Question

Q30:効果的なデータ利用法は?

ゲームデータの取り方。失点パターン/得点パターン/フェイスオフなど。今期成績が良くなかったので、客観的資料をもとに指導をすることも必要と思っています。よいものがあれば紹介していただきたいのですが。
(目指せIDコーチ)

Answer

データ利用にもいろいろあります。 ここでは来期に備えるという観点から、まずは今期のデータとビデオを分析し、チームに足りないところを考えて、それからデータを取ることをお薦めします。まず全試合でのチームの平均得点、失点、平均シュート数、平均被シュート数、パワープレー成功率、キルプレー成功率、ゴーリーのセーブ率、防御率などを調べます。次にすべての試合を以下のように分類してみます。

A:3点差以上で勝った試合
B:1点-2点差で勝った試合
C:同点
D:1点-2点差で負けた試合
E:3点差以上で負けた試合

そしてA-Eそれぞれのカテゴリーで先ほどあげたデータの平均を出します。つまり、3点差以上で勝ったときの平均得点、失点、シュート数、などです。
そうすればだいたい勝ち試合・負け試合の平均的な戦いぶりが分かってきます。例えば「1点-2点差で負けているときにはシュート数、被シュート数が殆ど変わらない」のであれば、競り負けるのはゴーリーに原因があり、またシュートの決定力が悪いという可能性があります。「競り勝つときにはパワープレーの得点率が高く、ペナルティキリングの失点率が低い」という結果が出るかもしれません。
こうして来シーズンに向けて大体の目標を出すことができます。例えばこれを、「勝利の条件!」として目標として掲げます。

「4点以上得点し、2点以下に失点を押さえ(この時点で勝ちですが)、シュート数30本以上、得点率15%以上、被シュート数20本以下、パワープレー成功率25%以上、キルプレー成功率90%以上、ショートハンドでの失点0、ピリオドの開始から3分、終了間際3分以内に失点しない」

これを達成すれば勝てる!という条件を掲げ、毎試合達成度をチェックします。たとえ勝った試合でも達成できていない目標があれば選手にそれを伝え、なぜその目標が達成できないか分析します。データ分析というのはただ数字をひねれば良いというものではないので、説得力のある、具体的な数字をこうやって提示する方が良いのです。

今あげた方法(一例に過ぎませんが)はシーズン全体を振り返るという長期的な視野に立った分析から、まさに「勝利の方程式」みたいな者を導き出すやりかたです。

次は1試合中という短い時間にデータ分析を役立てる方法です。
試合中に記録すべきデータとして主なものは、

・シュート数、被シュート数、シュート位置、被シュート位置(図示する)
・フェイスオフの勝ち負け(誰が誰に勝ったのか、負けたのか)
・ターンオーバーの数とその位置、それによる失点(パスをインターセプトされ逆襲を食らった数)
・オッド・マン・ラッシュの数とそれによる失点(2-1、3-2などの状況を許した数)
・チェックした数、された数

などです。これらはピリオド間に参照して選手に伝えることができます。「1ピリだけニュートラルゾーンでのでターンオーバーからの失点が2点もあるぞ!不用意に真ん中にパスを出すな!」という感じです。

さらに試合から試合、1-2週間単位でデータ分析を戦術に反映させる方法があります。
そのような分析はビデオを見ながらおこなうことができます。例えばブレイクアウトの方向と成功率。「右方向への球だしが80%は偏りすぎ。左ウイングへのパスの成功率が40%というのは悪すぎる」等ということが分かります。あらかじめ設定した試合での目標が達成できているかどうか調べることもできます。これは戦術の狙いと結果が一致しているかどうかを確かめる重要な方法になります。例えば「今日はフォアチェックからの得点を決めることが目標だった。前回の試合ではフォアチェックの成功率が40%で、フォアチェックからの得点は1点もなかったが、今日は成功率が70%でフォアチェックから3点取ったのでいいのではないか」ということが分かります。

とにかくデータの利用はまさに目の付け所次第です。データを活かす分析ができるかどうかにかかっています。例えば「得点力がないのはシュート数が少ないからだ」と思ってシュート数ばかり増やしてもいっこうに得点が増えないとすれば、それはシュートの狙い所が悪いのです。

昔日本のサッカー選手の試合中の持久力を分析する企画がありました。その結果日本の選手はドイツの選手に比べて試合中の体力の消耗が激しいということが分かりました。研究者は「日本選手の体力のなさが分かった」と結論づけましたが、当時ドイツでプレーしていた奥寺氏は「んなわけはない。どう考えても日本の選手の方が持久力がある。マラソンすれば一発で分かる。問題は持久力ではなく、90分間頭を使わないで動き回り体力を消耗することにあるのだ」と一蹴したといいます。まさにその通りです。プロ野球の名将野村監督は「勝ちに不思議の勝ちはあっても、負けに不思議の負けはない」と言っています。データを駆使したID野球で有名な彼らしい言葉です。正しく分析すれば必ず負けた要因が分かるのです。

データ利用は両刃の剣です。簡単なデータ分析でも的を射ていれば素晴らしく役立ちますし、どんなに難しく数字をいじくっても、見当はずれの結論に達する可能性も大いにあるというわけです。

それでは。