Question

Q117:オベチキンの作り方は?

最近TVでNHLを見ていて何が楽しいかってキャピタルズのオベチキンをみるのがすごく楽しいです。リーグのなかでもトップクラスの実力だとおもいますが、なぜあのような選手が生まれるのでしょうか?
特別な環境でいい指導者に英才的に教育を受けさらに本人の努力や運なんかもあるのでしょうが、
オベチキンの作り方みたいなものがあればぜひ知りたいところです(もしくはこんな能力を身につければ可能性がある等)
(#8ファン)

Answer

オベチキンは間違いなく攻撃面ではNHLで随一の選手でしょう。どのゾーンでパックを取っても1対1で勝負できますし、シュートのコントロール、パワーは桁外れに高く、さらに守備面でも激しいフォアチェックで貢献しています。

昨シーズンのプレーオフのある試合では「シュート数12、ヒット5」という数字をたたき出しています。1チームが1ピリオドで記録する数字を、1選手が1試合で記録してるんですから、、、技術面が格段に進歩した現代ホッケーの中でも規格外の存在といえます。

そんなオベチキンのような選手を育てるためには、ズバリ!
と、言いたいところですが、、、いやぁ、、、私にオベチキンの作り方が分かっていれば今頃こんなところでさすらいのコーチなんてしてませんよ(笑)

しかし彼のようなスーパースターが生まれた背景はある程度想像できます。

1.ロシア伝統の徹底した個人技の英才教育
オリンピックでは惨敗したとはいえ、ロシアホッケーはオベチキンをはじめダツーク、マルキン、コヴァルチャク、シミンなど、世界トップクラスの才能を次々と送り出しています。ロシアの前身、旧ソ連のホッケーといえば精密機械のようなパスワークで知られていましたが、そのベースになるのは超人的な個人技に他なりません。旧ソ連の黄金時代を支え、NHLでもスタンレーカップを獲得しているラリオノフが、練習の最中に、ボードにのっているボトルを遙か向こうから「ヘラヘラ笑いながら一本ずつ狙って打ち落としてた」という話を某NHLチームの用具マネージャーから聞いたことがあります。

ロシアの個人技育成についてはその昔のロシア紀行に書いてありますが、とにかく彼らは段階的に、効率的に、徹底的に個人技を教え込みます。驚くべきことにチーム単位でのシステム、日本でいうところのフォーメーションを教え始めるのは13歳を過ぎてからとのことです、、、

さらに彼らの陸上トレーニングも非常に特徴的で、ホッケーに特化した身体を作るために、ウェイトトレーニングよりも自重トレーニングで俊敏性を養い、上半身よりも圧倒的に下半身を鍛える、、、などなど、この辺のトレーニング理論のノウハウは北米にも取り入れられ、今やホッケートレーニングのスタンダードになりつつあります。当然のことながら高度な個人技を指導する指導者の資質はとても高く、近年では北米のホッケーコーチング理論の多くが旧ソ連を中心とするヨーロッパモデルから取り入れられています。

ロシア系の選手は総じて個人技術が高いことを考えると、オベチキンもまさにその伝統の産物だと言えます。特に優れているのはシュート力であり、身体の周辺のどこにパックがあっても強引に引っ張ってきてゴールにシュートできる柔軟性とコーディネーション(協応性=力強くスケートしながら柔らかくハンドリングやシュートをする、など二つ以上の動作を同時にこなす能力)は特筆に値します。

2.北米ホッケーへの適応
ヨーロッパ系の選手の中には、その卓越した個人技にもかかわらず成功できない選手も少なからずいました、、、ってそれは特にヨーロッパ選手に限ったことではないはずなのですが、、、保守的なファンやコーチ、北米ホッケーの権威の方々は、その原因をヨーロッパホッケーの気質に求めようとしました。上手いけど個人技に頼りすぎる、自己中心的だ、内向的だ、フィジカルなプレーをしない、守らない、NHLサイズのリンクに適応できていない、、、
などなど。

このようなある程度事実だけどけっこうな偏見に、オベチキンは有無をいわせぬ一発回答を突きつけてくれました。北米のファンを驚喜させるフィジカルプレーに分かりやすいキャラクター、英語だってちゃんと予習してたからそんなに苦労してる感じじゃありませんでした。近年ヨーロッパの有望選手は早い段階で北米のエージェントを雇って北米ホッケーに適応する教育を受けています。単に上手い選手としてではなく、プロ選手として北米で成功できる条件を、オベチキンは備えていたのでしょう。

3.才能
超々一流のアスリートですから、天賦の才能が必要なのは当然です。オベチキンのお父さんはプロサッカー選手、お母さんはバスケットボールでオリンピック金メダルを2つ獲得しています。そりゃアスリートとしての遺伝的資質や家庭環境は申し分なしでしょう、、、ホッケーを始めてまもなく、リンクへの送り迎えが大変だからと両親がホッケーを諦めさせようかと思っていたところ、才能を見込んだコーチが引き留めたと伝えられてもいるみたいですから、やはり幼少の頃からただ者ではない輝きがあり、さらにその輝きを見つけることができるコーチに恵まれていたのでしょう。

というわけで、教育と環境、環境への適応、才能、、、と、書いてみればごく当たり前の答えが並んでしまいました。オベチキンを作るぞ!と言ったとき、これらの要素の中で我々がコントロールできるのは才能の発掘、教育と環境、そして才能をトップクラスの環境に適応させるスキルの開発です。才能は発掘されなければそのまま埋もれていき、発掘されても教育方法と環境がなくては伸ばすことができず、さらにトップクラスの競技環境に順応できなければ本当の成功は得られません。

おそらく一番大事なのはどのようなホッケー選手が時代を変えていくかという理念とそれを実現するための育成プランを持つことです。60年以上前に開発された旧ソ連の教育プランは、現代に至るまでその輝きを失っていません。そして、次世代のオベチキンは、今ホッケーを教えているコーチとその国のホッケー管轄団体が未来にどんなホッケーを目指しているか?という理念で、ある程度育てられているのです。

それでは。