怒りの投稿、第二弾

それでは、本当に子供の育成を考えた時、現代ホッケーではどのようにゴーリーを起用すればいいのか? 練習試合やリーグ戦なら最低半々の起用が当然です。一試合毎先発でも良いですが、出来ればどの試合でも2ピリ途中で交代すべきです。アップ無しに急に出たら、とか、ゲームの流れとか、大人が思うほど子供には関係ありません。一か月もすれば慣れますし、ゴーリー全員が試合のいろんな状況に慣れることそのものに意味があります。全員NHLにドラフトされているレベルのアメリカ代表U20チームですら、エキシビションでは半々の起用を普通にやります。

USA Hockeyでは、その考えをさらに進めて「ユースホッケーでは先発、控えという概念を無くすべき」と、各種コーチクリニックで説いてます。つまり、一試合目で1ピリ始めから2ピリ半分までプレーしたゴーリーは、二試合目では2ピリ半分から3ピリ終了までプレーするということです。
さらに12Uまでは、各ピリオドの途中で交代することも推奨されています。つまり、各ピリオドを半分ずつをプレーする、これも試合ごとに試合開始からプレーするゴーリーを替えて、どちらのゴーリーも1ピリ序盤の緊張感、試合終了の大事な時間を経験することが出来るようにすべきとのこと。

そもそも子供たちには、1試合通して保てるような集中力はありません。7-8分で交代する方が失点のショックからも立ち直りやすいでしょうし、ベンチにいる間にコーチからのアドバイスなども受けやすいでしょう。「誰のせいで負けた」という、しょーもないプレッシャーも多少軽減されるかもしれません。まぁこちらでもほとんどのコーチは半信半疑で聞いてますが、5年もすれば当たり前になるでしょう。

ゴーリーだけでなく、スケーターも、育成レベルではレギュラーシフト、パワープレー、ペナルティキル等全ての状況で、出来るだけ均等にラインを回すように推奨されています。また、FW、DFというポジションだけでなく、点取り屋、チェッカー、守り専門のDFなど、プレーヤーの役割を安易に固定化しないことも求められています。
役割を固定化すれば、その役割に必要なスキルを短期間に取得出来て、表面上はチームとして機能しますが、子供たちの全般的なスキルやホッケーセンス向上の弊害になるからです。

これは、「絶好調のラインでも全く同じアイスタイムにすべきか?」とか「エース級の選手が審判に暴言を吐いてペナルティを連発しても均等にシフトするのか?」とか「ほとんど練習に来ないで試合だけ来る選手にも均等にアイスタイムを与えるのか?」等々、そういう話ではありません。前もって定められた、「正しい理由と条件」がある場合にアイスタイムが適切に増減されることはむしろ良いことですし、それが本当のコーチの采配というものです。ただし、遥々遠征に来てプレー時間0分という子供がいるのは、単なる愚行であり、お金を払っている父兄への裏切りです。「今日の作戦、下手な子は出さない」って、誰がどう考えても頭の悪い人のコーチングでしょう。

「いや、しかし、そうはいっても、うちは『初心者大歓迎、目指せ全日本』のチーム、そもそも論として、子供たちのレベルの差があり過ぎるし、相手チームには天才小学生がいるから、3セット目が出たら惨殺される…ましてや一発勝負のトーナメントで下手な方のゴーリーを出すなんて、負けたら何言われるか分かんないし…」

分かります。そりゃそうだ。

勝つことを目標に競技するのは当たり前。しかし、どう考えても大差がつくマッチアップの一発勝負トーナメント大会では、勝つという目標も、育成という目的も、いつまでたっても両立されることはありません。そして今、目にしている通り、競技は衰退の一途を辿ります。何度も繰り返すように、適切にレベル分けしたチーム作りとリーグ戦を中心とした競技構造改革なしに健全かつ徹底的な解決方法は無いのです。

しかし、悲しいかな、現状ではそれが国として達成される見込みはほとんどなく、あったとしても数十年~百年先でしょう(サッカーとバスケはかなりやってますけどね)。
だからこそ、練習試合とローカル大会を含めた現場の工夫が必要なんです。せっかくホッケー好きな子供と家族が集まる試合なんですから、一試合40分にしても良いから、週末で各チーム最低3-4試合できるように予選リーグと決勝トーナメントをやりましょうよ。選手数が足りないチームには、選手数が足りてて普段出られない3-4セット目の子供たちや控えゴーリーをレンタルするローカルルールを作りませんか? っていうか、そんなに点差が気になるなら、低学年大会でスコアとか個人記録つけるの止めましょうよ。ローカル大会で優勝とか、どうでもよくないですか? スウェーデンでは12Uまでスコア記録しません。理由は「大人が狂う」からです。

コーチの人たちも、絶対負けられない全国大会とか以外は、肩の力抜いて全員出場させて育てましょうよ。みんなが試合に出て上手くなって、誰が損するんですか? それとも、あなたはひょっとして、ホントは教える能力も、育てる能力もないから、いつまでも「下手な子は出さない作戦」なんじゃないんですか?

これは現場だけでは無理ですが、そもそも、その絶対に負けられないわりに、ほとんどの試合が大差で決まるような小学生の全国大会なんて今すぐ止めましょうよ。どうしてもやらなきゃいけないならせめてAとBに分けてレベル差を縮めましょう。それから、低学年の全国大会なんて、それなりにホッケーやってる国では、日本以外で聞いたことないです。

「こういう事業にはスポンサーがついてるからそう簡単にはいかない」等という事情もあるかもしれませんが、馬鹿の一つ覚えのテンプレート全国大会の冠スポンサーになってもらうんじゃなくて、あるべき育成の姿を目指すリーグとかの取り組みに対してスポンサリングしてもらえるようなプレゼンを考えましょうよ。

さんざん吠えましたが、私も長いコーチ人生で、それこそ『初心者大歓迎、目指せ全日本』みたいなチームをいくつも教えたので、育成と競技のバランスでは大いに悩み、間違えていたこともたくさんありました。正当なプレー機会を与えられず、最大限に育成出来なかったプレーヤーもたくさんいたはずです。申し訳ありませんでした。

一方、コーチを始めたばかりのころ、当時ほとんど初心者中心の筑波大学で、ステーション練習だけでなく、全学、医学、女子部合同の下級生練習や上級生と下級生を分けた試合を確立させたりして、そもそも論としての環境を変える、出来るだけの工夫をすることも学びました。また、香港ではおそらく世界最低の技術レベルの女子代表チームを一年で育てて、世界選手権で好成績を収めろという無理難題を振られましたが、何とか達成することが出来ました。さすがに代表チームなので、世界選手権本番でプレー時間均等は到底無理でしたが…

USA Hockeyのコーチクリニックで、最も印象に残ったのは、講師が積極的に過去の過ちを認めていたことです。「俺も昔は誰彼構わず怒鳴りまくって、それが良いコーチだと思ってた。効率悪い練習も一杯やった。いっぱい勝った。でもそれは間違ってた」と。大きな改革を成し遂げるときに、避けて通れないのは、過去の方法論との決別です。それを過去の成功体験の否定と捉えてしまい、受け入れられない人たちのなんと多いことか…

あと「海外では」に拒否反応を起こす人も同様。日本人に合ったやり方とやらで結果を出せず下降し続けて数十年。結局は他国の成功や、明らかに自分たちより優れたアイディアから学びたくも変えたくもないだけじゃん。そもそも日本人に合ったやり方を研究したり、集まって話し合った形跡もないんだから、結局そんなもの無いんでしょ? 北欧を筆頭に改革に成功した国がもれなく最初にやったことは、「利害を超えて、他国の事例も含めて、トップの人材が集まって話し合う」です。

「俺の時代はこうやって結果を残した」のは、それはそれで素晴らしいことで、大いに酒の肴にすれば良いじゃあないですか。でも現場での指導や、組織の方針は、「新しく、より良い方向にアップデートする」と考えれば良いだけです。スマホだってパソコンだって、アップデートするのは多少面倒ですが、すぐに慣れるし、全体としては確実に便利になるじゃあないですか。

どんなに素晴らしい業績を残した人間でも、やはり一人の経験だけで学べることは限られています。自分は若いころ、当然知識がありませんでした。いや、今もこれからも、まだまだ学ぶこと、考えることばかりだと思うことからしか、より良いホッケー環境は生まれませんし、アップデートすることがたくさんあるのは楽しいことですよ。

浅田真央さんがホッケーを盛り上げてくれるなんて、実際まったく具体性のない妄想に期待する前に(いやもちろん頑張って欲しいけど)、子供たちを辞めさせないコーチングとチーム運営を始めませんか? 今日から!

「押し付けられているように感じない教えは、本当の教えではない」
道元

「その人が既に知っていると思っていることを、
これから学び始めるのは不可能である」
エピクテトス

怒りの投稿、第一弾

さて、最近聞いて激怒した話はこれ。関東の某小学生チームで、控えゴーリーが、わざわざ遠征して練習試合をしても、まったく試合に出してもらえなかったという話。っていうかその子は基本的に、ボロ勝ちしていてもボロ負けしていても今年ほぼ試合に出ておらず「もう辞めたい」と漏らしているとのこと。そりゃそうだろ。

監督の言い分は「経験が足りないから」という、禅問答の様な回答。少しどころか全く試合に出さず、どこで何の経験を積めというのか?いやむしろ「試合に出ない修行」を経験しないと試合には出さないというのか?そういえば日本には球拾いとか一生補欠を美談にして、感動的CMにまでなるという恐ろしい文化が存在するので、監督は大まじめで言ってる可能性が高い。が、無知で無能であることは間違いないです。

これは「ここで諦めず、補欠の悔しさをバネにして来年レギュラーを取れば良い」というような、後から美談にすればいいみたいな低レベルのごまかしで済む問題ではない。適切な質と回数の練習と試合があってこその育成。その子の失われた一年、しかもかけがえない育成年代の一年は、誰も責任を取ることなく「苦しかったけど、あの頃はよく耐えた」くらいで酒の肴にされて終わるのです。もっと大きな問題は、こうした無知で無能な大人たちの犠牲になる子供たちが日本中にいるということです。

日本でホッケーがメジャーにならないとか、競技人口が増えないとかお嘆きの皆さん、一番大きな理由は、気候でもお金でも連盟でもマスコミでもなく、エンターテイメント化されてないことでもなく、イケメン選手を推さないことでも何でもなく、一部の無知で無能で無責任な現場の人間がホッケー好きの子供たちを辞めさせてることにあります。

下手な子が一人試合に出してもらえず拗ねてやめたくらいでそんな大げさに言わなくてもと思うなかれ。ホッケー超大国のカナダ、アメリカですら、子供のホッケー人口がどこで減るか?継続率(retention rate)の減少する年代の区切れとその要因を分析して、改革を進めています。なぜならば、ホッケーを始めた子供たちの人数以上にその年齢層のホッケー人口が増えることは基本的にあり得ないからです。小学生でホッケーに幻滅した子供たちが、後から大挙してホッケーに戻ってくることは無いし、あったとしても、逃された適切な成長機会を取り戻すことは出来ないのです。大学生や大人から始めるホッケーも、もちろん素晴らしい価値がありますが、根本的な競技力を支えるものではありません。

だから、ホッケーを盛んにしたいなら、今一番出来ることは、子供の現場でホッケー人口を減らすような、無知で無能な指導者を教育し直すか、そのような質の低い指導者を淘汰し、指導者の質を担保する仕組みを作ることです。ホッケー人口を増やすことは容易ではありませんし、日本よりはるかにホッケー人口が少ない国に負けるのですから、それが事の本質でもありません。しかし、ホッケー人口を減らさないことは今すぐ取り組めるし、それこそが取り組むべき課題だからです。なぜならば、いくらホッケー人口を増やしても、子供たちを辞めさせる構造が健在なら、穴の開いた花瓶に水を注ぎ続けるのと同じ。いつになっても花は咲きません。

怒りのあまり長くなってきたので、続きは次のポストで。

USA Hockey コーチングライセンスレベル1

先日USA Hockeyコーチングライセンスレベル1の模様を見る機会がありました。私がライセンスを取ったのはAmerican Development Model導入前だったので、最新の内容を始めて目にしました。特筆すべきことは、このレベルではコーチングやホッケー技術論がほぼゼロだということです。技術論は、USA Hockeyから提供されているコーチングアプリや資料、ネット上の情報でいくらでも勉強できるからでしょう。
では何の勉強をするかというと、

  1. NHL選手輩出とか世界ランキングを上げるとかではなく、すべての子供たちの可能性を出来るだけ高めること、子供たちが次の年に一つ上のレベルに上がる手助けをし、出来るだけホッケーを続けられるようにコーチすること。そのためにどうやって現代の子供たち、親たちと向け合えばいいか?という話。
  2. 何はなくとも子どもの心身の発育段階(性別によって若干異なる)に応じた指導をする。例えば8Uは瞬発的な運動。10U-12Uはとにかくスキル中心、14Uくらいで心肺機能が高まってから持久的なトレーニングをする。さらに18歳以上でもう一度スキル取得の扉が開かれる時があるという話。小学生に画一化された戦術の動きを教えることの無意味さと弊害。パックに群がる低学年に「固まらないで、広がって!」ということの無意味さと弊害、等。
  3. 子供たちの技術力、理解力に合わせた効率的な練習の組み立てから、説明の仕方のディスカッションと氷上での実践。当然スモールエリアのステーションが前提。全面練習なんてそもそも話題にもならなくなってきたのはADMが浸透してきた証拠です。

意外にも、少し技術論になったのはゴーリーの話題でした。レベル1からでもゴーリーを取り上げるようになったのは大きな前進です。しかし技術論に終始するのではなく、出来るだけ多くの子供たちにゴーリー経験してもらうこと、その方法等が中心でした。

という話を踏まえつつ、日本のユースホッケーの現状をいくつか耳にして、非常に腹立たしかったので、次のポストで吠えさせていただきます。