帰ってきた『決定力をつけるには?』-その2

 Philosophy x Methods x Execution = Result

哲学 x 方法論 x 実行力 = 結果

オリンピック最終予選が遥か前のことのように感じる今日この頃です。『決定力をつけるには?』という表題と関係あるようで遠回りしまくりの思考実験、今回は改革を始める前に必要な現状認識と分析について考えてみます。

まず、そもそも現状の日本代表、いや日本のホッケーに五輪予選を突破できる力があったのかどうかということです。結果を見ればそれは明らかなのですが、それ以前に五輪予選を勝ち抜けるレベルの選手がそろっていたかということです。これは分析も何も、最終予選出場各国選手の所属チームを見れば明らかです。

オリンピック最終予選出場国で、世界二大リーグであるNHL、KHL現役選手を擁しないチームは日本以外に存在しないからです。

最終予選を突破した3カ国を見ると、ドイツはNHL選手7人、スロヴェニアは競技人口約1000人ながらNHL選手1人にKHL選手4人、ノルウェーはNHL選手2名ですが、これまた強豪のスウェーデン、フィンランドやスイスリーグ所属選手が他に何人も居ます。日本以外で予選敗退した国々にもNHLとKHL選手が数名いるか、もしくはカザフスタンのようにチーム丸ごとKHLです。世界ランキングが日本(20位)とあまり変わらないイタリア(18位)にもKHL選手(Thomas Larkin)が居ます。

日本代表はアジアリーガーと学生、そしてアメリカのジュニアリーグであるUSHL選手で構成されてますから、同じ舞台で戦うには分が悪すぎます。いやむしろラトビア戦などは、個々のレベルの差を考えれば大善戦と言えるでしょう。

現実的には、次回のオリンピック出場という目標以前に、最低KHLで戦うことが出来る選手を育てる必要があるのです。これは12カ国に限定されている男子オリンピックより参加国が多い(16カ国)、世界選手権トップディヴィジョン昇格を当面の目標に設定した場合でも同様です。トップディヴィジョン参加国で現役NHL、KHLでレギュラークラスの選手が居ない国は一つもないからです。主戦場であるアジアリーグのレベルをKHL並みか、せめてスイスリーグのレベルまで引き上げるという方法もありますが、これは短期間ではあまりにも非現実的です。

個々のレベルが及ばなくてもチームプレーの戦術で何とか…例えば徹底的に守って少ないチャンスを決めて勝つとか、逆に強気に点を取りにいくホッケーをすれば…とか考えたくもなるのですが、チームとしてのデータを見る限り上位国との差は、戦術や采配で縮められるレベルではないようです。

3試合のリーグ戦で本当に有意なデータを出すことは難しいのですが、それでも明らかなのは、最終予選D、E、Fグループ参加国の中で突出した日本の弱さです。SOGA(被ショットオンゴール数)131本は断トツの最下位でブービーのポーランドとですら42本…一試合分以上の差があります。それでも失点数が最下位ではなかったのは、ひとえにゴーリーのセーブ率(92.37%)が平均よりかなり上だったからに過ぎません。ショットオンゴール(55本)は最下位ではありませんが、3試合で1得点ということで、シュート決定率も断トツ最下位の1.82%。100本打っても2点入らないわけですから、現状一試合20本弱のシュート数の5倍以上打っても平均失点3.69を上回ることは不可能です。

さて、上記の表は、SP+SV%、つまりシュート決定率とゴーリーのセーブ率を足した値の大きいチームから順に並べられており、これでほぼ上位チームと下位チームがキレイに分かれます。NHLではさらに細かく5対5の状況だけでSP+SV%を算出しPDOもしくはSPSVと呼んでいます。この値はチームの(運も含む)調子の良さ、そして全体的な強さを最もよく反映する値と言われており、チームの順位(ポイント)と明確な相関関係があります。

打ったシュートをより確実に決め、打たれたシュートをより確実に止めるチームが勝つというのは当たり前の話なのですが、日本はどのようにその値を向上させればいいのでしょうか?一見すればゴーリーのセーブ率は充分な値ですので、あとは決定率を向上させればOK、例えばポーランドのように日本よりも少ない53本のシュート数で6点取れたらかなり良い勝負になるはず!と思ってしまいます。しかし守勢攻勢を示すバロメーターの一つであるSOGF/SOGA、総ショットオンゴール数を総被ショットオンゴール数で割った値を見ると、ポーランド(0.60)は日本より(0.42)も上。つまり、防戦一方でシュートを打っているわけではなく、互角に近い攻防の中で効率的に得点していることが分かります。ただしポーランドはゴーリーのセーブ率が悪すぎて、失点の効率が上回ってしまいました。

長期のリーグ戦データを見ると、総シュート数(CorsiやFenwickという値)と総得点、総被シュート数と総失点にも明確な関連性があります。つまり、防戦一方だけど少ないチャンスを生かして勝つという戦術は、たしかにジャイアントキリングの唯一に近い方法ですが、長期的には成功の確率は低く、パックコントロール能力を高めて出来るだけ攻勢のホッケーを目指すのが強化の王道ということになります。

点を取られても取り返す攻撃的なホッケーと言うのも聞こえは良いですが、一試合の総得失点が多い(つまり得点と失点が両方多い)チームの順位が上がるという関連性はなく、むしろ一試合あたりの総得失点が多いチームの順位は高くない傾向が若干見られます。

スキルが無いならガンガン当たってフィジカルに行けば勝てるんじゃないかというのも威勢が良いのですが、長期的に見るとヒット数とチームの順位には明確な関連性は無く、明らかに増加するのはペナルティキリング(キルプレー)の時間です。

長くなりましたが、現時点で日本がオリンピック出場や世界選手権トップディヴィジョンを目指すには、小手先の戦術や采配、選手選考くらいではまったくどうにもならない差を埋める必要があるということです。短期決戦なら何かの運や采配の妙でジャイアントキリング(この言葉嫌いです)出来るんじゃないかという甘い夢を見がちですが、短期決戦こそ総力戦であり、番狂わせを、それも何試合も続けることは不可能です。

ホッケー選手、チームの育成、強化のためには、過去の栄光や都合の良い願望を捨て、現代ホッケーのデータを集積し、ホッケーの本質を分析し、強い選手、チームを育てるために、近道などない王道を進む必要があります。

と言うわけで、次回はついに具体的に決定力を上げる方法論について書くつもりですので、気長にお待ちください。

それでは。