Question

Q3:周囲の人にバタフライスタイルの効用を納得してもらうには?

GKコーチをやっていますが、何か基礎から体系的にGK理論を教えている本や資料(出来れば日本語版)は無いでしょうか?(特にバタフライスタイル)探しているのですが見当たりません。 自分が現役のときにM大学の同期からバタフライスタイルを少し教えてもらい、それを参考に教えているのですが、監督が自分のいないときに古い理論を押しつけているらしく現役が多少混乱しているようです。監督がこちらの話にまったく耳を貸してくれないので、説得できるような明確な資料が欲しいのです。
(某大学ホッケー部GKコーチ)

Answer

(註:この質問は1999年6月14日当時)

ありがとうございます。記念すべき質問第一号ですね。

> 何か基礎から体系的にGK理論を教えている本や資料(出来れば日本語版)は無いでしょうか?(特にバタフライスタイル)探しているのですが見当たりません。

結論から言いますと、

>基礎から体系的にGK理論を教えている本や資料(出来れば日本語版)

、、、は現在ありません。私や父が、マガジン上で掲載しているもののみだと言って良いでしょう。特に、本家であるフランソワ・アレールの理論には彼の著作権がありますので、勝手に出版は出来ないのです。彼はそれで食べている人ですから、ケチでも何でもありません。日本で行われている彼のクリニックか、もしくは私と父が各地で行っているクリニックに行き、直接講義を受けてノートを取ってもらうしかありません。

> それを参考に教えているのですが、監督が自分のいないときに古い理論を押しつけているらしく現役が多少混乱しているようです。監督がこちらの話にまったく耳を貸してくれないので、説得できるような明確な資料が欲しいのです。

このような問題の本質は(難しいんですが)むしろ違うところにあると考えるべきでしょう。本があってもダメなんですよ。なぜ現代のホッケーでバタフライスタイルが有利なのか? 古い理論で処理できない問題とは何か?これを本や人の言葉によってでなく、自身の頭で理解することなしに本当の答えを出すことは出来ませんし、また人に指導することも難しいかと思います。

とりあえず本題に入りましょう。 現代ホッケーにおいてバタフライスタイルが旧来のスタイルより有利な理由として、主に以下のことが考えられます。

1. 失点(得点)および、シュートの約60-70%がボトムネット(ネットの下部1/3)に集中していること。(図1)これらのもっとも失点につながりやすいシュートを、もっとも効率よく止める方法として、バタフライセーブが重視されるようになりました。肩口へのシュートは印象的ですが、統計的にはめったにないものなのです。

図1

2. これはもっと重要です。失点の約70%が、ゴールから約2mという至近距離でのプレー(ショートプレー)から起こるということ。ロングシュートは印象的ですが、統計的にはめったにないものなのです。ゴール前での混戦に対してすばやく正対し続けながらパックを止めるためには、「立ったまま」とか「捨て身のダイビング」ではとても間に合わないのです。幾何学的に、パックに近ければ近いほどハイショットは入らなくなりますので、パックの真正面でバタフライを作り、体に当ててもらうのが、もっとも確実なのです。(図2)

図2

3. 現代のホッケーは(どんなレベルであっても!!)パックの横への動きが激しいので、あまり前にでてチャレンジしてばかりいると、いとも簡単に横パスやリバウンドでがら空きのゴールにパックを放り込まれてしまいます。前にでればでるほど、パックが横に動いたときに、横に動かなければいけない距離が長くなる、これも幾何学的に当然ですよね。(図3、4)

図3/図4

以上が主な理屈の柱です。これは本に頼ることなどなく、自分で統計を採って証明できます。試合の中、練習の中で

  1. 「ゴール前のどこから→2の証明」
  2. 「どんなプレーで→3の証明」
  3. 「どこにゴールされたか→1の証明」

この3点の統計を採るだけで、説得力のある資料ができあがります。これもコーチの修行のひとつですので、ひとつやってみてはどうですか? 重要なのは、

「どこの誰がこう言った‥」
「俺のプレーしていた頃は‥」
「カナダでは今こうだから‥」
「いや日本人にはこれは合わない‥」

というようなくだらない議論に頼らずに、人を納得させるに足る説得力ある言葉を導き出すことです(これこそコーチの仕事なのです!!!)まあ、皆さん「日本リーグ」とか「NHL」とかいう言葉のに弱いので、ある程度仕方ありませんが、頑張ってみて下さい。

ただし、監督との間は、理論なんかじゃなくて純粋な人間関係です。彼のプライドを損ねることなく、彼の話もむしろ積極的に聞き、言いたいことを言わせてあげて「いやー、そうなんですかー!!はーっ!!」と聞いていると、意外にこちらの意見も聞いてくれるもんですよ。彼と対立するのではなく、彼をこちらに引き込むように考えてみて下さい。無用な衝突をして自分のコーチとしての立場が危うくなるのが一番ばかばかしいので、ここは「北風と太陽」の太陽になってください。

それでは。