Book Review Title

「THE COACH」 (Ralph J. Sabock著、日本文化出版)

コーチングとは?

私は一連の書評を通して、「コーチングとは技術や戦術の指導(だけ)ではなく、まず人間と関わり、人間を教えることである。」ということを訴えてきましたが、この本は私にそれを最初に認識させてくれた本の一つです。私はこの本を見つけて相当感動したらしく、裏表紙には「1996年2月17日大雪」と、本を買った日の日付が入っていました。しかし何も大雪に日に本屋に行かなくてもねぇ...。それほどまでに感銘したのは、おそらくこの本が、アメリカの高校のスポーツチームを教える人を念頭において書かれていることと関係するはずです。

私は実は中学や高校レベルのスポーツにおける優れた指導者を大変尊敬しています。もしかしたらプロの指導者よりも尊敬していると思います。理由は簡単です。中高生の指導者が向き合っているのは、単なるアスリートではなく、思春期を迎えて、まさに大人になろうとしている人間だからです。彼らほど、教え子の人生そのものと向き合っている人たちは、おそらくそうはいないでしょう。

小学生の指導は親が大変ですが、正直言って人生決まるほどの影響はスポーツにはありません。いきなりプロになったり、マスコミに注目されたりすることはほとんどないからです(愛ちゃんや柔ちゃん級じゃなければ...ですが)。大学生やプロになれば、基本的にもう大人です。競技者としての人生もある程度は見当がついています。お金が動いたりでいろいろと面倒くさいでしょうが、親が出てきたりはしないし、彼らは嫌になって競技を辞めたければ辞めればいいだけです。その先の人生もある意味知ったことではありません。(いや別に無関心っていうわけじゃないですよ) 対して中高生を取り巻く環境っていったら大変です。競技者として、そして人間としてこれからどうなるかの人生最大の分かれ目がそこにあるからです。

競技スポーツでこの年代にそれなりのエリートレベルにならなければ、ほぼ競技者として食べていくことはできません。それにもまして人生です。子供と大人の境目の彼ら、彼女らは精神的に非常に不安定、かつエネルギーがあふれています。簡単にいえばスポーツどころではない興味が満載の困ったやつらなのです。 高校のホッケーチームの先生と話していると、補導された生徒を迎えに行く話とか、生徒の家庭事情とか、進路の話とか、本当に頭が下がる思いです。「積み木くずし」も「スクールウォーズ」も「金八先生」も裸足で逃げ出す、ああ、古くて分かんねえか...。今でいうなら「GTO」あたり、いやちょっと違う気がするけど、とにかくすごい逸話満載です。部活の先生たちは更に通常の授業も持ち、もちろん自分の家庭もあって、それで指導しているのです。プロのコーチだなんていってぬくぬく生きてる俺は何なんでしょうか?「海外で教えて、実力の世界で大変ですね」なんて言われても、中高の先生に比べれば、チョロンチョロンに甘すぎます。

コーチの家族という視点からも

さてさて、肝心の内容ですが、コーチという職業の特殊性、適正から始まり、ヘッドコーチ、アシスタントコーチの役割、リクルートのプロセス、オフシーズンのこと、スタッフの組織化、さらにはスポーツの倫理まで多岐に及びます。 特筆すべきは「コーチの家族」という章です。「結婚している女性コーチ、男性コーチ」とそれにまつわるコーチの家族の問題、コーチの家族であることで得るものと失うもの...などなど、妻子持ち(予定の)コーチは必見です。「コーチの夫になったら...鍋を買って料理の勉強をしなさい」というくだりはウケました。

名言の宝庫でもあるこの書、「一生のうちで後悔することがない日が二日ある。昨日と明日だ(昨日のことを後悔しても意味がないし、明日のことは後悔しようがないという意味)」「誠実さに程度はない」など、クーッてうなりますよ。だがしかし定価2,800円...結構厳しい。でも本も内容も分厚いから許そう...。

しかし最後に一つだけ大きな疑問が残るこの本... 著者のサボックさんって、一体何者????
この本、どこにも説明がありゃしない。なんちゅう本やねん!! 訳者の肩書きなんてどーでもいいから(失礼)これだけの本を書くサボックの正体が知りたい!!どなたかご存知の方はコーチ・ヘローキィまでご一報を。情報提供料としてHockey Lab Japanオリジナル足つぼマッサージ器を差し上げます...ってなことはないですが、ホントに誰か教えてください。

ザ・コーチ