恥を捨てて、世界に出よう!その1

日本では各地で夏合宿が盛んなころだと思いますが、香港では本格的にホッケーができるリンクが一つしかないため、多くの子供達は北米やヨーロッパまで飛んでホッケーキャンプに参加しています。香港でホッケーをするのは基本的に富裕層で、英語も問題なく話せるので、海外にはどんどん出ていきます。私の教える香港アカデミーでも過去に中国、ロシアでキャンプを行っていますが、今年はSports Eventに協力していただき、チェコのBerounでチェコ人プロコーチの指導の元2週間のキャンプを行いました。チェコの物価のおかげで、長期キャンプの割りには安価で行うことができたので、今後日本人向けの企画もしていきたいと思います。

サマーキャンプなどに飽き足らず、本格的に海外留学したい場合、北米であれば全寮制のホッケー専門学校があるので、ユースホッケーをプレーできる年齢の間は、費用はかさみますが、比較的簡単に留学することができます。

問題は、日本で高校や大学までプレーして、そこから海外に出たい、特にプロになりたいという場合です。男女問わずこのような相談を数多く受けるのですが、日本でプレーしているだけでは海外のプロの仕組みが到底理解し得ないこともあり、「とにかく海外挑戦したいけど、何から始めればいいか分からない」という人がほとんどです。

そこで、海外挑戦に必要な知識と準備について、私が知る限りの基礎を述べます。

Import=外人選手の意義

海外に挑戦したいと夢を抱く人の中には、武者修行や勉強、経験を経てレギュラーを勝ち取るみたいなイメージを持っている人も多いようです。現実には、チームが外人選手を獲得する場合、即戦力でなければほとんど意味をなしません。外人選手の獲得には、地元選手より高めの給料(アメリカのように、国内の労働者保護のために、外国人労働者の給料は高めでなければいけない場合があります)やビザの手配など、チームの負担になることも多いのです.

国産選手の枠を削ってまで獲得する外人選手は、勉強や修行などしている暇はなく、初めから確実に活躍してくれないと困るのです。修行として扱ってもらえるのは、アジアリーグのチームの若手を留学させている場合など、給料は元所属チーム持ちの条件の提携に基づく移籍、もしくは自分の給料を払ってもらえるスポンサーを連れて来られる場合のみでしょう。アジアマネーへの幻想は今でも健在なので、そこそこ通用するスキルがあって、スポンサーさえ連れてくれば、修行的扱いでプレーできる可能性は意外とあると思います。

即戦力として契約してもらえるためには、初めから自分が即戦力に成り得るという証拠を示すことが出来る材料が必要であり、日本以外でプレーしたことがない選手にとって、今のところそれを証明できる資料は、日本代表のいずれかのカテゴリーに選出されて国際大会で活躍したというスタッツ(statisticsの省略形でstats: 試合の出場数、ポイント数などのデータ)、もしくは世界的に認知されているプロリーグであるアジアリーグのスタッツだけです。世界選手権、アジアリーグではNHLやそれに次ぐリーグで活躍した選手もプレーしているため、該当の選手が相対的にどのようなレベルにあるかという指標に成り得るからです。例えばアジアリーグでトップスコアラーになっていれば、それは少なくともドイツのトップリーグか北米のECHLくらいで活躍できるはずだという目安になります。しかし、残念ながら、日本の大学リーグやインターハイは英語で公式のスタッツを発表しておらず、しかもスタッツも競技方式も国際的な条件を満たしていないため(国際的に通用するリーグ及びスタッツの条件はIIHFのbylawsで確認できます)、たとえ英訳したとしてもまともに取り合ってもらえるレベルの資料にはなりません。どんなにスキルがある選手であっても、1回戦が50対0になるような無差別級のトーナメントで得点王になった価値を、国際的に認めてくれって言うのは、どう考えても無理です。

タイムライン

次に理解しなければいけないのが、海外のプロチームが、どんなタイミングで、何歳くらいの選手を獲得したいかというタイムラインです。

まず最初のタイミングは18歳で訪れます。NHL等のドラフトが労働法との兼ね合いで18歳なのが大きな理由であり、またエリートアスリートは18歳までにプロとして自立できるべきであるという国際的な前提でもあります。18歳でドラフトされたり、プロチームにスカウトされたり、エージェントと契約するエリートアスリートは、普通15歳くらいで目を付けられていますから、15歳の時点でスカウトやエージェントの目にとまるリーグでプレーしている必要があります。ホッケー人口1000人弱のスロヴェニアからNHLのスター選手になったアンジェ・コピターなんかは13歳でスカウトの目にとまり、16歳でスウェーデンのトップリーグでプレーしています。逆に言えばどんなに上手くても基本的に高校で日本に居る限りはスカウトやエージェントの目にとまる可能性はほとんどありません。あったとしても、日本の高校生が世界でどのくらいのレベルにあるのかを示す資料がないので(英語のスタッツがない。そもそも通年のリーグがないからシーズンの資料にならない)、即獲得される可能性は低いでしょう。

でも16歳でU18の世界選手権、もしくは18歳で正代表でプレーしているくらいレベルが高いプレーヤーであれば。日本でプレーしていてもドラフトされる可能性はあります。福藤選手なんかがそうですね。

18歳のタイミングを逃すと次はいつなのかということになるのですが、、、正確に答えるのは非常に難しいです。なぜなら、日本の社会的には大学卒業になる、第二のプロデビューのタイミングが、日本以外では存在しないからです。18歳でNHLやKHLにドラフトされずとも、21歳までプロ/大学準備リーグであるジュニアホッケーを続けたり、NCAAでホッケーをしたり、ヨーロッパのリーグでプレーすることで、フリーエージェントとしてNHLと契約する選手も少なからず居ます。しかし、それらのどの選択肢も、日本でプレーして、しかも英語がしゃべれないならば、基本的に実現不可能です。

日本の大学ホッケーで4年間活躍しても、その間日本代表になって世界選手権でスタッツを残さない限りは、国際的に見れば草ホッケーと同じ扱いです。私は関東大学ホッケーリーグのレベルはおそらく世界の大学ホッケーで4番目に高いと思いますが(ヨーロッパでは大規模な大学ホッケーの文化がほとんどないのでNCAA D1、CIS、NCAA D3に次ぐはずです。)、そんな事実は国外にまったく知られていません。だって発信しないんだもん。ちなみに特にNCAA D1からNHLに1-2順目でドラフトされる選手は、普通1-2年で大学を休学してプロに転向。残りの単位はプロを続けながら、もしくはプロの後に取ることで大学卒業を果たします。日本のように新卒至上主義の一斉就職活動が存在しないので、大学に入るのも出るのも余裕を持つことができるからです。

22歳で国際的に通用するスタッツのない選手を、トライアウト(最後の1~2人を決めるのがプロのトライアウトです)から育てようとするプロチームは皆無なので、日本の大学卒業のタイミングで海外挑戦出来ないのであれば、ほとんど諦めるしかありません。しかし、アジアリーグに入れれば話は別です。アジアリーグでのスタッツは国際的に通用するので、じゅうぶんな活躍をしていれば海外移籍の可能性は残ります。ただし、アジアリーグは給与面で非常に待遇が良いリーグですので、22歳過ぎのアジアリーガーを即戦力として雇ってくれるようなレベルであれば相当の減俸必至です。いやいやお金じゃないよ!夢を追わないと!なんて言う選手が多数居れば、今頃海外組も増えているはずなので、人生そう簡単ではありません。

というわけで、私が知っている限り、日本人の海外進出の条件をまとめると、、、

  1. 16歳までに国際的に通用するスタッツの残るリーグでプレーしている。
  2. 18歳でアジアリーグデビューを果たし、U20もしくは日本正代表に選ばれる活躍をしている。
  3. 21歳までに国際的に通用するスタッツの残るリーグで大活躍している。
  4. NCAA D1、CIS、NCAA D3でレギュラーとしてプレーしている。
  5. アジアリーグでプレーしていて、技術はそこそこでもスポンサーを連れて行ける。
  6. 国際的に実績がない国の選手を売り込める、凄腕、かつ度胸のある代理人に認めてもらえるだけの能力があるが、なぜか今まで誰にもスカウトされなかった。

ということになります。次回は、いざ海外挑戦となった時、諸手続のために何が必要かということを話したいと思います。

それでは。

6 thoughts on “恥を捨てて、世界に出よう!その1

  1. 興味深い記事です。なかなか純日本育ちの選手が北米で活躍出来ないのはスタート地点で遅れをとっているからなのでしょう。距離の近いロシアとの交流や他の国とより多く対戦することで力をつけて北米にアピールするくらいの意気込みがないとわざわざ向こうからやってきませんね。日本人体格でも通用することはポールカリヤが証明したように不可能ではないので是非次世代の選手に挑戦してもらいたいです。後は日本サッカーが行ったように少年たちを魅了するTV番組等が盛り上げないとホッケー選手になりたいと思わないでしょう。
    課題は山ほどあるけどそれだけチャレンジしがいがあるということで。

    • tosh oka様>コメントありがとうございます。日本はリンクの数や競技人口などでは世界トップ10に入りますから、競技環境はとても恵まれているはずです。問題はその競技環境を活かし、プレーヤーを高いレベルに押し上げていく競技構造がないことです。特に中学校、高校、大学という一番重要な育成カテゴリーで、国際基準のリーグ戦が行われていないこと、そして世界に見てもらう努力をしていないことが非常に大きな問題です。もちろんTV番組等の活用も必要ですが、結局一時的な「盛り上がり」では長期的な育成は出来ないことは、残念ながら過去のイベント(NHL開幕戦、長野オリンピック、プライド等)の顛末を見ても明らかです。現場の改革が急務です。

  2. やはり日本と世界の遠さを痛感いたします。
    このような記事が他ではなかなか読めないので大変感謝いたします。
    詳しい経緯までは知らないのですが近江創一郎さんのように日本の大学からNCAA所属の学校へ行く道が1番現実的かとは思うのですが、、、
    日本の大学を挟むとどうしても年齢的な問題・記事のようなハードルの高さ等で大学チーム側は取り合ってくれるのでしょうか。
    次回の記事も楽しみにさせていただきます。

    • 私は、世界が遠いなら、自分で近づくしかないと思い、20年以上世界をさまよっています(笑)
      近江はカナダのJrでプレーした後、日本の大学、さらにカナダのJrに一度戻ってからNCAA D3に言っているはずです。大学に入るにはホッケーだけでなく学力が必要なので、それはそれで大変です。日本の大学の一流選手だからといって、英語もできなければNCAAなんて絶対無理です。その点近江はいったんJrに戻ってがんばった甲斐がありましたね。日本の大学を卒業してしまった時点で、そこから海外挑戦という道はほぼゼロと思って間違いないでしょう。

      • 前から読まさせていただいていますがそんなに経つとは驚きました。本当にサッカー界など海外進出・メディアなど発展していてうらやましいばかりです。
        海外挑戦された方の経歴などもなかなか知ることが出来ないので大変参考になりました。
        やはり入学となると英語力というのは欠かせなくなることは分かりましたが22-24歳ごろにアメリカ・カナダの体育会の大学に入学は英語力ついていれば入ることは出来るのでしょうか。卒業後の道はないという理由もお聞かせいただけたら幸いです。
        あまり海外の競技構造なども分からないのでお答えいただけたら幸いです。

        • 海外で過ごしたのは12シーズン、そして現在続行中で、あとは日本と行ったり来たりですね。サッカー界は日本のスポーツ界で唯一まともな競技構造になっていますが、そこに近づく努力と人材の素晴らしさには本当に敬服します。メディアに出る程度の「盛り上がり」に期待しているだけでは何百年経ってもサッカーに追いつくことはないでしょう。

          大学は、、、勉強するところですから、語学力と総合的学力がないとNGです。日本の大学卒業後にアメリカの大学に入学も可能だと思いますが、奨学金取れるレベルのホッケーの実力がないと高いですよ。でも、そもそも日本の大学でプレーしていて、どうやってアメリカの大学にスカウトしてもらうのかというのが問題であり、現実的には不可能です。

          スウェーデンのU18/20エリートリーグでプレーしていたなら見てもらえると思いますが、日本の大学リーグはレベルは高くても世界的には草ホッケーと同じ扱いだからです。詳細は上のブログを再読してください。

          女子の代表で世界選手権でプレーしていればNCAAにスカウトされる可能性はありますし、過去にそういう例もありました。

          例えば、日本の大学で19歳までプレーして中退もしくは休学 → アメリカのジュニアチームで21歳までプレーしながら語学学校に通い、スカウトされるのを待つ → 22歳でNCAAの大学に編入して24-5歳までプレー

          なら可能性はあります。

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