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特別企画:ヘローキィロシアへ行く!!その4 (2002年9月11日)

9月11日「オムスク3日目」 ロシアンホッケーを語る

さて、そろそろホッケーについて語りましょう。ソ連とカナダは近現代ホッケーの双璧として常に覇権を競い合って来ました。実際に国際舞台での勝負はソ連が国際舞台に初登場した1954年以来1992年のアルベールビル五輪まで圧倒的な強さでほとんどの国際大会を勝ちまくっていました。先のソルトレークシティオリンピックでやっとカナダが覇権を奪回したものの、カナダの人たちが語り続ける1972年のサミットシリーズやカナダカップなど、プロの都合によって作られた大会を除いてはまさにソ連の独壇場でした。これほどまでの戦績を誇ったソ連ですが、アイスホッケーの歴史は母国カナダに比べて驚くほど浅いものでした。カナダでホッケーが始まったのが19世紀終りであり、日本でも20世紀始めには最初のホッケーが行なわれていたのに、ソ連は1954年に始めて国際舞台にデビューを果たしたに過ぎなかったのです。しかしソ連はその初の国際大会でいきなり衝撃の優勝を果たします。

ロシアンスタイルとは?

ロシアンホッケーがいきなり世界を制した理由はその独自のルーツにあるといえます。ソ連ではホッケーを始めるに当たって既存の氷上球技であるバンディ(フィールドホッケーの氷上版。サッカー並の大きさのフィールドで行なう)と、国民的スポーツであったサッカーのトレーニング法と戦術を利用したと言われています。(当然古くからホッケーをプレーしていた隣国チェコの資料も参考にされました)カナダに代表される北米スタイルのホッケーが激しい肉弾戦を中心として、「パスよりもダンプで陣取りをしていき、シュートとリバウンドの嵐で得点を狙う」戦術であったのに対して、ソ連ではサッカーの中盤でボールを回すようにパスをつなぎ「パックを縦横無尽に動かし、完全に守備を崩してから得点を狙う」戦術を採用しました。また、完璧なパックコントロールを身につけるために科学的なトレーニングを駆使して現代アスリートの先駆けとなる強靭な肉体を身につけ、驚異的な個人技を習得しました。「強靭な肉体と高度な個人技術でパックをチームでコントロールする」というコンセプトはロシアに限らず東欧、北欧で広く採用され、今日ではいわゆる「ヨーロピアンスタイル」としてまとめて語られることもあります。

北米ホッケー界は長い間ソ連を「しょせんアマチュアの王者」と見下してきましたが、1972年にカナダのプロ選抜とソ連代表が激突したサミットシリーズでソ連の個人技と組織力を目の当たりにして驚愕しました。結局シリーズは4勝3敗1分けでカナダが辛くも逃げ切りましたが、このとき以来世界は「ホッケーにも別なやり方があるらしい」ということに気付き、お互いのスタイルを批判しあいながらも取り入れ始め、現在ではNHLでも多数のヨーロッパ出身選手が活躍するようになりました。

以上が一般的なロシアンスタイルの小史と概要です。北米式とヨーロッパ式が融合しだしたと言われている現在にいたっても、ほとんどのコーチ、プレーヤー、ファンが自分のホッケーのコンセプトとしてどちらかのスタイルを好む傾向は続いています。私もよく「ヘローキィさんはカナダ派かヨーロッパ派かどっちですか?やっぱりカナダに行ってたらカナダですよね?」などと踏絵のごとき質問をされることがあります。また、2つのスタイルに対する理解不足からさまざまな誤解とステレオタイプが生まれています。

「カナダは個人技、ロシアは組織力」
「カナダはパワー、ロシアは技術」
「北米のプレーヤーはファイトができてヨーロッパのプレーヤーはファイトができない」
「北米のプレーヤーは根性があるがヨーロッパのプレーヤーは腰抜け」
「北米のプレーヤーは正当なチェックをするがヨーロッパのプレーヤーはスティックを汚く使う」

等々

私は既にカナダとアメリカで3シーズンを過ごし、さまざまな指導者やチームと接してきましたので、単に「カナダのホッケー」といっても地域や指導者によってさまざまな違いがあることを知っています。例えばケベックはいわゆるヨーロピアンスタイルにより近い指導方針があったりします。また、カナダとアメリカのホッケーもかなり違います。

「現代のホッケーはどこの国でも同じようなスタイルでプレーするようになってきている」という識者の声もありますが、まだまだ国や地域、指導者による特徴は色濃く出ています。ですからロシアンホッケーのステレオタイプを自分の中から一旦消し去り、本当に生のプレーを見て見たい、これがこのロシアツアーの目的なのです。

さて、私が見たものは、、、

どこに行っても一番注目すべきことは子供の指導法です。私は既にカナダで子供の時代から激しいボディコンタクトとファイティングまでも肯定する雰囲気の指導現場を多く見ています。

「ゴールが見えたらとにかく打てるところからシュート!」

このような子供の指導方針は間違いなくそのまま大人のプレーに反映されているのです。さて、ロシアでは??

やはり噂どおり、どんなに小さい子供の練習でも;

  • パックをたくさん動かす練習をふんだんに取り入れる
  • ダンプではなくパスとハンドリングでアタッキングゾーンに攻め込む
  • ゴール前での横パスをとことん奨励する

指導でした。2対1で「これは当然打つでしょう」という場面でも、バックハンドのフリップパスで、バックドアへと鋭いパスが通ります。10歳の子供の練習の話です、、、念のため。小さいころからたくさん氷に乗り、スキル系の練習に時間を割いているため、個人技のレベルはとてつもなく高いのです。

その他の特徴としては

  • 予想以上にチェックが激しいが、余計なファイティングは一切ない
  • パックキャリアの腕や手首に対するスラッシングまがいのチェックはバンバン行なわれているが、ペナルティはとられにくい。
  • 練習ではかなり決まった形のブレイクアウトを徹底して教え込む。センター、左右のウイングが自分のサイドにこだわらず縦横に動きブレイクアウトする形が主流。これは北米ではあまり見られない。

やはり彼らのホッケーには 「人とパックを縦横無尽に動かし、守備を完全に崩してから得点する」 という思想がしっかりと受け継がれているようです。北米で「パスで失敗するよりもシュートすることで守りを崩す」 と教えるのとはいわば正反対の思想です。どちらの思想が良いかという問題ではなく、これは彼らの信念の問題なのでしょう。どちらの方法で選手を育成しても、極めればそれなりに上手い選手になるからです。

「日本にはどちらのスタイルがあっているか?」 というのはいろいろな理由があって私は愚問だと思いますが、あえて踏み込むならば 「より体格のハンデを負わないロシアンホッケーのほうが有利」と答えたいと思います。実際に北米よりも体格にばらつきがあるリーグでありながらも質はとても高いですから。ただし、このロシアンスタイルを実現するには非常に小さい時期からの徹底した技術指導が不可欠でしょう。

頑張れムサシ!

なんとこのロシアンホッケー界に単身乗り込んでいる日本人がいます。今春中学校を卒業したばかりのムサシ君です。彼はアバンガルド2の一員として奮闘しています。これからが楽しみですね。

ちなみにこの日はアウェーで行なわれているアバンガルドの開幕戦をホームリンクの大画面で中継するイベントがありましたので観戦してきました。大画面観戦にもかかわらずホームリンクには数千人の観衆が訪れて大声援を送りました。ロシアのホッケーのお客さんは熱いです、、、これはまた後で書きますね。

たぶん13歳くらいのチームの練習風景
ヴィンテージ物の製氷機発見!
こ日本からのホッケー留学生ムサシ君。
大スクリーンでアウェーの開幕戦を応援!