帰ってきた『決定力をつけるには?』-その1

Philosophy x Methods x Execution = Result
哲学 x 方法論 x 実行力 = 結果

スウェーデンの改革

いまやNHL選手の出身国比率でカナダ、アメリカに次ぐ第3の大国となったスウェーデンは、世界選手権やオリンピックでもメダル常連国です。しかし、古くからホッケー強豪国のひとつとして知られていたスウェーデンにも低迷の兆候がありました。1997年から2002年の間、U20世界選手権でまったくメダルが取れなくなったのです。そこでスウェーデンは国内のホッケー関係者120名を集結して大規模なワークショップを行い、スウェーデンホッケー再興のための改革を断行したのです。若年層への普及、育成、コーチングの強化等の結果、U20代表は2008、2009年に準優勝、2010年にも銅メダルと復活し、NHLに上位でドラフトされる数も急増しました。

フィンランドの改革

近年育成大国として名を馳せているフィンランドも2009年に国内のコーチ、GM、エージェント等を一同に会して、大改革への道筋を描きました。世代別代表コーチをフルタイムで雇用し、国内外のクラブチームを年間視察すると共に、各クラブが代表選手の育成についてのビジョンを共有出来るようにする、世界選手権の主催で得た収益を還元し、全国のクラブに巡回スキルコーチを派遣することで若年層のスキルの強化を図るなど、改革の内容は多岐にわたります。結果、近年ではU18、U20、男女正代表全てのカテゴリーで続々メダルを獲得し、2016年NHLドラフトでは上位5人中3人がフィンランド出身という快挙を成し遂げました。フィンランドの改革については北米でも関心が高く、多くの記事が書かれていますので、こちらこちらこれなんかもお読みください。

未来を描き、変革を成し遂げる力

現状への危機感から大規模な改革を行い成功した例はスウェーデンとフィンランドだけではありません。超大国アメリカでも2009年にAmerican Development Modelを開始、U18、U20年代で劇的な成果を上げつつあります。カナダ、アメリカ、ロシア、スウェーデン、フィンランド、チェコのビッグ6に続く中堅国となったスイスも育成に定評があります。長野オリンピックあたりまでは日本のよきライバルだったノルウェーやデンマークもNHL選手を何人も輩出する国になりました。

成功した改革にはいくつかの共通した特徴があります。まずは既存のプログラムへの危機感を早めに感じ取っていること。例えばスウェーデンが改革を始めたきっかけはU20代表の低迷でしたが、正代表は世界選手権で順調にメダルを獲得していました。しかし、U20代表の低迷は必ず数年後に正代表に影響するので、早めの改革を断行したのです。フィンランドも同様に、正代表は2007年に準優勝、2008年に3位に輝いてますがU20、U18世代の不調を見抜いて改革を始めました。ちなみにフィンランドは2014年のU18世界選手権準々決勝で最大のライバルであるスウェーデンに10-0と屈辱的大敗を喫した1996年生まれのチームを、2年後の2016年にU20で優勝させるという早業の改革もやってのけています。

次に、改革を実行するに当たり、スウェーデンはTommy Boustedt、フィンランドはErkka Westerlundという非常に強力なリーダーシップの元、国中のホッケー関係者達が意見や利害の対立を超えて協力し合あいました。どこの国でも、ホッケーに限らず、組織内に政治的対立があるのは世の常であり、ホッケー大国になればなるほど、内部での政治的対立が大きく、激しくなるのは当たり前のことです。特に大きな改革では既存の中心勢力が間違いなく割を食うわけですから、改革に対する抵抗も並大抵ではありません。それをまとめることができるリーダーが居る…というか、そういうリーダーを生み出せる組織でなければ、改革が成功する可能性はゼロでしょう。

もう一つの特徴は、組織に今までの自国のホッケーを大胆に変える覚悟と実行力があることです。例えばスウェーデンはそれまでも洗練されたスキルに基づくチームプレーが特長でしたが、北米のホッケーに比べてコーナーやゴール前などのフィジカルプレーが弱いのが問題と分析すると、タイトなスペースでも強い、新しいスウェーデンホッケーを構築しました。フィンランドの改革では、若年層に従来のチームプレーより個人技を徹底的に叩き込むためにスキルコーチを導入し、近年では世界屈指の個人技を誇るホッケー大国に変貌しました。そしてどちらの国も最大の弱点であったゴールテンディングを大改革していまやゴーリー大国です。

日本人に合った○○をすべき、とは言うけれど…

サッカーでもホッケーでも他のスポーツでも「日本人に合った」もしくは「日本人の特長を生かした○○を構築しよう」なんて簡単に言ってしまいますが、そのためにはまず正確な現状の分析が不可欠です。数人の外国人コーチに「日本人はスケーティングが上手く、機動力がある」とお世辞を言われたくらいでは本当にホッケーに必要なスケーティングが上手いことの裏づけにはなりません。大学時代に講義で聞いた話ですが、サッカーでは数十年前に日本代表とドイツ代表の持久力をテストした結果、日本人選手が単純な持久力では圧倒的に上回っていることが証明されたそうです。しかし国際試合になると、相手にボールを支配されて走らされっぱなしで、消耗するのは日本の体力ばかりだったとのことです。単純な走力と、ゲームに必要な走力は全く別物だと言うことです。私はボリス・ドロジェンコの現代的スケーティングシステムなんかを見るにつけて、日本人が漠然と描いているスケーティングの優位性はあっという間に消えてしまうような気がしています。

「中学校くらいまではホッケー大国ともスキルで互角に戦える」という話も散々聞きましたが、一年に数試合海外チームと戦ったくらいでは本当の差は分かりません。仮に「子供のうちはスキルで互角」が真実だったとしても、高校生くらいに取り返しがつかないくらい広がるスキルとホッケーIQとサイズの差などを縮める方法を考え付かない限りはほとんど無意味な情報です。

また、スキルでもチームプレーでも、体格ですら、日本人の弱点を克服することを避けて通ることは出来ません。スウェーデンもフィンランドも、自国選手の特長を生かしたホッケーで現状を打破しようなんて都合の良いことを言わず、自国の弱点克服に正面から取り組んだ結果、改革に成功しています。

というわけで、決定力をつける話にはまだまだ到達しませんが、自国のスポーツの未来を描き、改革を実行するために何が必要かを考えると、一番重要なのは現状の分析です。

次回は現状分析と未来の構築のために必要な情報処理について書きたいと思います。

それでは。

 

帰ってきた『決定力をつけるには?』-その1” への2件のコメント

  1. 読んだら決定力が手に入る!と思うほど無邪気に拝読してはおりませんが、それにしても導入から物語が壮大で眩暈を覚えています。しかしながら長年のご経験からの展望の続編をとても楽しみにしております。願わくは子供達がホッケーをしている間に(あと数年)conclusionを読みたいなぁと思っています。

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