怒りの投稿、第二弾

それでは、本当に子供の育成を考えた時、現代ホッケーではどのようにゴーリーを起用すればいいのか? 練習試合やリーグ戦なら最低半々の起用が当然です。一試合毎先発でも良いですが、出来ればどの試合でも2ピリ途中で交代すべきです。アップ無しに急に出たら、とか、ゲームの流れとか、大人が思うほど子供には関係ありません。一か月もすれば慣れますし、ゴーリー全員が試合のいろんな状況に慣れることそのものに意味があります。全員NHLにドラフトされているレベルのアメリカ代表U20チームですら、エキシビションでは半々の起用を普通にやります。

USA Hockeyでは、その考えをさらに進めて「ユースホッケーでは先発、控えという概念を無くすべき」と、各種コーチクリニックで説いてます。つまり、一試合目で1ピリ始めから2ピリ半分までプレーしたゴーリーは、二試合目では2ピリ半分から3ピリ終了までプレーするということです。
さらに12Uまでは、各ピリオドの途中で交代することも推奨されています。つまり、各ピリオドを半分ずつをプレーする、これも試合ごとに試合開始からプレーするゴーリーを替えて、どちらのゴーリーも1ピリ序盤の緊張感、試合終了の大事な時間を経験することが出来るようにすべきとのこと。

そもそも子供たちには、1試合通して保てるような集中力はありません。7-8分で交代する方が失点のショックからも立ち直りやすいでしょうし、ベンチにいる間にコーチからのアドバイスなども受けやすいでしょう。「誰のせいで負けた」という、しょーもないプレッシャーも多少軽減されるかもしれません。まぁこちらでもほとんどのコーチは半信半疑で聞いてますが、5年もすれば当たり前になるでしょう。

ゴーリーだけでなく、スケーターも、育成レベルではレギュラーシフト、パワープレー、ペナルティキル等全ての状況で、出来るだけ均等にラインを回すように推奨されています。また、FW、DFというポジションだけでなく、点取り屋、チェッカー、守り専門のDFなど、プレーヤーの役割を安易に固定化しないことも求められています。
役割を固定化すれば、その役割に必要なスキルを短期間に取得出来て、表面上はチームとして機能しますが、子供たちの全般的なスキルやホッケーセンス向上の弊害になるからです。

これは、「絶好調のラインでも全く同じアイスタイムにすべきか?」とか「エース級の選手が審判に暴言を吐いてペナルティを連発しても均等にシフトするのか?」とか「ほとんど練習に来ないで試合だけ来る選手にも均等にアイスタイムを与えるのか?」等々、そういう話ではありません。前もって定められた、「正しい理由と条件」がある場合にアイスタイムが適切に増減されることはむしろ良いことですし、それが本当のコーチの采配というものです。ただし、遥々遠征に来てプレー時間0分という子供がいるのは、単なる愚行であり、お金を払っている父兄への裏切りです。「今日の作戦、下手な子は出さない」って、誰がどう考えても頭の悪い人のコーチングでしょう。

「いや、しかし、そうはいっても、うちは『初心者大歓迎、目指せ全日本』のチーム、そもそも論として、子供たちのレベルの差があり過ぎるし、相手チームには天才小学生がいるから、3セット目が出たら惨殺される…ましてや一発勝負のトーナメントで下手な方のゴーリーを出すなんて、負けたら何言われるか分かんないし…」

分かります。そりゃそうだ。

勝つことを目標に競技するのは当たり前。しかし、どう考えても大差がつくマッチアップの一発勝負トーナメント大会では、勝つという目標も、育成という目的も、いつまでたっても両立されることはありません。そして今、目にしている通り、競技は衰退の一途を辿ります。何度も繰り返すように、適切にレベル分けしたチーム作りとリーグ戦を中心とした競技構造改革なしに健全かつ徹底的な解決方法は無いのです。

しかし、悲しいかな、現状ではそれが国として達成される見込みはほとんどなく、あったとしても数十年~百年先でしょう(サッカーとバスケはかなりやってますけどね)。
だからこそ、練習試合とローカル大会を含めた現場の工夫が必要なんです。せっかくホッケー好きな子供と家族が集まる試合なんですから、一試合40分にしても良いから、週末で各チーム最低3-4試合できるように予選リーグと決勝トーナメントをやりましょうよ。選手数が足りないチームには、選手数が足りてて普段出られない3-4セット目の子供たちや控えゴーリーをレンタルするローカルルールを作りませんか? っていうか、そんなに点差が気になるなら、低学年大会でスコアとか個人記録つけるの止めましょうよ。ローカル大会で優勝とか、どうでもよくないですか? スウェーデンでは12Uまでスコア記録しません。理由は「大人が狂う」からです。

コーチの人たちも、絶対負けられない全国大会とか以外は、肩の力抜いて全員出場させて育てましょうよ。みんなが試合に出て上手くなって、誰が損するんですか? それとも、あなたはひょっとして、ホントは教える能力も、育てる能力もないから、いつまでも「下手な子は出さない作戦」なんじゃないんですか?

これは現場だけでは無理ですが、そもそも、その絶対に負けられないわりに、ほとんどの試合が大差で決まるような小学生の全国大会なんて今すぐ止めましょうよ。どうしてもやらなきゃいけないならせめてAとBに分けてレベル差を縮めましょう。それから、低学年の全国大会なんて、それなりにホッケーやってる国では、日本以外で聞いたことないです。

「こういう事業にはスポンサーがついてるからそう簡単にはいかない」等という事情もあるかもしれませんが、馬鹿の一つ覚えのテンプレート全国大会の冠スポンサーになってもらうんじゃなくて、あるべき育成の姿を目指すリーグとかの取り組みに対してスポンサリングしてもらえるようなプレゼンを考えましょうよ。

さんざん吠えましたが、私も長いコーチ人生で、それこそ『初心者大歓迎、目指せ全日本』みたいなチームをいくつも教えたので、育成と競技のバランスでは大いに悩み、間違えていたこともたくさんありました。正当なプレー機会を与えられず、最大限に育成出来なかったプレーヤーもたくさんいたはずです。申し訳ありませんでした。

一方、コーチを始めたばかりのころ、当時ほとんど初心者中心の筑波大学で、ステーション練習だけでなく、全学、医学、女子部合同の下級生練習や上級生と下級生を分けた試合を確立させたりして、そもそも論としての環境を変える、出来るだけの工夫をすることも学びました。また、香港ではおそらく世界最低の技術レベルの女子代表チームを一年で育てて、世界選手権で好成績を収めろという無理難題を振られましたが、何とか達成することが出来ました。さすがに代表チームなので、世界選手権本番でプレー時間均等は到底無理でしたが…

USA Hockeyのコーチクリニックで、最も印象に残ったのは、講師が積極的に過去の過ちを認めていたことです。「俺も昔は誰彼構わず怒鳴りまくって、それが良いコーチだと思ってた。効率悪い練習も一杯やった。いっぱい勝った。でもそれは間違ってた」と。大きな改革を成し遂げるときに、避けて通れないのは、過去の方法論との決別です。それを過去の成功体験の否定と捉えてしまい、受け入れられない人たちのなんと多いことか…

あと「海外では」に拒否反応を起こす人も同様。日本人に合ったやり方とやらで結果を出せず下降し続けて数十年。結局は他国の成功や、明らかに自分たちより優れたアイディアから学びたくも変えたくもないだけじゃん。そもそも日本人に合ったやり方を研究したり、集まって話し合った形跡もないんだから、結局そんなもの無いんでしょ? 北欧を筆頭に改革に成功した国がもれなく最初にやったことは、「利害を超えて、他国の事例も含めて、トップの人材が集まって話し合う」です。

「俺の時代はこうやって結果を残した」のは、それはそれで素晴らしいことで、大いに酒の肴にすれば良いじゃあないですか。でも現場での指導や、組織の方針は、「新しく、より良い方向にアップデートする」と考えれば良いだけです。スマホだってパソコンだって、アップデートするのは多少面倒ですが、すぐに慣れるし、全体としては確実に便利になるじゃあないですか。

どんなに素晴らしい業績を残した人間でも、やはり一人の経験だけで学べることは限られています。自分は若いころ、当然知識がありませんでした。いや、今もこれからも、まだまだ学ぶこと、考えることばかりだと思うことからしか、より良いホッケー環境は生まれませんし、アップデートすることがたくさんあるのは楽しいことですよ。

浅田真央さんがホッケーを盛り上げてくれるなんて、実際まったく具体性のない妄想に期待する前に(いやもちろん頑張って欲しいけど)、子供たちを辞めさせないコーチングとチーム運営を始めませんか? 今日から!

「押し付けられているように感じない教えは、本当の教えではない」
道元

「その人が既に知っていると思っていることを、
これから学び始めるのは不可能である」
エピクテトス

怒りの投稿、第一弾

さて、最近聞いて激怒した話はこれ。関東の某小学生チームで、控えゴーリーが、わざわざ遠征して練習試合をしても、まったく試合に出してもらえなかったという話。っていうかその子は基本的に、ボロ勝ちしていてもボロ負けしていても今年ほぼ試合に出ておらず「もう辞めたい」と漏らしているとのこと。そりゃそうだろ。

監督の言い分は「経験が足りないから」という、禅問答の様な回答。少しどころか全く試合に出さず、どこで何の経験を積めというのか?いやむしろ「試合に出ない修行」を経験しないと試合には出さないというのか?そういえば日本には球拾いとか一生補欠を美談にして、感動的CMにまでなるという恐ろしい文化が存在するので、監督は大まじめで言ってる可能性が高い。が、無知で無能であることは間違いないです。

これは「ここで諦めず、補欠の悔しさをバネにして来年レギュラーを取れば良い」というような、後から美談にすればいいみたいな低レベルのごまかしで済む問題ではない。適切な質と回数の練習と試合があってこその育成。その子の失われた一年、しかもかけがえない育成年代の一年は、誰も責任を取ることなく「苦しかったけど、あの頃はよく耐えた」くらいで酒の肴にされて終わるのです。もっと大きな問題は、こうした無知で無能な大人たちの犠牲になる子供たちが日本中にいるということです。

日本でホッケーがメジャーにならないとか、競技人口が増えないとかお嘆きの皆さん、一番大きな理由は、気候でもお金でも連盟でもマスコミでもなく、エンターテイメント化されてないことでもなく、イケメン選手を推さないことでも何でもなく、一部の無知で無能で無責任な現場の人間がホッケー好きの子供たちを辞めさせてることにあります。

下手な子が一人試合に出してもらえず拗ねてやめたくらいでそんな大げさに言わなくてもと思うなかれ。ホッケー超大国のカナダ、アメリカですら、子供のホッケー人口がどこで減るか?継続率(retention rate)の減少する年代の区切れとその要因を分析して、改革を進めています。なぜならば、ホッケーを始めた子供たちの人数以上にその年齢層のホッケー人口が増えることは基本的にあり得ないからです。小学生でホッケーに幻滅した子供たちが、後から大挙してホッケーに戻ってくることは無いし、あったとしても、逃された適切な成長機会を取り戻すことは出来ないのです。大学生や大人から始めるホッケーも、もちろん素晴らしい価値がありますが、根本的な競技力を支えるものではありません。

だから、ホッケーを盛んにしたいなら、今一番出来ることは、子供の現場でホッケー人口を減らすような、無知で無能な指導者を教育し直すか、そのような質の低い指導者を淘汰し、指導者の質を担保する仕組みを作ることです。ホッケー人口を増やすことは容易ではありませんし、日本よりはるかにホッケー人口が少ない国に負けるのですから、それが事の本質でもありません。しかし、ホッケー人口を減らさないことは今すぐ取り組めるし、それこそが取り組むべき課題だからです。なぜならば、いくらホッケー人口を増やしても、子供たちを辞めさせる構造が健在なら、穴の開いた花瓶に水を注ぎ続けるのと同じ。いつになっても花は咲きません。

怒りのあまり長くなってきたので、続きは次のポストで。

USA Hockey コーチングライセンスレベル1

先日USA Hockeyコーチングライセンスレベル1の模様を見る機会がありました。私がライセンスを取ったのはAmerican Development Model導入前だったので、最新の内容を始めて目にしました。特筆すべきことは、このレベルではコーチングやホッケー技術論がほぼゼロだということです。技術論は、USA Hockeyから提供されているコーチングアプリや資料、ネット上の情報でいくらでも勉強できるからでしょう。
では何の勉強をするかというと、

  1. NHL選手輩出とか世界ランキングを上げるとかではなく、すべての子供たちの可能性を出来るだけ高めること、子供たちが次の年に一つ上のレベルに上がる手助けをし、出来るだけホッケーを続けられるようにコーチすること。そのためにどうやって現代の子供たち、親たちと向け合えばいいか?という話。
  2. 何はなくとも子どもの心身の発育段階(性別によって若干異なる)に応じた指導をする。例えば8Uは瞬発的な運動。10U-12Uはとにかくスキル中心、14Uくらいで心肺機能が高まってから持久的なトレーニングをする。さらに18歳以上でもう一度スキル取得の扉が開かれる時があるという話。小学生に画一化された戦術の動きを教えることの無意味さと弊害。パックに群がる低学年に「固まらないで、広がって!」ということの無意味さと弊害、等。
  3. 子供たちの技術力、理解力に合わせた効率的な練習の組み立てから、説明の仕方のディスカッションと氷上での実践。当然スモールエリアのステーションが前提。全面練習なんてそもそも話題にもならなくなってきたのはADMが浸透してきた証拠です。

意外にも、少し技術論になったのはゴーリーの話題でした。レベル1からでもゴーリーを取り上げるようになったのは大きな前進です。しかし技術論に終始するのではなく、出来るだけ多くの子供たちにゴーリー経験してもらうこと、その方法等が中心でした。

という話を踏まえつつ、日本のユースホッケーの現状をいくつか耳にして、非常に腹立たしかったので、次のポストで吠えさせていただきます。

2019年4月13-14日 上越アイスホッケーワークショップ参加者募集中!

今年もやります上越ワークショップ!
GKクラスとプレーヤークラス高学年、低学年に分かれて実施します。高学年は既に定員に達したため、キャンセル待ちのみ受け付けてます。

お申し込み、お問い合わせは主催者までお願いします

joetsu.icehockey.ss@gmail.com

2019年5月10-12日 Hockey Lab Japan GKキャンプ・プロクラス@苫小牧 参加者募集開始!

2019年5月10-12日に苫小牧新ときわスケートセンターでHockey Lab Japan GKキャンプ・プロクラスを開催します。このキャンプは、プロおよび高レベルの大学、高校等でプレーするGKを対象に、世界レベルのスキルと知識を身に付けるための氷上練習とビデオ講義を行ないます。招待制、選抜制のため、お申し込みいただいた方のホッケー履歴等を参考に、参加の可否をお知らせします。

プロクラスに該当しない方は、GKキャンプ一般クラス(5/2-6、青森県三沢市)への参加を是非ご検討ください。http://hockeylabjapan.com/blog/?p=675

<GKキャンプ・プロクラス日程>
2019年 5/10(金)
17:15-18:00 受付(5/10のみ)
18:15-19:45 氷上練習 プロクラス

2019年 5/11-12(土日)
10:00-11:30 氷上練習 プロクラス
12:45-13:30 ビデオ講習
14:00-15:30 氷上練習 プロクラス

開催場所:新ときわスケートセンター
所在地:059-1261 苫小牧市ときわ町3丁目8-1
電話:0144-67-6600

インストラクター:若林弘紀(DYHA Jr Sun Devils ゴールテンディングディレクター、USA Hockey Level 5 マスターコーチ)、他
対象:プロおよび高レベルの大学、高校等でプレーするGK
プロクラス定員:12名
参加費:4月2日までに入金して頂いた場合
プロクラス:45,000円
4月2日以降に入金される場合
プロクラス:50,000円

*キャンプ参加費にはオリジナルキャンプジャージが含まれています。
*一部日程のみ参加ご希望の場合はご相談ください。
*参加費にはスポーツ傷害保険は含まれておりません。各自必ずご加入ください。
参加ご希望の方は以下の情報を明記の上、若林弘紀(info@worldhockeylab.comhiroki@hockeylabjapan.com)までメールで送信してください。折り返しお支払い方法等についてご連絡します。

  1. 名前
  2. ヨミガナ
  3. 参加ご希望のクリニック名(2019年5月10-12日 Hockey Lab Japan GKキャンプ・プロクラス@苫小牧
  4. 西暦で生年月日
  5. (在学中の方)キャンプ開催時の学年
  6. 参加クラス
    (A)プロクラス プロおよび高レベルの大学、高校等でプレーするGK
  7. 性別
  8. 所属チーム
  9. ホッケー歴(年数)
  10. 希望のジャージサイズ(XXL、XL、L、M、S、ユースXL、ユースL、ユースM、ユースS)2月20日以降に申し込まれた方には希望のサイズが用意できない場合がありますのでご了承ください。

    ---以下、高校生以下は保護者の連絡先、大学生および成人は本人の連絡先をご記入ください---
     
  11. 郵便番号
  12. 住所
  13. PCメールアドレス
  14. 携帯メールアドレス(こちらからの返信を受信できるよう、必ずhockeylabjapan.comworldhockeylab.compaypal.jpドメインのメールを受信できるよう設定してください)
  15. 携帯もしくは連絡の付きやすい電話番号
  16. 保護者名
  17. 備考、質問等(海外ホッケー留学の相談等も受けつけます)

<GKキャンプ一般クラス>
5/2-6に青森県三沢市にて、小学校4年生以上を対象とした、GKキャンプ一般クラスを開催しております。プロクラスに該当しない方は、一般クラスへの参加を是非ご検討ください。
http://hockeylabjapan.com/blog/?p=675

<2019年ボリス・ドロジェンコ・スケーティングキャンプ>
5/2-6に青森県三沢市にて、 ボリス・ドロジェンコ・スケーティングキャンプ・レベル1と2開催に向けて、現在詳細を調整中です。近日中に募集開始しますので、しばらくお待ちください。

Hockey Lab Japanの個人情報保護方針
http://www.hockeylabjapan.com/j/privacy.html

世界の女子アイスホッケー おさらい編

アイスホッケー女子日本代表が、めでたくピョンチャンオリンピック出場を決めたところで、2014年ソチオリンピック前に掲載した世界の女子アイスホッケーシリーズのリンクをまとめておきます。以前から女子ホッケーの動向を追っている人から、先の最終予選を機に女子アイスホッケーの存在を知った人まで、世界の女子アイスホッケーを知る入り口になればと思います。

4年前の記事ですので、その後女子ホッケー界にもいくつかの変化がありました。一番大きな変化は2015年にアメリカで始まった世界初の本格的女子プロリーグ、NWHLでしょう。給料は日本円にして100-250万円ですが、ついに女子ホッケーを仕事に出来るリーグが誕生し、日本の守護神・藤本選手もプレーしました。が、二年目の今シーズンには早くも経営が悪化し、シーズン途中で給料半減がアナウンスされるなど、まだまだ前途多難です。カナダ代表で世界最強の女子ゴーリーと呼ばれるShannon Szabados手が男子マイナープロと契約したりという話題もありましたね。

世界ランキングには顕著な変化はなく、世界選手権もアメリカとカナダが独占し、第二グループがロシアとフィンランド、その下にスウェーデンとスイスそしてドイツ、日本という構図がこの数年続いてます。

U18の様子などを見る限り、予想ではこの先チェコが伸びてきて、さらに眠れるホッケー大国ドイツが男女共に逆襲を始めると思いますが、上位グループに追い付くのは早くても数年かかります。

デンマーク、ハンガリー辺りも将来的に伸びて来る可能性がありますが、女子スポーツの振興はその国がお金と人材を投資する決断をするかにかかってますし、絶対的競技人口がまだまだ足りないので、何とも言えません。

日本の女子競技人口は2016年統計で2586人。9万人近いカナダ(87500人)、7万人以上のアメリカ(73076人)にははるかに及びませんが、ランキング上位のロシア(1964人)、スイス(1230人)より多く、フィンランド(5950人)、スウェーデン(5014人)、チェコ(2714人)に続いて世界6位です。男女合わせたホッケー競技人口(18988人)も長らく世界のトップ10以内にいますので、たしかにホッケーは日本国内ではマイナー競技ですが、国際的にみればリンクの数も含め非常に恵まれた競技資源ですね。

日本の女子ホッケーの競技環境はその他のマイナースポーツと同じくプロが存在せず、代表クラスの選手でもアルバイトをして生計を立て、さらに遠征費の自己負担などを強いられて来ましたが、ソチオリンピック出場を契機に、代表クラスの選手はサポートしてくれる企業に就職し、より競技に打ち込みやすい環境になりました。これでやっと女子ホッケー強豪国の環境に追いついてきた!と思いきや、実は日本は多くの女子ホッケー強豪国の環境を追い越しています。

日本のライバル国であるドイツ、スイスなどの女子代表選手は、軍の支援を受けるなどしている一部選手以外は本業を持ちながら競技を続けています。格上のフィンランド、スウェーデンも国内リーグでセミプロとして生活費を支給されているのは、基本的に北米等から来た外国人助っ人選手のみです。ロシアにはプロとしていくらかの給料をもらえるチームもあるようですが、リーグや代表選手がプロ化しているわけではありません。アメリカのプロリーグNWHLについては先に書いた通りで、プロとは言っても自立出来る給料をもらえるのはほんの一握りであり、ほとんどの選手は本業をしながらホッケーを続けています。カナダの女子最高峰リーグCWHLは遠征費、活動費は支払わなくて良いものの、防具は選手持ちであり、もちろん給料も出ないので、ほとんどの選手は仕事をしています。なお、アメリカ、カナダの代表選手は、オリンピックの年だけは国からのサポートを受けて、競技に集中しやすい経済環境を得ているようです。

女子ホッケー最強の北米二カ国の育成と強化を支えているのは、アメリカ大学ホッケーNCAAのプロなみの施設とコーチングを受けながら学業にも励めて、しかもトップ選手は奨学金ももらえるという素晴らしい環境です。事実、北米の代表選手たちのほとんどはNCAAを経ているか、または現役のNCAAの学生です。近年ではヨーロッパ等のトップ選手たちもNCAAやカナダの大学ホッケーCISで腕を磨いています。NCAAでは女性のコーチも当然プロとして男子ホッケーコーチと変わらない一流の給料をもらっています(女子チームのコーチだからという理由で給料に差がつくのは違憲)。羨ましいとしか言いようがない環境ですが、逆に女子ホッケーでここまですごい環境があるのはアメリカだけ。ホッケー超大国カナダですら及びません。

北米の圧倒的優位性から、女子ホッケー界の歴史に残るスター選手というのも、現時点ではほとんどがアメリカ、カナダの選手で占められており、北米以外で思いつくのはスウェーデンのErika HolstMaria RoothKim Martinくらいで、あとはギリギリでスロバキアのZuzana Tomcikovaや中国のGuo Hongという感じです。フィンランドのNoora RatyやスイスのFlorence Schellingなんかがこの先歴史に残るかもしれませんが、北米以外であげた選手にゴーリーが多いことからも分かるように、基準が「どれだけ北米チームと渡り合えたか」になってしまいますね。

というわけで、前置きが長くなりましたが、2013年版「世界の女子アイスホッケーシリーズ」のリンクはこちらです。

それでは。

世界の女子アイスホッケー (1) アメリカ編
世界の女子アイスホッケー (2) カナダ編
世界の女子アイスホッケー (3) ヨーロッパ編
世界の女子アイスホッケー (4) 中国編
世界の女子アイスホッケー (5) 番外編1
その他、女子アイスホッケー関連記事

*オリンピック関連の記事等で当ブログの内容を二次利用される場合は、事前に若林弘紀までご連絡頂くようお願いします。

帰ってきた『決定力をつけるには?』-その2

 Philosophy x Methods x Execution = Result

哲学 x 方法論 x 実行力 = 結果

オリンピック最終予選が遥か前のことのように感じる今日この頃です。『決定力をつけるには?』という表題と関係あるようで遠回りしまくりの思考実験、今回は改革を始める前に必要な現状認識と分析について考えてみます。

まず、そもそも現状の日本代表、いや日本のホッケーに五輪予選を突破できる力があったのかどうかということです。結果を見ればそれは明らかなのですが、それ以前に五輪予選を勝ち抜けるレベルの選手がそろっていたかということです。これは分析も何も、最終予選出場各国選手の所属チームを見れば明らかです。

オリンピック最終予選出場国で、世界二大リーグであるNHL、KHL現役選手を擁しないチームは日本以外に存在しないからです。

最終予選を突破した3カ国を見ると、ドイツはNHL選手7人、スロヴェニアは競技人口約1000人ながらNHL選手1人にKHL選手4人、ノルウェーはNHL選手2名ですが、これまた強豪のスウェーデン、フィンランドやスイスリーグ所属選手が他に何人も居ます。日本以外で予選敗退した国々にもNHLとKHL選手が数名いるか、もしくはカザフスタンのようにチーム丸ごとKHLです。世界ランキングが日本(20位)とあまり変わらないイタリア(18位)にもKHL選手(Thomas Larkin)が居ます。

日本代表はアジアリーガーと学生、そしてアメリカのジュニアリーグであるUSHL選手で構成されてますから、同じ舞台で戦うには分が悪すぎます。いやむしろラトビア戦などは、個々のレベルの差を考えれば大善戦と言えるでしょう。

現実的には、次回のオリンピック出場という目標以前に、最低KHLで戦うことが出来る選手を育てる必要があるのです。これは12カ国に限定されている男子オリンピックより参加国が多い(16カ国)、世界選手権トップディヴィジョン昇格を当面の目標に設定した場合でも同様です。トップディヴィジョン参加国で現役NHL、KHLでレギュラークラスの選手が居ない国は一つもないからです。主戦場であるアジアリーグのレベルをKHL並みか、せめてスイスリーグのレベルまで引き上げるという方法もありますが、これは短期間ではあまりにも非現実的です。

個々のレベルが及ばなくてもチームプレーの戦術で何とか…例えば徹底的に守って少ないチャンスを決めて勝つとか、逆に強気に点を取りにいくホッケーをすれば…とか考えたくもなるのですが、チームとしてのデータを見る限り上位国との差は、戦術や采配で縮められるレベルではないようです。

3試合のリーグ戦で本当に有意なデータを出すことは難しいのですが、それでも明らかなのは、最終予選D、E、Fグループ参加国の中で突出した日本の弱さです。SOGA(被ショットオンゴール数)131本は断トツの最下位でブービーのポーランドとですら42本…一試合分以上の差があります。それでも失点数が最下位ではなかったのは、ひとえにゴーリーのセーブ率(92.37%)が平均よりかなり上だったからに過ぎません。ショットオンゴール(55本)は最下位ではありませんが、3試合で1得点ということで、シュート決定率も断トツ最下位の1.82%。100本打っても2点入らないわけですから、現状一試合20本弱のシュート数の5倍以上打っても平均失点3.69を上回ることは不可能です。

さて、上記の表は、SP+SV%、つまりシュート決定率とゴーリーのセーブ率を足した値の大きいチームから順に並べられており、これでほぼ上位チームと下位チームがキレイに分かれます。NHLではさらに細かく5対5の状況だけでSP+SV%を算出しPDOもしくはSPSVと呼んでいます。この値はチームの(運も含む)調子の良さ、そして全体的な強さを最もよく反映する値と言われており、チームの順位(ポイント)と明確な相関関係があります。

打ったシュートをより確実に決め、打たれたシュートをより確実に止めるチームが勝つというのは当たり前の話なのですが、日本はどのようにその値を向上させればいいのでしょうか?一見すればゴーリーのセーブ率は充分な値ですので、あとは決定率を向上させればOK、例えばポーランドのように日本よりも少ない53本のシュート数で6点取れたらかなり良い勝負になるはず!と思ってしまいます。しかし守勢攻勢を示すバロメーターの一つであるSOGF/SOGA、総ショットオンゴール数を総被ショットオンゴール数で割った値を見ると、ポーランド(0.60)は日本より(0.42)も上。つまり、防戦一方でシュートを打っているわけではなく、互角に近い攻防の中で効率的に得点していることが分かります。ただしポーランドはゴーリーのセーブ率が悪すぎて、失点の効率が上回ってしまいました。

長期のリーグ戦データを見ると、総シュート数(CorsiやFenwickという値)と総得点、総被シュート数と総失点にも明確な関連性があります。つまり、防戦一方だけど少ないチャンスを生かして勝つという戦術は、たしかにジャイアントキリングの唯一に近い方法ですが、長期的には成功の確率は低く、パックコントロール能力を高めて出来るだけ攻勢のホッケーを目指すのが強化の王道ということになります。

点を取られても取り返す攻撃的なホッケーと言うのも聞こえは良いですが、一試合の総得失点が多い(つまり得点と失点が両方多い)チームの順位が上がるという関連性はなく、むしろ一試合あたりの総得失点が多いチームの順位は高くない傾向が若干見られます。

スキルが無いならガンガン当たってフィジカルに行けば勝てるんじゃないかというのも威勢が良いのですが、長期的に見るとヒット数とチームの順位には明確な関連性は無く、明らかに増加するのはペナルティキリング(キルプレー)の時間です。

長くなりましたが、現時点で日本がオリンピック出場や世界選手権トップディヴィジョンを目指すには、小手先の戦術や采配、選手選考くらいではまったくどうにもならない差を埋める必要があるということです。短期決戦なら何かの運や采配の妙でジャイアントキリング(この言葉嫌いです)出来るんじゃないかという甘い夢を見がちですが、短期決戦こそ総力戦であり、番狂わせを、それも何試合も続けることは不可能です。

ホッケー選手、チームの育成、強化のためには、過去の栄光や都合の良い願望を捨て、現代ホッケーのデータを集積し、ホッケーの本質を分析し、強い選手、チームを育てるために、近道などない王道を進む必要があります。

と言うわけで、次回はついに具体的に決定力を上げる方法論について書くつもりですので、気長にお待ちください。

それでは。

帰ってきた『決定力をつけるには?』-その1

Philosophy x Methods x Execution = Result
哲学 x 方法論 x 実行力 = 結果

スウェーデンの改革

いまやNHL選手の出身国比率でカナダ、アメリカに次ぐ第3の大国となったスウェーデンは、世界選手権やオリンピックでもメダル常連国です。しかし、古くからホッケー強豪国のひとつとして知られていたスウェーデンにも低迷の兆候がありました。1997年から2002年の間、U20世界選手権でまったくメダルが取れなくなったのです。そこでスウェーデンは国内のホッケー関係者120名を集結して大規模なワークショップを行い、スウェーデンホッケー再興のための改革を断行したのです。若年層への普及、育成、コーチングの強化等の結果、U20代表は2008、2009年に準優勝、2010年にも銅メダルと復活し、NHLに上位でドラフトされる数も急増しました。

フィンランドの改革

近年育成大国として名を馳せているフィンランドも2009年に国内のコーチ、GM、エージェント等を一同に会して、大改革への道筋を描きました。世代別代表コーチをフルタイムで雇用し、国内外のクラブチームを年間視察すると共に、各クラブが代表選手の育成についてのビジョンを共有出来るようにする、世界選手権の主催で得た収益を還元し、全国のクラブに巡回スキルコーチを派遣することで若年層のスキルの強化を図るなど、改革の内容は多岐にわたります。結果、近年ではU18、U20、男女正代表全てのカテゴリーで続々メダルを獲得し、2016年NHLドラフトでは上位5人中3人がフィンランド出身という快挙を成し遂げました。フィンランドの改革については北米でも関心が高く、多くの記事が書かれていますので、こちらこちらこれなんかもお読みください。

未来を描き、変革を成し遂げる力

現状への危機感から大規模な改革を行い成功した例はスウェーデンとフィンランドだけではありません。超大国アメリカでも2009年にAmerican Development Modelを開始、U18、U20年代で劇的な成果を上げつつあります。カナダ、アメリカ、ロシア、スウェーデン、フィンランド、チェコのビッグ6に続く中堅国となったスイスも育成に定評があります。長野オリンピックあたりまでは日本のよきライバルだったノルウェーやデンマークもNHL選手を何人も輩出する国になりました。

成功した改革にはいくつかの共通した特徴があります。まずは既存のプログラムへの危機感を早めに感じ取っていること。例えばスウェーデンが改革を始めたきっかけはU20代表の低迷でしたが、正代表は世界選手権で順調にメダルを獲得していました。しかし、U20代表の低迷は必ず数年後に正代表に影響するので、早めの改革を断行したのです。フィンランドも同様に、正代表は2007年に準優勝、2008年に3位に輝いてますがU20、U18世代の不調を見抜いて改革を始めました。ちなみにフィンランドは2014年のU18世界選手権準々決勝で最大のライバルであるスウェーデンに10-0と屈辱的大敗を喫した1996年生まれのチームを、2年後の2016年にU20で優勝させるという早業の改革もやってのけています。

次に、改革を実行するに当たり、スウェーデンはTommy Boustedt、フィンランドはErkka Westerlundという非常に強力なリーダーシップの元、国中のホッケー関係者達が意見や利害の対立を超えて協力し合あいました。どこの国でも、ホッケーに限らず、組織内に政治的対立があるのは世の常であり、ホッケー大国になればなるほど、内部での政治的対立が大きく、激しくなるのは当たり前のことです。特に大きな改革では既存の中心勢力が間違いなく割を食うわけですから、改革に対する抵抗も並大抵ではありません。それをまとめることができるリーダーが居る…というか、そういうリーダーを生み出せる組織でなければ、改革が成功する可能性はゼロでしょう。

もう一つの特徴は、組織に今までの自国のホッケーを大胆に変える覚悟と実行力があることです。例えばスウェーデンはそれまでも洗練されたスキルに基づくチームプレーが特長でしたが、北米のホッケーに比べてコーナーやゴール前などのフィジカルプレーが弱いのが問題と分析すると、タイトなスペースでも強い、新しいスウェーデンホッケーを構築しました。フィンランドの改革では、若年層に従来のチームプレーより個人技を徹底的に叩き込むためにスキルコーチを導入し、近年では世界屈指の個人技を誇るホッケー大国に変貌しました。そしてどちらの国も最大の弱点であったゴールテンディングを大改革していまやゴーリー大国です。

日本人に合った○○をすべき、とは言うけれど…

サッカーでもホッケーでも他のスポーツでも「日本人に合った」もしくは「日本人の特長を生かした○○を構築しよう」なんて簡単に言ってしまいますが、そのためにはまず正確な現状の分析が不可欠です。数人の外国人コーチに「日本人はスケーティングが上手く、機動力がある」とお世辞を言われたくらいでは本当にホッケーに必要なスケーティングが上手いことの裏づけにはなりません。大学時代に講義で聞いた話ですが、サッカーでは数十年前に日本代表とドイツ代表の持久力をテストした結果、日本人選手が単純な持久力では圧倒的に上回っていることが証明されたそうです。しかし国際試合になると、相手にボールを支配されて走らされっぱなしで、消耗するのは日本の体力ばかりだったとのことです。単純な走力と、ゲームに必要な走力は全く別物だと言うことです。私はボリス・ドロジェンコの現代的スケーティングシステムなんかを見るにつけて、日本人が漠然と描いているスケーティングの優位性はあっという間に消えてしまうような気がしています。

「中学校くらいまではホッケー大国ともスキルで互角に戦える」という話も散々聞きましたが、一年に数試合海外チームと戦ったくらいでは本当の差は分かりません。仮に「子供のうちはスキルで互角」が真実だったとしても、高校生くらいに取り返しがつかないくらい広がるスキルとホッケーIQとサイズの差などを縮める方法を考え付かない限りはほとんど無意味な情報です。

また、スキルでもチームプレーでも、体格ですら、日本人の弱点を克服することを避けて通ることは出来ません。スウェーデンもフィンランドも、自国選手の特長を生かしたホッケーで現状を打破しようなんて都合の良いことを言わず、自国の弱点克服に正面から取り組んだ結果、改革に成功しています。

というわけで、決定力をつける話にはまだまだ到達しませんが、自国のスポーツの未来を描き、改革を実行するために何が必要かを考えると、一番重要なのは現状の分析です。

次回は現状分析と未来の構築のために必要な情報処理について書きたいと思います。

それでは。

 

帰ってきた『決定力をつけるには?』-序章

ご無沙汰しておりました。

今年も4月から5月にかけて帰国し、東京、八戸、軽井沢でキャンプ、ワークショップを行ないました。参加者、企画者、そしてご協力いただいた皆様、ありがとうございました!

14303861_1238843479470428_1162712894_o

その後アメリカに戻り、オーストン・マシューズがドラフト一位指名となり大ブレークしたカルトスケーティングコーチ、ボリス・ドロジェンコのスケーティングキャンプでゴーリーを教えました。さらに7月にはフランソワ・アレールのチェコGKキャンプを手伝い、帰国後はJr. Coyotesのキャンプ、ノースダコタ州ファーゴでのゴーリーキャンプで指導しました。そして、カリフォルニア州ストックトンで、私の師匠の一人でもある元NHLシャークス、チャイナシャークスコーチのデレック・アイスラー氏のキャンプを手伝いました。こちらはゴーリーだけでなく、FW、DF含めた合宿形式キャンプのヘッドコーチだったので大忙しでした。バンタム(13-14歳)以上のグループ担当のヘッドコーチは昨年からNCAA D1入りしたアリゾナ州立大学のアシスタントコーチ。素晴らしいコーチ陣と仕事できて刺激になりました。8月の後半にはミネソタで再びボリスのキャンプの手伝い。このキャンプの企画者はショーン・ポディーン。ショーンも昨年私を通してボリスと出会い、すっかり信奉者になりました。そんな感じで忙しい春と夏を終え、Jr Coyotesは早くもシーズンが始まりました。

14114576_1225347050820071_420026485_o

こうして世界中でホッケーのシーズン開幕していますが、世界規模で大きなイベントと言えばホッケーワールドカップと2018年ピョンチャンオリンピック最終予選です。日本代表は世界ランキング上位のドイツ、ラトビア、オーストリアに敗れ、残念ながら出場権を逃してしまいました。旧ソ連の強豪国の一つラトビアに大接戦を演じるなど、非常に惜しい試合もあったのですが、3試合で1得点(事前の強化試合では4試合で4得点)では、現役NHLやKHL選手を擁するチーム相手に勝ち抜くことは出来ません。

やはり、日本の弱さは決定力不足なのか?

ソチオリンピックの後にも書きましたが、世界で戦うために…というか、一般論として、どのようなレベルでもホッケーチームとして成功するために、どのような方針でチーム、組織を構築していけば良いのか?決定力というキーワードから再び考えたいと思います。ボヘミアンコーチのブレーンストーミングのための妄想ですので、評論でも批評でもなく、何の影響力も持たないことを前提で、自由に気長に書かせていただくことをご了承ください。

まずは前回までの復習です。次のポストが書きあがるまで、ごゆるりとお読みください。

それでは。

決定力をつけるには?前編

決定力をつけるには?中編

決定力をつけるには?後編

決定力をつけるには?追補編1

決定力をつけるには?追補編2

 

 

恥を捨てて、世界に出よう!その2

日本から海外に出る選手が徐々に増えそうな今日この頃、良い傾向です。

って、ここまで書いといて、ホントは、アジアリーガーやスマイルジャパンがさらに上のリーグに挑戦する以外で、若年層が海外に育成環境を求める子供が増えるのは日本のホッケーにとっては良くないんですけどね。後に書きますが、本来プロ、もしくはそれに近いレベルに至るまでの育成は国内で行われる環境があるべきですし、その方が効率良く育成出来るというデータも出ています。

さて、いよいよ海外挑戦を考えた時、具体的に必要なものは何でしょうか?世界選手権などでプレーしてNHLやKHLにドラフトされたとか、NCAAチームから身分照会されてない限りは、日本人選手が海外のチームに知られている可能性はほぼないので、自分を売り込む資料が必要です。代理人を入れる場合でも、基本的な資料、つまり就職活動と同じくホッケー履歴書は自分で用意しておくべきです。

<ホッケー履歴書>

ホッケー履歴書には、まず自分のホッケー選手としての基本的情報を書きます。当然全部英語です。世界のどこでプレーする場合でも英語でOKです。

  • 名前
  • 生年月日(西暦)
  • 身長、体重(メートル法と、ヤードポンド法を併記してください)
  • ホッケーのポジション、シューティングハンド(ゴーリーはキャッチングハンド)

その次に過去から現在までシーズン毎のスタッツ(試合出場数、ゴール、アシスト、ポイント、ペナルティ時間、プラスマイナス等)所属チームの名前、大会名とともに列挙していきます。代表でプレーしている場合は、別に大会名とスタッツを列挙します。

スタッツ例

日本では世界選手権かアジアリーグプレーしない限りは国際的なスタッツがないんですが、とりあえず自分で記録を採り続けて公式スタッツの代わりにしても、無いよりはマシでしょう。スタッツを出せと言われて出せないのが一番困るので。

ちなみに世界選手権とアジアリーグを経験しているほとんどの日本人のスタッツはeurohockey.comや、eliteprospect.comに載ってますので、証拠としてリンクするのを忘れずに。世界最弱の香港女子代表監督だってこの通りです。世界大会に出るって、凄いことなんですね!

http://eurohockey.com/player/545484-hiroki-wakabayashi.html

さらにNCAAでのプレーを目指すのであれば平均評定=GPAを算出して書きましょう。これがある程度以下だと進学できません。進学出来ない場合は18-21歳でプロ転向するしかありませんが、世界選手権かアジアリーグのスタッツが無いと、海外ではちょっと難しいです。良い子のホッケー選手は将来の可能性を広げるため、勉学に励みましょう。

あとは、受賞歴、選手としての自分の特徴を正直に、かつ、極めてポジティブに書きましょう。日本人的に無駄な謙遜をする必要はありません、、、が、だからと言って盛り過ぎると、併記する推薦人(reference)の評判を下げることになりますので、注意が必要です。

Referenceとは、自分を推薦してくれる人の連絡先のことで、過去のコーチ、GMなどが代表的です。個人情報ですので、先に事情を話して許可をもらってから載せましょう。履歴書に興味を持ってくれたチームが、事前にその選手の評価を定めるために、referenceの人々に電話するのはよくあることです。私も推薦人になったことが何度もありますが、いくら過去の教え子でも、大げさに評価したり、弱点を隠す嘘を言ったり、特に人格について嘘を言うと、後々私自身のコーチとしての評価に返ってくるので、正直に答えざるを得ません。また、コーチに合わない、チームメイトと問題を起こした、親がエゲツない、などでチームを点々としていると、いつの間にか推薦人になってくれる人がいなくなります。

世の中良くも悪くも、人間関係は重要です。健全な意味で、コーチやチームメイトに好かれるプレーヤーになろうとするのは当たり前のことです。って、今更自分に言い聞かせたりして。

ホッケー履歴書の記入例は以下のサイトで勉強しましょう。

10 Steps to a Great Hockey Resume

<ハイライトビデオ>

次に用意したいのが、自分のプレーのハイライトビデオです。世界選手権かアジアリーグを経験しないで、日本からいきなりどこかの国にトライアウトに行こうと思っても、ホッケー履歴書で跳ねられる可能性が高いです。だって、日本の高校大学リーグのスタッツじゃあ比較対象がないですから。出来るだけ自分の試合のビデオを残しておいて、ハイライトビデオに編集しましょう。

ビデオの最初には、ホッケー履歴書の基本情報を入れて、後は自分のハイライトになるシーンをつなげます。レベルが違いすぎるチーム相手に大活躍、みたいなシーンばかり入れないように気をつけましょう。そんなの誰も信用しませんし、第一自分がやっているレベルが低いことを伝えてどーする?ってことです。

また、ハイライトは攻守両面をカバーするようにしましょう。コーチは派手な得点シーンだけでなく、DFは手堅い守りやシンプルなブレークアウト、FWならフォアチェックとバックチェックやDFでの守り、コーナーでの競り合い、ゴーリーならスーパーセーブだけでなく堅実なセーブ、パックハンドリングなんかも見たいものです。

長大な作品は誰も見てくれないので、10分以内にまとめるのが良いでしょう。興味を持ってくれた時点で一試合分のビデオを見てもらえるかもしれないので。

出来た作品は当然YouTubeとかにアップしましょう。YouTubeでスカウトされたって話も聞きますしね。その他、ホッケー履歴書やハイライトビデオをリンクしてスカウトされるためのサイトも幾つかあるので、登録すると良いかもしれません。

ダメだまだまだ具体的な手続きにいきませんね。この先はまた次回!

それでは。