Question

Q33:激論!バトル・オブ・バタフライ!

メール1
私の子供は現在ジュニアチームのゴーリーをしてます、4月より小学5年になります。指導するコーチがスタンディングスタイルのゴーリーだったためか、バタフライには否定的です、私はまだスタイルを固定するには早いと考え、静観してますが、何才頃までに決めたらいいでしょうか? またスタンディングとバタフライ指導する上で決定的に違う事、注意しなければならない事などあったら教えてください。それとバタフライでリバンドを少なくするには、どんな技術・方法があるのでしょうか?

メール2
(前略)気になるのがケガのこと、ひいては選手寿命の事です。成長期の子供に(骨の成長と筋肉の成長が合致しない)バタフライが本当に悪影響を及ぼさないのか?・・・、という事です。キーパーはどちらにしても身体に良い影響はない、と一言でかたずけてはいけないと思うのです。少年野球でカーブなどの変化球を、勝ちたいがために早くに教え投げさせ、ひじをを傷めて投げられなくなる、なんて事がバタフライには無いのか、という事です。 ここで、はっきりしておきますが私もバタフライ技術が、トップレベルになる早道と思っています、ただバタフライを教える時期の医学的根拠ひいては実績を示して欲しい、ということなのです。 (中略) それと、ジュニアチームのコーチですが、バタフライについての勉強は2年ほど前からやっているようで、教える全ての子供にスタンドアップを強制しているわけではなく、身体の成長・スケーティングの上達具合を、考慮しながらコーチしているようです、私の理解では初心者はすぐに膝を突いてしまいがち、それが原因で正対できなくなるのを防ぐために、バタフライを嫌がっている風にも思えます。(この事も含め、近々にじかに確認します。)ただ、スタンドアップが好きでそれを習得しようとする子供の入部やレギュラーへの登用が片寄りがち、なのは確かだと思います。
(息子の成長を願うホッケーパパ)

Answer

陸上の高跳びで、背面跳びを初めて使った選手は、邪道扱いされ続けました。ところが今では誰もロールオーバーで飛ぶ人はいません。理由は単純。背面跳びの方が理にかなっており、なによりも結果が出たからです。

バタフライスタイル否定論への反論は、ウェブサイト上やIHマガジン紙上で相当繰り返してきました。現代のホッケーでは子供であれ大人であれ、頻度の差や個性はあっても、バタフライというテクニックなしにトップレベルで生き残ることは不可能です。私は今まで紙上や口頭で理論的にバタフライスタイルの優位性をさんざん述べてきました。逆に私はいまだにスタンドアップのコーチがきちんとした形でスタンドアップスタイルのバタフライスタイルに対する優位性を根拠を持って示したことを見たことがありません。日本に限らず海外でも同様です。また、NHLというトップレベルのリーグではバタフライスタイルの優位性はもはや否定しようがありません。今年の日本代表でも芋生を除く2名=春名、橋本がバタフライスタイルです。日本の高校生のトップレベルの選手もバタフライスタイルです。中学生も然りです。それでも否定し続ける人がいるというのは本当に面白いものです。ほとんどの場合は自分の過去に捕らわれた勉強不足から来る拒否反応に過ぎません。そのコーチの方に否定の根拠をきちんと尋ねてみて下さい。そして私にそれを教えて下さい。

というわけで、スタイルの固定ではなく、バタフライをするのは今やゴーリーの基本だと考えるべきだと思います。ですから年齢に関係なく必要な技術です。バタフライセーブをどんな場合でもさせないのであれば、それに変わる方法で正しく指導しなければ、それはただ放任しているだけになりますよね?一般的にバタフライスタイルと呼ばれるやり方でプレーするゴーリーにも個性があります。バタフライをすごく多用する人、そうでもない人、パドルダウンが好きな人、などいろいろです。私はローショットと至近距離からのプレーにバタフライを使うのは、年齢や好みに関わらず必要なことだと思います。ハイショットにはスタンドアップで対応するのは当然です。 年齢に関わらず、合理的なスタイルを教えるべきでしょう。そのうち個性も出てきますから型にはめるなどと気にしなくても大丈夫です。

リバウンドについて
バタフライだからリバウンドが多くなるわけではありません。また、リバウンドが多くなることそのものが問題でもありません。リバウンドでスコアされる原因のほとんどは、リバウンドに対する対処の仕方を知らないからです。とはいえ、リバウンドコントロールの方法がないわけではありません。スティックを使ってコーナーにはじきながらバタフライをすればリバウンドのコントロールは可能です。ただしこれは難しい技術です。もっとも至近距離から打たれた場合はバタフライでもスタンドアップでもリバウンドコントロールはほとんど不可能な場合が多いのです。ですから「まず止める。そして次に素早く対処する」ことを優先します。

まずはコーチに(当たり障りなく)バタフライ否定の根拠を聞いてみて下さい。それで「上が弱い」「リバウンドが多い」という答えが返ってくれば、「じゃあスタンドアップなら最も重要なローショットと至近距離からのプレーを確実に止めることができるのか?そして、本当に上が弱くないのか?リバウンドは完璧にコントロールできるのか?そういうデータがあるのか?」を訊いてみて下さい。そしてその結果を知らせて下さい。

ちょっと厳しい書き方になってしまいましたが、私は合理的な、分かりやすい、根拠のある、結果の伴った理論を教え続けているのに、まだまだバタフライ否定派が多いことに悲しくなります。その人達がちゃんと私に理論的に応戦してこない、いや出来ないのですからなおさら状況は悪いのです。そして本当に可哀想なのは、理解できないままに否定され続ける子供達です。

怪我について
ではまた背面跳びにたとえましょう。背面跳びが始められた当時禁止されそうになったのは「キケンだから」です。当時はクッションの効いたマットの上でなく砂場の上に着地していたからです。現在では背面跳びそのものが原因で怪我をすることはめったにありません。

これと同じことがホッケーの防具にも言えます。最近の防具は昔と比べ物にならないほど進歩しています。バタフライスタイルに合わせたレガースや、膝を守るプロテクターが普及しています。それによってバタフライ時の膝への負担はずいぶん軽減されています。また私のQ&Aの216でお見せしているように、膝への負担を軽減させるストレッチや筋力強化を入念に行えば、怪我の可能性は断然軽減します。

>キーパーはどちらにしても身体に良い影響はない、と一言で片付けてはいけないと思うのです。

しかし残念ながら背面跳びであれバタフライであれ、スタンディングアップスタイルで使われるスプリットセーブであれ、野球のカーブボールであっても、スポーツの技術はそもそも体に負担をかけるものなのです。バタフライの形に関して言えば、(整形外科医曰く)医学的にはどう考えても体に良くはありません。しかしそれを言ってしまえばほとんどのスポーツ技術が体に必要以上の負担を与えていることに変わりないのです。これは理論的に逃げているのではなく、現実を直視しているだけです。どう考えても「競技スポーツは体に悪いのです」。水泳でさえ深刻な怪我をします。実際一流に近づけば近づくほど優れた技術と身体へのダメージを、多かれ少なかれ交換しているのが現代のスポーツなのです(極端な例を挙げれば、ドーピングなどです。負担を強いてでも強くなりたいという最たる例です。)べつに私は体がボロボロになっても勝てばいいと言っているわけではないので誤解なされぬよう。単に現実を直視しようということです。

そして、だからこそ正しい知識と指導が大事なのです。あまりにも多くの人が、ストレッチや筋力強化、正しい姿勢での動作を教えないことで必要以上に怪我を誘発し、それをスポーツのせい、とかバタフライのせい、とかキーパーというポジションのせいにしてしまっています。包丁が危険だといって子供に使い方を教えないまま、大人になって包丁を握らせれば、もっと危険性は増すでしょう?どんな技術でも正しい知識と体へのケアを怠れば体への負担が大きくなりますし、体への負担が大きい技術でも正しい知識と体へのケアをもってすれば、選手寿命を延ばすことができます。

>バタフライを教える時期の医学的根拠ひいては実績を示して欲しい、ということなのです。

残念ながらそのような資料は見たことがありません。このスタイルが普及し始めて日が浅いためです。しかし、逆にバタフライのおかげで怪我が多いという資料も、またスタンドアップは怪我が少ないという資料もありません。バタフライのキーパー寿命は欧米でも疑問視されていましたが、ロワのNHL史上最多勝記録更新を目前に、こういう議論はおさまりつつあると思います。きちんと正対してからシンプルな動きでパックを止めていくバタフライスタイルは、直前まで立って止めていながら急にアクロバティックなセーブを連発しなければならなくなるスタンディングアップスタイルに比べて寿命が長くなるという考え方もあるのです。また選手寿命は健康だけでなく、結果にも左右されると言う側面も見逃せません。北米のプロでスタンドアップゴーリーがデビューする機会は年々減り、もはや若手のゴーリーで完全なスタンドアップゴーリーを探すことは不可能です。スタンドアップスタイルにこだわることで、「選手寿命を残せない」可能性もあるわけです。これも屁理屈ではなく、事実の直視です。日本代表も芋生を除けば春名、橋本がバタフライ、日本リーグのレギュラーでも、ドプソン、芋生を除けば、春名、岩崎、橋本、間野、相沢がバタフライ、またはその影響が強いスタイルをプレーしています。

>ただ、スタンドアップが好きでそれを習得しようとする子供の入部やレギュラーへの登用が片寄りがち、なのは確かだと思います。

これが本当は一番の問題です。コーチはスタイルではなく、結果でプレーヤーを選ぶべきです。キーパーの場合は特にです。
多くの人が「バタフライはちょっと…」という、本質的にはただの不信感から、バタフライについていろいろと欠点を探そうとしています。そもそも完璧なスタイル、というものはありません。時代の流れに沿って、より合理的なものへと変化していくのがスポーツのスタイルです。信頼するに足るある程度の証拠が集まったら、合理的と思われる方法を迷わず試してみることでしょう。バタフライがそんなに体への負担が大きい技術であれば、ホッケー先進国ではとうの昔にそのことが大きな話題になって取り上げられていても良いでしょう。もちろん、バタフライをしながらの横への動きが多くなってきていることから、そけい部を痛めるキーパーが増えてきている(ハシェクなど)という話題は耳にしたことがありますが、これにも確たる証拠はありません。スタンディングアップスタイルのキーパーがハムストリングや腰を痛めるという過去の怪我が減って、新たな怪我が増えたというだけのことです。ちなみに私の指導経験上、膝を壊したキーパーは何人か見たことがあります。しかしくどいようですが、それとバタフライスタイルを直接結びつける根拠はほとんどありません。また、彼らが適切なストレッチや筋力強化で氷上に復帰し、その後も平気で活躍していることも付け加えておきます。

それでは。