Book Review Title

「スーパー・リーダー」 (ドン・シューラ、ケン・ブランチャード著、TBSブリタニカ)

NFL最多勝監督のドン・シューラと著名な経営コンサルタントであるケン・ブランチャードの共著

原題は「Everyone's a Coach(みんなコーチだ)」、邦題も「スーパー・リーダー」と、いまいち、いやかなり安いタイトルですが、内容はとてもわかりやすく、リーダー論の入門書としてお勧めです。

ドン・シューラはアメフトの最高峰NFLでボルチモア・コルツ、マイアミ・ドルフィンズを率いた名将です。1993年には通算325勝の最多勝記録を達成。スーパーボール最多出場(6回)、なんと1シーズン無敗など、とんでもない記録を持つ頑固おやじです。ジョニー・ユナイタスやダン・マリーノらNFL史上に残る名クオーターバックの育ての親でもあります。 本書は名将シューラのコーチ哲学と、それに基づく経験談を、経営コンサルタント・ブランチャードが分析し、現代社会の組織運営に必要なリーダーシップを説く、という構成になっています。

細分化された役割と最先端のコーチング

アメフトはおそらくもっとも高度に情報化されたスポーツであり、もっとも現代社会的スポーツといえるでしょう。細分化された役割とそれに対応するコーチングはどのスポーツよりも先を行っています。
シューラ曰く、「70年代には1試合紙切れ1枚だったスペシャルチーム用のゲームプランが、今では20ページにも及ぶ」そうな。

スペシャルチーム用だけでこの情報量なんだからディフェンス、オフェンス用を考えると1試合でえらい量の情報戦です。毎週1冊の本を書き上げるがごときコーチング...。こんなのほかの競技ではありえません。基本的に週1回、シーズンで多くて17試合というスケジュールが、各試合の重要性を高め、したがって準備の重要性も高まるということです。

シューラのコーチ哲学は一言で言うならとても現実的で、妥協を一切許さないスタイルです。
「目標の設定に重きがおかれすぎていると思う」とは非常に示唆に富んだ言葉です。確かに世の中誰もが「目標を立てる」ことで安心しすぎなのです。それを妥協なく、かつ柔軟に実行していくこと、そしてその評価が行なわれることは、どんな組織でもまれです。目標の設定は成功への第1歩であり、それ以上でも以下でもないのですから。

「何かを学ぶということは、その結果、行動が変わるということだ。行動に移して初めて、人は何かを学んだといえるのだ」という彼の言葉も、胸にずしんと響くではないですか。

一方、ブランチャードのほうはというと、経営コンサルタントらしく、より現実的な例でシューラのリーダー論を読み解いてくれます。息子が迷惑駐車を繰り返し、こっぴどく油を絞ったら、逆に息子に「叱りっぱなしでフォローがない」と突っ込まれたという話や、大学の授業を担当していたときに学生に好かれようとしてとても楽な授業にしたら、周囲からの尊敬をまるっきり失ってしまった、などという話はとても分かりやすく、共感できます。

でも別の質問への回答で「才能がなくても成功した人」の実例を挙げ彼らに共通の特徴として「勉強し、努力できる才能があった」ことをあげています。才能がないことを理由に諦めるやつは、努力する才能がない、ということです。まさに言い訳や泣き言の付け入る隙を与えない名回答です。

とってもポジティブ、アメリカン...

しかし読み終えるととてもアメリカンな雰囲気が漂うこの本... 例えば90歳のおじいちゃんが酒の席で披露したという、この話(p187)。

「最近、飛行機に乗っていてこんなことがあった。となりの席に座ったビジネスマンが浮かない顔をしていたんだ。で、ひとつ元気づけてやろうと思い立った。「どうかなさったのかな?」と私は聞いた。
「あまり気分がすぐれなくて」
「それはまたどういうわけで?」
「昇進しましてね」
「結構じゃないですか」
「荷が重いんです」
「大丈夫、あなたなら心配無用ですな」
「どうして、わかります?」
「大丈夫、気のもちようひとつですよ」

で、私はこうアドバイスを差し上げた-
「志を大きくもて!ビッグチャンスに食らいつけ!大物になれ! 志を大きくもて!ビッグチャンスに食らいつけ!大物になれ!」と毎朝繰り返すことですとな。
飛行機が着陸すると、そのビジネスマンは見違えるようだった。ほら、このとおり。初対面の人にだってコーチはできる!」

ほら、このとおりって、そ、そういうものですかねぇ、おじいちゃん??あまりに単純。さっきの、親に叱られて逆に突っ込み返す息子といい... うーん、とってもポジティブ、アメリカンだ... でも「買い」です、この本。