

いずれにしても「何かを押しつけられているように響かない教えは、本当の教えではない」と道元が言うとおり、心を動かすって意味で名著であることは間違いないでしょう。

著者が「自由な精神世界の実現と人民(愚民?)の救済こそが生きる道」と考えたのか、それとも「世の中自己実現を追及しすぎるするとこんな風になっちゃうんだなぁー」と、極め過ぎた人の精神状態を風刺したかったのかどうかは想像するしかないですが、私はThe Whoのロックオペラの名作「Tommy」と展開がそっくりだと勝手に盛り上がってました。

「コンプレックス→いじめ→自己実現→解脱→教祖化→世間の抵抗→真の自由」って、展開ほとんど一緒です。オウム真理教幹部も愛読したという本書、読書感想文にもってこいですよ。