怒りの投稿、第二弾

それでは、本当に子供の育成を考えた時、現代ホッケーではどのようにゴーリーを起用すればいいのか? 練習試合やリーグ戦なら最低半々の起用が当然です。一試合毎先発でも良いですが、出来ればどの試合でも2ピリ途中で交代すべきです。アップ無しに急に出たら、とか、ゲームの流れとか、大人が思うほど子供には関係ありません。一か月もすれば慣れますし、ゴーリー全員が試合のいろんな状況に慣れることそのものに意味があります。全員NHLにドラフトされているレベルのアメリカ代表U20チームですら、エキシビションでは半々の起用を普通にやります。

USA Hockeyでは、その考えをさらに進めて「ユースホッケーでは先発、控えという概念を無くすべき」と、各種コーチクリニックで説いてます。つまり、一試合目で1ピリ始めから2ピリ半分までプレーしたゴーリーは、二試合目では2ピリ半分から3ピリ終了までプレーするということです。
さらに12Uまでは、各ピリオドの途中で交代することも推奨されています。つまり、各ピリオドを半分ずつをプレーする、これも試合ごとに試合開始からプレーするゴーリーを替えて、どちらのゴーリーも1ピリ序盤の緊張感、試合終了の大事な時間を経験することが出来るようにすべきとのこと。

そもそも子供たちには、1試合通して保てるような集中力はありません。7-8分で交代する方が失点のショックからも立ち直りやすいでしょうし、ベンチにいる間にコーチからのアドバイスなども受けやすいでしょう。「誰のせいで負けた」という、しょーもないプレッシャーも多少軽減されるかもしれません。まぁこちらでもほとんどのコーチは半信半疑で聞いてますが、5年もすれば当たり前になるでしょう。

ゴーリーだけでなく、スケーターも、育成レベルではレギュラーシフト、パワープレー、ペナルティキル等全ての状況で、出来るだけ均等にラインを回すように推奨されています。また、FW、DFというポジションだけでなく、点取り屋、チェッカー、守り専門のDFなど、プレーヤーの役割を安易に固定化しないことも求められています。
役割を固定化すれば、その役割に必要なスキルを短期間に取得出来て、表面上はチームとして機能しますが、子供たちの全般的なスキルやホッケーセンス向上の弊害になるからです。

これは、「絶好調のラインでも全く同じアイスタイムにすべきか?」とか「エース級の選手が審判に暴言を吐いてペナルティを連発しても均等にシフトするのか?」とか「ほとんど練習に来ないで試合だけ来る選手にも均等にアイスタイムを与えるのか?」等々、そういう話ではありません。前もって定められた、「正しい理由と条件」がある場合にアイスタイムが適切に増減されることはむしろ良いことですし、それが本当のコーチの采配というものです。ただし、遥々遠征に来てプレー時間0分という子供がいるのは、単なる愚行であり、お金を払っている父兄への裏切りです。「今日の作戦、下手な子は出さない」って、誰がどう考えても頭の悪い人のコーチングでしょう。

「いや、しかし、そうはいっても、うちは『初心者大歓迎、目指せ全日本』のチーム、そもそも論として、子供たちのレベルの差があり過ぎるし、相手チームには天才小学生がいるから、3セット目が出たら惨殺される…ましてや一発勝負のトーナメントで下手な方のゴーリーを出すなんて、負けたら何言われるか分かんないし…」

分かります。そりゃそうだ。

勝つことを目標に競技するのは当たり前。しかし、どう考えても大差がつくマッチアップの一発勝負トーナメント大会では、勝つという目標も、育成という目的も、いつまでたっても両立されることはありません。そして今、目にしている通り、競技は衰退の一途を辿ります。何度も繰り返すように、適切にレベル分けしたチーム作りとリーグ戦を中心とした競技構造改革なしに健全かつ徹底的な解決方法は無いのです。

しかし、悲しいかな、現状ではそれが国として達成される見込みはほとんどなく、あったとしても数十年~百年先でしょう(サッカーとバスケはかなりやってますけどね)。
だからこそ、練習試合とローカル大会を含めた現場の工夫が必要なんです。せっかくホッケー好きな子供と家族が集まる試合なんですから、一試合40分にしても良いから、週末で各チーム最低3-4試合できるように予選リーグと決勝トーナメントをやりましょうよ。選手数が足りないチームには、選手数が足りてて普段出られない3-4セット目の子供たちや控えゴーリーをレンタルするローカルルールを作りませんか? っていうか、そんなに点差が気になるなら、低学年大会でスコアとか個人記録つけるの止めましょうよ。ローカル大会で優勝とか、どうでもよくないですか? スウェーデンでは12Uまでスコア記録しません。理由は「大人が狂う」からです。

コーチの人たちも、絶対負けられない全国大会とか以外は、肩の力抜いて全員出場させて育てましょうよ。みんなが試合に出て上手くなって、誰が損するんですか? それとも、あなたはひょっとして、ホントは教える能力も、育てる能力もないから、いつまでも「下手な子は出さない作戦」なんじゃないんですか?

これは現場だけでは無理ですが、そもそも、その絶対に負けられないわりに、ほとんどの試合が大差で決まるような小学生の全国大会なんて今すぐ止めましょうよ。どうしてもやらなきゃいけないならせめてAとBに分けてレベル差を縮めましょう。それから、低学年の全国大会なんて、それなりにホッケーやってる国では、日本以外で聞いたことないです。

「こういう事業にはスポンサーがついてるからそう簡単にはいかない」等という事情もあるかもしれませんが、馬鹿の一つ覚えのテンプレート全国大会の冠スポンサーになってもらうんじゃなくて、あるべき育成の姿を目指すリーグとかの取り組みに対してスポンサリングしてもらえるようなプレゼンを考えましょうよ。

さんざん吠えましたが、私も長いコーチ人生で、それこそ『初心者大歓迎、目指せ全日本』みたいなチームをいくつも教えたので、育成と競技のバランスでは大いに悩み、間違えていたこともたくさんありました。正当なプレー機会を与えられず、最大限に育成出来なかったプレーヤーもたくさんいたはずです。申し訳ありませんでした。

一方、コーチを始めたばかりのころ、当時ほとんど初心者中心の筑波大学で、ステーション練習だけでなく、全学、医学、女子部合同の下級生練習や上級生と下級生を分けた試合を確立させたりして、そもそも論としての環境を変える、出来るだけの工夫をすることも学びました。また、香港ではおそらく世界最低の技術レベルの女子代表チームを一年で育てて、世界選手権で好成績を収めろという無理難題を振られましたが、何とか達成することが出来ました。さすがに代表チームなので、世界選手権本番でプレー時間均等は到底無理でしたが…

USA Hockeyのコーチクリニックで、最も印象に残ったのは、講師が積極的に過去の過ちを認めていたことです。「俺も昔は誰彼構わず怒鳴りまくって、それが良いコーチだと思ってた。効率悪い練習も一杯やった。いっぱい勝った。でもそれは間違ってた」と。大きな改革を成し遂げるときに、避けて通れないのは、過去の方法論との決別です。それを過去の成功体験の否定と捉えてしまい、受け入れられない人たちのなんと多いことか…

あと「海外では」に拒否反応を起こす人も同様。日本人に合ったやり方とやらで結果を出せず下降し続けて数十年。結局は他国の成功や、明らかに自分たちより優れたアイディアから学びたくも変えたくもないだけじゃん。そもそも日本人に合ったやり方を研究したり、集まって話し合った形跡もないんだから、結局そんなもの無いんでしょ? 北欧を筆頭に改革に成功した国がもれなく最初にやったことは、「利害を超えて、他国の事例も含めて、トップの人材が集まって話し合う」です。

「俺の時代はこうやって結果を残した」のは、それはそれで素晴らしいことで、大いに酒の肴にすれば良いじゃあないですか。でも現場での指導や、組織の方針は、「新しく、より良い方向にアップデートする」と考えれば良いだけです。スマホだってパソコンだって、アップデートするのは多少面倒ですが、すぐに慣れるし、全体としては確実に便利になるじゃあないですか。

どんなに素晴らしい業績を残した人間でも、やはり一人の経験だけで学べることは限られています。自分は若いころ、当然知識がありませんでした。いや、今もこれからも、まだまだ学ぶこと、考えることばかりだと思うことからしか、より良いホッケー環境は生まれませんし、アップデートすることがたくさんあるのは楽しいことですよ。

浅田真央さんがホッケーを盛り上げてくれるなんて、実際まったく具体性のない妄想に期待する前に(いやもちろん頑張って欲しいけど)、子供たちを辞めさせないコーチングとチーム運営を始めませんか? 今日から!

「押し付けられているように感じない教えは、本当の教えではない」
道元

「その人が既に知っていると思っていることを、
これから学び始めるのは不可能である」
エピクテトス

怒りの投稿、第一弾

さて、最近聞いて激怒した話はこれ。関東の某小学生チームで、控えゴーリーが、わざわざ遠征して練習試合をしても、まったく試合に出してもらえなかったという話。っていうかその子は基本的に、ボロ勝ちしていてもボロ負けしていても今年ほぼ試合に出ておらず「もう辞めたい」と漏らしているとのこと。そりゃそうだろ。

監督の言い分は「経験が足りないから」という、禅問答の様な回答。少しどころか全く試合に出さず、どこで何の経験を積めというのか?いやむしろ「試合に出ない修行」を経験しないと試合には出さないというのか?そういえば日本には球拾いとか一生補欠を美談にして、感動的CMにまでなるという恐ろしい文化が存在するので、監督は大まじめで言ってる可能性が高い。が、無知で無能であることは間違いないです。

これは「ここで諦めず、補欠の悔しさをバネにして来年レギュラーを取れば良い」というような、後から美談にすればいいみたいな低レベルのごまかしで済む問題ではない。適切な質と回数の練習と試合があってこその育成。その子の失われた一年、しかもかけがえない育成年代の一年は、誰も責任を取ることなく「苦しかったけど、あの頃はよく耐えた」くらいで酒の肴にされて終わるのです。もっと大きな問題は、こうした無知で無能な大人たちの犠牲になる子供たちが日本中にいるということです。

日本でホッケーがメジャーにならないとか、競技人口が増えないとかお嘆きの皆さん、一番大きな理由は、気候でもお金でも連盟でもマスコミでもなく、エンターテイメント化されてないことでもなく、イケメン選手を推さないことでも何でもなく、一部の無知で無能で無責任な現場の人間がホッケー好きの子供たちを辞めさせてることにあります。

下手な子が一人試合に出してもらえず拗ねてやめたくらいでそんな大げさに言わなくてもと思うなかれ。ホッケー超大国のカナダ、アメリカですら、子供のホッケー人口がどこで減るか?継続率(retention rate)の減少する年代の区切れとその要因を分析して、改革を進めています。なぜならば、ホッケーを始めた子供たちの人数以上にその年齢層のホッケー人口が増えることは基本的にあり得ないからです。小学生でホッケーに幻滅した子供たちが、後から大挙してホッケーに戻ってくることは無いし、あったとしても、逃された適切な成長機会を取り戻すことは出来ないのです。大学生や大人から始めるホッケーも、もちろん素晴らしい価値がありますが、根本的な競技力を支えるものではありません。

だから、ホッケーを盛んにしたいなら、今一番出来ることは、子供の現場でホッケー人口を減らすような、無知で無能な指導者を教育し直すか、そのような質の低い指導者を淘汰し、指導者の質を担保する仕組みを作ることです。ホッケー人口を増やすことは容易ではありませんし、日本よりはるかにホッケー人口が少ない国に負けるのですから、それが事の本質でもありません。しかし、ホッケー人口を減らさないことは今すぐ取り組めるし、それこそが取り組むべき課題だからです。なぜならば、いくらホッケー人口を増やしても、子供たちを辞めさせる構造が健在なら、穴の開いた花瓶に水を注ぎ続けるのと同じ。いつになっても花は咲きません。

怒りのあまり長くなってきたので、続きは次のポストで。

USA Hockey コーチングライセンスレベル1

先日USA Hockeyコーチングライセンスレベル1の模様を見る機会がありました。私がライセンスを取ったのはAmerican Development Model導入前だったので、最新の内容を始めて目にしました。特筆すべきことは、このレベルではコーチングやホッケー技術論がほぼゼロだということです。技術論は、USA Hockeyから提供されているコーチングアプリや資料、ネット上の情報でいくらでも勉強できるからでしょう。
では何の勉強をするかというと、

  1. NHL選手輩出とか世界ランキングを上げるとかではなく、すべての子供たちの可能性を出来るだけ高めること、子供たちが次の年に一つ上のレベルに上がる手助けをし、出来るだけホッケーを続けられるようにコーチすること。そのためにどうやって現代の子供たち、親たちと向け合えばいいか?という話。
  2. 何はなくとも子どもの心身の発育段階(性別によって若干異なる)に応じた指導をする。例えば8Uは瞬発的な運動。10U-12Uはとにかくスキル中心、14Uくらいで心肺機能が高まってから持久的なトレーニングをする。さらに18歳以上でもう一度スキル取得の扉が開かれる時があるという話。小学生に画一化された戦術の動きを教えることの無意味さと弊害。パックに群がる低学年に「固まらないで、広がって!」ということの無意味さと弊害、等。
  3. 子供たちの技術力、理解力に合わせた効率的な練習の組み立てから、説明の仕方のディスカッションと氷上での実践。当然スモールエリアのステーションが前提。全面練習なんてそもそも話題にもならなくなってきたのはADMが浸透してきた証拠です。

意外にも、少し技術論になったのはゴーリーの話題でした。レベル1からでもゴーリーを取り上げるようになったのは大きな前進です。しかし技術論に終始するのではなく、出来るだけ多くの子供たちにゴーリー経験してもらうこと、その方法等が中心でした。

という話を踏まえつつ、日本のユースホッケーの現状をいくつか耳にして、非常に腹立たしかったので、次のポストで吠えさせていただきます。

ハイブリッドアイシング

先のIIHF年次総会で、世界選手権とその予選に適応されることが正式に決定したハイブリッドアイシング。それは何ぞや?それによってホッケーはどう変わるのか?と、気になっている方も多いかと思います。

そもそもハイブリッドアイシングはタッチアイシングに代わり、昨年からNHLで導入されています。このタッチアイシングとは、IIHFでもその昔、私がホッケーを始めたころまで残っていたルールで、センターライン前から放り込まれてゴールラインを超えたパックでも、攻撃側のプレーヤーが先に触ればアイシングにならずプレー続行となるルールでした。ですから快速ウイングが居るチームは、アイシングを避けて攻撃続行が可能だったりしたのですが、当然守備側DFとボード際まで全力でパックを取り合うことになるので、激突事故による怪我が少なからず発生し、リスクを無くすため、現行のオートマチックアイシングが登場しました。その後アイシングをしたチームの交代が認められないようになり、防戦一方の展開で、とりあえずアイシングで難を脱する作戦が使えなくなりました。

NHLとその他いくつかの北米プロ、ジュニアリーグでは長らく(なんと1937年以来!)タッチアイシングが続いていましたが、やはりパックを争いボードに激突する事故が問題になりはじめました。しかし放り込まれたパックをめぐる攻防も北米プロホッケーの大きな魅力であったため捨てがたく、折衷案として採用されたのがハイブリッドアイシングでした。

ハイブリッドアイシングでは、ダンプインされたパックに、守備側が先に触れそうならアイシング、攻撃側が先に触れそうならプレー続行となります。判断の基準はエンドゾーンの二つのフェイスオフスポットを貫く仮想ラインをどちらのプレーヤーが先に超えそうか?で決まります。ちなみに「ほぼ同時」の場合はアイシングになります。さらに、強力に打ち込まれたパックがコーナーを回って逆サイドから出てきた場合は、「攻撃側か守備側のどちらが先に触れそうだったか?」という、これまた微妙な主観で判断されるそうです。こりゃ揉めそうですね(笑)

これは、脚が速いFWなら放り込まれたパックの争いに勝てて有利、、、かもしれませんが、、、背後からDFが迫ってるので要注意です。DFはFWにわざと先に行かせて、パックを取った瞬間にチェックすることも出来るわけですから、、、具体例はこちらのビデオで解説されていますので参考にしてください。またこのビデオも英語ですが非常に分かりやすいです。

というわけで、ルール改正に伴って、特に仕事が増える世界中のラインズマンは大変になりますし、プレーヤー、コーチも適応が求められます。なにせ仮想ラインでアイシングの判断が求められるんですから、しばらく判定で混乱もあるでしょう。

が、、、

実は新ルールよりも大事なのは、レベルに応じて新ルールを導入するかどうかという判断です。さし当たり、新ルールが導入されるのはIIHF大会に限られるわけですから、各世代の代表に直接関係するレベルの大会以外では、一年間様子を見てから導入を決めても良いのです。

例えば私が教えていたアメリカのユースホッケーでは、多くの大会で「アイシングしたチームは交代できない」というルールが適用されていませんでした。なぜなら、アイシングで逃げることを禁止することにより、点を取られるまでシフトが終わらないケースが多くなり、結果として、弱いラインを使えなくなり、最終的には子供のアイスタイムに影響するからです。

チェッキングはバンタム(13-14歳)になるまでは認められていませんし、オフサイドも、タグアップありの大会と無しの大会がありました。オーバータイムのルールもまちまち、試合時間もピリオドが20分正味になるのは基本的にジュニア(16-21歳)リーグであり、18AAAの全国大会ですら17分で行なっていました。

なぜ同じホッケーで、様々なルールが存在するのか?それは年齢やレベルに合わせてルールを導入、適用することにより、「ゲームの質」を保つため、に他なりません。「ゲームの質」とは何かと言うと、例えば、IIHFでは「6点差以上がついた試合」を「ロークオリティゲーム」と定めています。6点差以上がつく試合が頻発するようでは質の低い大会とみなされますので、日本のインカレやインターハイはロークオリティの全国大会を何十年も続けていることになります。こうしてロークオリティの大会を続けて競技力を上げることは非常に難しいでしょう。

他に「ゲームの質」を決める要素は、ペナルティの数、怪我の発生件数、チーム内でのアイスタイム格差、などが考えられます。新ルールを導入するときは、それが本当にそのレベルでゲームの質を高めるために役立つのか?を慎重に検討する必要があります。ハイブリッドアイシングの導入でオフィシャルが混乱しまくったり、パックの競り合いで怪我が増えるようであれば、それはゲームの質を高めることになっていないので、導入を遅らせて、プロや高いレベルでのハイブリッドアイシングをじゅうぶんに研究してから順次導入する、もしくは見送っても良いのです。

こうしてルール、対戦方式を変えるだけで、それぞれのレベルでホッケーの質は相当上がります。例えば同じ学生だから、社会人だから、という理由で、学生からはじめたばかりのプレーヤーがほとんどのディヴィジョンをフルチェッキングルールで行なうのは明らかに危険です。日本のホッケーでフルチェッキングを導入すべきレベルは、ごく限られていると思います。試合の質の中でも、怪我のリスクを減らすことは最重要課題の一つですから、ここは妥協すべきではありません。逆にヘルメット等の色の統一とか、その他、細かい防具の規制は、そりゃできれば良いでしょうが、現実的に試合の質への影響は少ないので、高いレベルに適用するだけでじゅうぶんです。

ちなみに香港アカデミーの運営するリーグのオフィシャル責任者に、ハイブリッドアイシングの導入について訊いてみたところ、「代表選手が所属するような、ある程度レベルが高いリーグ以外で今期から導入することはないだろう。女子リーグのレベルは高くないが、代表の多くがプレーしているので、世界選手権の準備として導入することになる」とのことでした。みなさんのプレーする大会では、どうなるでしょう?

それでは。

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「旧態依然」という四字熟語一言で済んでしまいそうなこの記事、、、

泥沼!法大野球部で内紛

要するにOB会が「俺の聞いてないところでチーム人事が行われた!」と言ってゴネているだけのように見えます。いや本当はもっと根深い人間関係、はたまた利権問題があったのかも知れませんが、それこそどうでも良い次元の話でしょう。だいたい「筋が通らない」と言って騒いでいる人がいる場合、「筋=その人(達)の都合/面子」以上に重要ではないことがほとんどです。

私が興味を持ったのは「東京六大学ではOB会が監督人事などを大学に推薦し、決定するのが慣例となっている。ただし、最終的な人事権は大学側にある。」という件です。日本の国民的大メジャースポーツである野球の大学最高峰リーグ、東京六大学の実質的な監督人事権がOB会にあったという、、、きっと柔道とかラグビーとかその他のスポーツでも似たような状況なんだろうなと想像できます。

日本のスポーツ発展を大きく阻害している要素として、アメリカで言うNCAAのように全国の大学スポーツを統轄する組織がないことは、スポーツ社会学やマネージメントの専門家から長年指摘されている問題です。例えば、日本の大学アイスホッケーの頂点を決める大会はいわゆるインカレ、「日本学生氷上競技選手権大会」であり、日本学生氷上競技連盟の主催大会です。しかし関東大学アイスホッケーリーグは東京都アイスホッケー連盟の主催で、関西アイスホッケーリーグは関西学生氷上競技連盟主催のようです。そしていわゆる学連とそれぞれの学生リーグは登録上別ですので(例えば医学歯学系の大学は学連とは無縁でもリーグ戦に参戦できます)、インカレの予選も各地の学生リーグとは無関係。例えば関東、関西、北海道、東北、中四国九州リーグの上位校同士が頂点を決する!わけでもないのです。そして、各種の全日本学生選手権大会を開催する団体を統轄する日本大学体育連盟が存在するわけでもなさそうです。高体連はあるのに、、、

大学スポーツ(ビジネス)界の最高峰であるアメリカNCAAでは、陸上、水泳、アメフト、アイスホッケーその他競技を全国レベルで戦う、いわゆる体育会の大学スポーツ組織を統轄し、各地のリーグ戦、全国大会を主催しています。というと、誰でも簡単に加われそうな競技団体に見えますが、まったくその逆です。NCAAに加盟しようとすると、各競技の各デヴィジョン毎に厳格に定められている、大学の規模、予算、アリーナ等の試合施設の規模などが満たされる必要があります。ちなみにデヴィジョン1のアメフトチームとして認可されるためには、最低収容人数3万人のスタジアムに、平均1万7千人以上の有料入場者を記録している必要があります、、、ひぇ~!

当然の事ながら、日本の多くの大学部活動のように、学生主体で行っているようなクラブスポーツが顧問の先生を置くくらいで認可されるわけはなく、有給のコーチ(人数等規定あり)が、決められたスカウトの手順を経て(メチャクチャ複雑な規則あり)リクルートしてきた学生のみがプレーできるという世界です。リクルートされるための資格もまた厳しく、プロ活動の前歴が一試合でもあればアウトですし、学業の成績も当然基準を満たす必要があります。

その代わり運良くデヴィジョン1最高ランクの奨学金でも貰った日には、学費は全額タダ(アメリカの大学の学費はとんでもなく高いです)、マイナープロよりもはるかに豪華な施設でプロコーチの指導を受け、何万人もの観衆を前に、ほとんどプロのような環境でプレーできる、だけでなく、一流大学で本分の勉学も修めることができます。アメリカで教えていると、子供たちはプロを目指す気満々でも、親は「プロは良いから、とにかくなんとかホッケーで大学に!」と願っていたりするんですが、それもそのはずですね。

というわけで、やっと本題に戻り、そんなNCAA所属大学チームのコーチ人事は誰がどのように行っているかというと、それは各大学の体育会を管轄するAthletic Directorに一任されています。Athletic Director(通称AD)は自分の大学の体育会の全スポーツチームのヘッドコーチを選任し、各チームでNCAA等の所属団体のルールと大学のポリシーに則った活動が行われているかどうかを把握し、管理する要職です。監督やチームに重大な不祥事があった場合はADの首も一緒に飛んでしまうことが良くあります。なにせデヴィジョン1全体の興行収入は年間$8.7 billionという巨大ビジネスですから、優秀な監督を集めて競技の価値を高めることは非常に重要なのです。自分で書いていていまいちどのくらいのお金か判らなかったので、Google先生に計算して貰うと、、、

8700000000 US Dollar equals
775953000000.00 Japanese Yen

8千億円かよー!!!中小国の国家予算ですねこりゃ。

そりゃ日本みたいにOB界の推薦とかでコーチを選んでる場合じゃありませんね。もちろんアメリカにも学閥は日本以上と言うほどに存在するので、OBつながりの人事も少なくありませんし、OBからの寄付でスタジアム建設とかも普通ですから「うちの大学もOB(alumniと言います)がうるせぇんだよ!」という話は聞いたことがありますが、OB界に人事権があるが、最終決定権は大学、なんて曖昧なことがまかり通り、しかもそれで揉めているレベルではありません。

とはいえ、学生スポーツでこれだけのビジネスになってしまっている国はどう考えてもアメリカだけであり、イギリスなどを除いたヨーロッパの国々では高校以降の競技スポーツ(特に集団球技系)の主体はプロクラブに移行しているのが普通であり、ユニバーシアードとかでは意外とショボい代表しか出てこなかったりします。

日本では各競技で未だに大学スポーツが非常に大きな選手供給源になっているにも関わらず、組織の統轄はまったくなされていません。また、アメリカのようにドラフトされたらさっさと休学してプロになり、残りの単位は引退後か夏期コースで取る、みたいな柔軟性もないため、今ひとつプロへの架け橋として機能していないようです。うーん、もったいない。でも競技の数掛ける大学の数存在するOB界のしがらみを断ち切って、今さら学生スポーツの統一管轄組織とか、まぁ大変ですね、、、念願のスポーツ庁ができたら是非その辺の改革も期待したいですね。

今までの組織論からは少し離れますが、色々言っても日本の大学スポーツの可能性はまだまだあります。クラブ制度が普及したサッカー界でも、流通経済大学のように次々と代表選手を輩出して存在感を高めている例もあります。女子ホッケーなんかは特にそうで、大学で一つか二つ受け皿になるようなチームを作ってもらって選手を集めて強化すれば、選手はホッケーと共に学業も修めることが出来て魅力的です。当然留学とか国際交流のノウハウもそれなりにあるから代表強化に必要な要素もすでに備えています。大学側からしても、日本の女子ホッケーのレベルからすれば短期間に大きな宣伝効果を得ることが出来て非常に良いと思うんですけどね、、、施設がある大学で、スタッフもすでにプロを雇っているようなところならかなり簡単にできちゃうはずだし。

あ、関西大学とか良いんじゃん!?

それでは。

明けましておめでとうございます!

日本の皆さん明けましておめでとうございます。ここ、イスタンブルではあと3時間弱で年が明けます。

2012年もHockey Lab Japanと若林弘紀を応援して頂きありがとうございました。

昨年はアメリカ、台湾、香港(2回)を飛び回り、さらにトルコに引っ越すという激動の年となりました。生活・仕事の環境が大きく変わり、困難な局面も多い一年でした。プロのホッケーコーチとして生きている以上、全ては自分の決断によるものであり、他のどの職業でもそうであるように、フリーランスの自由は常に不安定さと引き替えです。そして不安定な生活の中でも、ホッケーという共通言語のおかげで、世界中で素晴らしい人々に出会い、様々な文化の中で生きていくことが出来るのは、やはりプライスレスな体験です。激変する環境の中サポートし続けてくれている奥さんにも大感謝ですね。

ん、今ふと数えてみると、カナダで2シーズン、アメリカで1シーズン、いったん日本に戻ってからまたカナダで1シーズン、アメリカで5シーズンを過ごして今年がトルコですから、今期で海外10シーズンの区切りでした!

ということは、2013年はまさに新しい章の幕開け、、、と勝手に考えてOKです(笑)今年も間違いなくいろいろな苦難がある年になるでしょう。ホッケーコーチとしてこの先どうやって仕事をして生きていくか、いろいろな選択を迫られる年になるかも知れません。でも、今まで10年続けられたことですから、この先も10年くらいは必要とされるコーチでいることが可能なはずです。

さて、2013年、ボヘミアンホッケーコーチの旅は続きます。昨年しつこいほど考え続けた「競技構造」という概念は、ホッケーの枠を越えて汎用性を持たせて議論するために別ブログで近日中に公開予定です。明日はどっちか相変わらず判りませんが、ブログを読んでくださっている皆さんに興味を持って貰えるような話を書いていければいいなと思います。

今年もよろしくお願いします。

それでは。