世界の女子アイスホッケー (2) カナダ編

まずはコメントへの返信から。

ICEMANさん>

まぁ、、、アメリカの大学ホッケーというか大学スポーツ全般があまりにも巨大なビジネスとして成り立っているので、ちょっとやそっとで追いつける代物ではありません。プロが存在する競技ならまだしも、女子ホッケーのように実質的なプロがない分野では特に顕著です。しかし、実はアメリカと、カナダ以外の国々では、日本も含めて女子ホッケーの環境はあまり変わりません。日本で一時期盛んだった実業団スポーツのような形式にプロ的な運営を取り入れて、セミプロとしてでも食っていける仕組みを作れば世界のトップ4に食い込む余地は十分あると思いますよ。

さて、アメリカが世界最高の女子ホッケーリーグをもつ一方、カナダは女子代表の実力で世界最強です。過去4回のオリンピックでは、長野でアメリカに惜敗したものの、その後3連覇中、世界選手権でも1990年以来14回中10回優勝。しかし追うアメリカは2005年の初優勝以降4回世界の頂点に立ち(その間カナダは2回)、さらに2008年から新設されたU18世界選手権ではアメリカ3回、カナダ2回優勝ですので、今後実力逆転の可能性も十分感じさせます。

ホッケーの母国カナダは617,107人と、圧倒的な競技人口を誇り(2位はアメリカで511,178人)、女子の競技人口も86,675人とダントツです(2位アメリカ66,692人)。全体の競技人口第3位がチェコの95,090人で、女子3位がフィンランドの3,945人ですので、男女ともに北米の競技人口がいかに世界で突出しているか分かります(世界のホッケー人口の3分の2が北米に偏在)。ちなみに日本は競技人口19,975人で世界9位、女子は2,720人で世界5位ですので、数だけ見れば意外とホッケー大国です。(以上 IIHF 2012 Survey of Players より

さて、カナダの女子ユースホッケーがアメリカ以上に盛んなのは説明するまでもないことですが、18歳までのユースホッケーを終えると、トップレベルの選手はアメリカの大学ホッケーにごっそりと流出します。ですから、ほとんどのカナダ女子代表選手はNCAA D1所属か、卒業生で占められています。カナダにもアメリカNCAAに相当するCISという大学スポーツ組織が存在し、スポーツ奨学金の制度もあるのですが、やはり大学そのもののレベルや資金・環境面などでアメリカに対抗できるはずはなく、CISでプレーする代表選手は非常に限られています。せっかくユースホッケーで育てたタレントがライバル国に流出し、大学リーグのレベルを最高に高めてしまうわけですから、カナダとしては歯がゆいことかも知れませんが、あ、これはNHLも似たような図式ですね。

とはいえ、CISのレベルも決して低いわけではなく、ドイツ、ノルウェーの現役代表選手、日本の元代表選手(桐渕絵理:Carlton University)等もプレーしていて、NCAA D1の中堅から下位の力を保っています。

さて、アメリカ編でも書いたように、世界の女子ホッケーの直面する最大の課題はNCAA D1という世界最高峰リーグでプレーした後、代表選手達が高いレベルでプレーをし続ける環境が不足しているということです。社会人になった後もできるだけプロに近い環境で、トップレベルのホッケーを続けられるように、北米では女子のセミプロリーグが過去に何回も創設されていますが、いずれも十分な成功を得られないまま消滅しています。

現在もカナダとアメリカの一部の都市で、大学卒業後のエリート選手の受け皿としてCWHL(Canadian Women’s Hockey League) が運営されています。カナダ、アメリカその他の国々の代表選手が集うこのリーグですが、セミプロと謳うものの運営費以外は基本的に選手の自腹で、用具も選手自身が購入しているようです。NHLチームとの部分的提携などもされているようですが、チームに年間$30,000じゃあねぇ、、、

ではカナダのトップレベル社会人選手達がどうやって生きているかというと、、、ほとんどがフルタイムの仕事をしながら週数回の練習と遠征でホッケーを続けているのが現状です。JOC強化指定選手同様、Meghan Agostaのようにトップクラスの代表選手はカナダのオリンピック委員会から強化費を支給されているようですが「アパート代にもならないくらい」だそうで、NIKEからのスポンサー料、ホッケーキャンプでの指導料などで生計を立てているそうです。このような環境は、アメリカのトップレベル社会人選手であっても同様です。まぁもちろん合宿費に自己負担金があるなんてことはないですが。女子ホッケー界で完全なプロとして生きるためには、現時点ではNCAAかCISのコーチになるしかありません。

というわけで、北米では、圧倒的な競技人口を背景に数多くのタレントが生み出され、NCAAという世界最高リーグのプロ並みの環境でプレーし、世界の女子アイスホッケー界をリードしていますが、その他の女子団体球技と同様に、大学卒業後にトップレベルの選手が競技に専念して生活していけるプロの環境はなく、代表選手ですら仕事をしながらプレーを続けています。つまり、日本の女子の環境とそれほど差があるわけではありません。もちろん就業形態がかなり異なるので、日々の練習や遠征に時間を取りやすいという差はあると思われますが。

次回はヨーロッパ編です。

それでは。

注:ソチオリンピック関連の記事等で当ブログの内容を二次利用される場合は、事前に若林弘紀までご連絡頂くようお願いします。

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