世界の女子アイスホッケー おさらい編

アイスホッケー女子日本代表が、めでたくピョンチャンオリンピック出場を決めたところで、2014年ソチオリンピック前に掲載した世界の女子アイスホッケーシリーズのリンクをまとめておきます。以前から女子ホッケーの動向を追っている人から、先の最終予選を機に女子アイスホッケーの存在を知った人まで、世界の女子アイスホッケーを知る入り口になればと思います。

4年前の記事ですので、その後女子ホッケー界にもいくつかの変化がありました。一番大きな変化は2015年にアメリカで始まった世界初の本格的女子プロリーグ、NWHLでしょう。給料は日本円にして100-250万円ですが、ついに女子ホッケーを仕事に出来るリーグが誕生し、日本の守護神・藤本選手もプレーしました。が、二年目の今シーズンには早くも経営が悪化し、シーズン途中で給料半減がアナウンスされるなど、まだまだ前途多難です。カナダ代表で世界最強の女子ゴーリーと呼ばれるShannon Szabados手が男子マイナープロと契約したりという話題もありましたね。

世界ランキングには顕著な変化はなく、世界選手権もアメリカとカナダが独占し、第二グループがロシアとフィンランド、その下にスウェーデンとスイスそしてドイツ、日本という構図がこの数年続いてます。

U18の様子などを見る限り、予想ではこの先チェコが伸びてきて、さらに眠れるホッケー大国ドイツが男女共に逆襲を始めると思いますが、上位グループに追い付くのは早くても数年かかります。

デンマーク、ハンガリー辺りも将来的に伸びて来る可能性がありますが、女子スポーツの振興はその国がお金と人材を投資する決断をするかにかかってますし、絶対的競技人口がまだまだ足りないので、何とも言えません。

日本の女子競技人口は2016年統計で2586人。9万人近いカナダ(87500人)、7万人以上のアメリカ(73076人)にははるかに及びませんが、ランキング上位のロシア(1964人)、スイス(1230人)より多く、フィンランド(5950人)、スウェーデン(5014人)、チェコ(2714人)に続いて世界6位です。男女合わせたホッケー競技人口(18988人)も長らく世界のトップ10以内にいますので、たしかにホッケーは日本国内ではマイナー競技ですが、国際的にみればリンクの数も含め非常に恵まれた競技資源ですね。

日本の女子ホッケーの競技環境はその他のマイナースポーツと同じくプロが存在せず、代表クラスの選手でもアルバイトをして生計を立て、さらに遠征費の自己負担などを強いられて来ましたが、ソチオリンピック出場を契機に、代表クラスの選手はサポートしてくれる企業に就職し、より競技に打ち込みやすい環境になりました。これでやっと女子ホッケー強豪国の環境に追いついてきた!と思いきや、実は日本は多くの女子ホッケー強豪国の環境を追い越しています。

日本のライバル国であるドイツ、スイスなどの女子代表選手は、軍の支援を受けるなどしている一部選手以外は本業を持ちながら競技を続けています。格上のフィンランド、スウェーデンも国内リーグでセミプロとして生活費を支給されているのは、基本的に北米等から来た外国人助っ人選手のみです。ロシアにはプロとしていくらかの給料をもらえるチームもあるようですが、リーグや代表選手がプロ化しているわけではありません。アメリカのプロリーグNWHLについては先に書いた通りで、プロとは言っても自立出来る給料をもらえるのはほんの一握りであり、ほとんどの選手は本業をしながらホッケーを続けています。カナダの女子最高峰リーグCWHLは遠征費、活動費は支払わなくて良いものの、防具は選手持ちであり、もちろん給料も出ないので、ほとんどの選手は仕事をしています。なお、アメリカ、カナダの代表選手は、オリンピックの年だけは国からのサポートを受けて、競技に集中しやすい経済環境を得ているようです。

女子ホッケー最強の北米二カ国の育成と強化を支えているのは、アメリカ大学ホッケーNCAAのプロなみの施設とコーチングを受けながら学業にも励めて、しかもトップ選手は奨学金ももらえるという素晴らしい環境です。事実、北米の代表選手たちのほとんどはNCAAを経ているか、または現役のNCAAの学生です。近年ではヨーロッパ等のトップ選手たちもNCAAやカナダの大学ホッケーCISで腕を磨いています。NCAAでは女性のコーチも当然プロとして男子ホッケーコーチと変わらない一流の給料をもらっています(女子チームのコーチだからという理由で給料に差がつくのは違憲)。羨ましいとしか言いようがない環境ですが、逆に女子ホッケーでここまですごい環境があるのはアメリカだけ。ホッケー超大国カナダですら及びません。

北米の圧倒的優位性から、女子ホッケー界の歴史に残るスター選手というのも、現時点ではほとんどがアメリカ、カナダの選手で占められており、北米以外で思いつくのはスウェーデンのErika HolstMaria RoothKim Martinくらいで、あとはギリギリでスロバキアのZuzana Tomcikovaや中国のGuo Hongという感じです。フィンランドのNoora RatyやスイスのFlorence Schellingなんかがこの先歴史に残るかもしれませんが、北米以外であげた選手にゴーリーが多いことからも分かるように、基準が「どれだけ北米チームと渡り合えたか」になってしまいますね。

というわけで、前置きが長くなりましたが、2013年版「世界の女子アイスホッケーシリーズ」のリンクはこちらです。

それでは。

世界の女子アイスホッケー (1) アメリカ編
世界の女子アイスホッケー (2) カナダ編
世界の女子アイスホッケー (3) ヨーロッパ編
世界の女子アイスホッケー (4) 中国編
世界の女子アイスホッケー (5) 番外編1
その他、女子アイスホッケー関連記事

*オリンピック関連の記事等で当ブログの内容を二次利用される場合は、事前に若林弘紀までご連絡頂くようお願いします。

世界の女子アイスホッケー (5) 番外編1

IIHFのウェブサイトにこんな記事が、、、

昨年の女子世界選手権トップデヴィジョンで、衝撃の3位入賞を果たしたスイス代表の立役者であるゴーリーFlorence Schelling。彼女はボストンにあるNCAA D1の名門Northeastern 大学で4年間プレーした後、大学に残って経済学の学位を取る傍ら(一応言っておきますが北米屈指の名門大学ですよ)、カナダ・ケベック州のモントリオールでインターンとして働き、さらにブランプトン(オンタリオ州)から、各国代表が集う女子シニアリーグの最高峰CWHLに参戦しています。ボストン、モントリオール、ブランプトンはそれぞれ1000km以上離れており、その3都市を駆け巡りながら勉強、仕事、練習、試合に励んでいるわけです。

彼女は4月にカナダで行われる世界選手権でプレーした後大学を卒業し、故郷のスイスに戻り男子のプロリーグでプレーしながらソチオリンピックに備えるそうです。

女子アイスホッケーを取り巻く厳しい環境は基本的に世界共通です。世界3位の国の正ゴーリーが、仕事、勉学と両立しながらより高いレベルでの競技を続けるために世界中を駆け回っているのです。

詳しい事情は知りませんが、これまでの彼女の道のりは、国や連盟やスポンサーが用意してくれたものでしょうか?おそらく違います。多くの助けがあったとしても、これは基本的に彼女一人で切り開いた道であり、その戦いはこの先も続きます。

世界レベルで戦うために、スポンサーや連盟の力による環境の向上も大事ですが、本当に重要なのは、選手一人一人が世界で戦う意志であり、競技しながら生きる道を模索する情熱であり、そのために必要なのは外向きのメンタリティです。

ちなみにこんなスーパー女子プレーヤーである彼女のボーイフレンドはNHL選手であることも知られており、私生活も手抜き無しです。いやはや、、、

それでは。

注:ソチオリンピック関連の記事等で当ブログの内容を二次利用される場合は、事前に若林弘紀までご連絡頂くようお願いします。

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「旧態依然」という四字熟語一言で済んでしまいそうなこの記事、、、

泥沼!法大野球部で内紛

要するにOB会が「俺の聞いてないところでチーム人事が行われた!」と言ってゴネているだけのように見えます。いや本当はもっと根深い人間関係、はたまた利権問題があったのかも知れませんが、それこそどうでも良い次元の話でしょう。だいたい「筋が通らない」と言って騒いでいる人がいる場合、「筋=その人(達)の都合/面子」以上に重要ではないことがほとんどです。

私が興味を持ったのは「東京六大学ではOB会が監督人事などを大学に推薦し、決定するのが慣例となっている。ただし、最終的な人事権は大学側にある。」という件です。日本の国民的大メジャースポーツである野球の大学最高峰リーグ、東京六大学の実質的な監督人事権がOB会にあったという、、、きっと柔道とかラグビーとかその他のスポーツでも似たような状況なんだろうなと想像できます。

日本のスポーツ発展を大きく阻害している要素として、アメリカで言うNCAAのように全国の大学スポーツを統轄する組織がないことは、スポーツ社会学やマネージメントの専門家から長年指摘されている問題です。例えば、日本の大学アイスホッケーの頂点を決める大会はいわゆるインカレ、「日本学生氷上競技選手権大会」であり、日本学生氷上競技連盟の主催大会です。しかし関東大学アイスホッケーリーグは東京都アイスホッケー連盟の主催で、関西アイスホッケーリーグは関西学生氷上競技連盟主催のようです。そしていわゆる学連とそれぞれの学生リーグは登録上別ですので(例えば医学歯学系の大学は学連とは無縁でもリーグ戦に参戦できます)、インカレの予選も各地の学生リーグとは無関係。例えば関東、関西、北海道、東北、中四国九州リーグの上位校同士が頂点を決する!わけでもないのです。そして、各種の全日本学生選手権大会を開催する団体を統轄する日本大学体育連盟が存在するわけでもなさそうです。高体連はあるのに、、、

大学スポーツ(ビジネス)界の最高峰であるアメリカNCAAでは、陸上、水泳、アメフト、アイスホッケーその他競技を全国レベルで戦う、いわゆる体育会の大学スポーツ組織を統轄し、各地のリーグ戦、全国大会を主催しています。というと、誰でも簡単に加われそうな競技団体に見えますが、まったくその逆です。NCAAに加盟しようとすると、各競技の各デヴィジョン毎に厳格に定められている、大学の規模、予算、アリーナ等の試合施設の規模などが満たされる必要があります。ちなみにデヴィジョン1のアメフトチームとして認可されるためには、最低収容人数3万人のスタジアムに、平均1万7千人以上の有料入場者を記録している必要があります、、、ひぇ~!

当然の事ながら、日本の多くの大学部活動のように、学生主体で行っているようなクラブスポーツが顧問の先生を置くくらいで認可されるわけはなく、有給のコーチ(人数等規定あり)が、決められたスカウトの手順を経て(メチャクチャ複雑な規則あり)リクルートしてきた学生のみがプレーできるという世界です。リクルートされるための資格もまた厳しく、プロ活動の前歴が一試合でもあればアウトですし、学業の成績も当然基準を満たす必要があります。

その代わり運良くデヴィジョン1最高ランクの奨学金でも貰った日には、学費は全額タダ(アメリカの大学の学費はとんでもなく高いです)、マイナープロよりもはるかに豪華な施設でプロコーチの指導を受け、何万人もの観衆を前に、ほとんどプロのような環境でプレーできる、だけでなく、一流大学で本分の勉学も修めることができます。アメリカで教えていると、子供たちはプロを目指す気満々でも、親は「プロは良いから、とにかくなんとかホッケーで大学に!」と願っていたりするんですが、それもそのはずですね。

というわけで、やっと本題に戻り、そんなNCAA所属大学チームのコーチ人事は誰がどのように行っているかというと、それは各大学の体育会を管轄するAthletic Directorに一任されています。Athletic Director(通称AD)は自分の大学の体育会の全スポーツチームのヘッドコーチを選任し、各チームでNCAA等の所属団体のルールと大学のポリシーに則った活動が行われているかどうかを把握し、管理する要職です。監督やチームに重大な不祥事があった場合はADの首も一緒に飛んでしまうことが良くあります。なにせデヴィジョン1全体の興行収入は年間$8.7 billionという巨大ビジネスですから、優秀な監督を集めて競技の価値を高めることは非常に重要なのです。自分で書いていていまいちどのくらいのお金か判らなかったので、Google先生に計算して貰うと、、、

8700000000 US Dollar equals
775953000000.00 Japanese Yen

8千億円かよー!!!中小国の国家予算ですねこりゃ。

そりゃ日本みたいにOB界の推薦とかでコーチを選んでる場合じゃありませんね。もちろんアメリカにも学閥は日本以上と言うほどに存在するので、OBつながりの人事も少なくありませんし、OBからの寄付でスタジアム建設とかも普通ですから「うちの大学もOB(alumniと言います)がうるせぇんだよ!」という話は聞いたことがありますが、OB界に人事権があるが、最終決定権は大学、なんて曖昧なことがまかり通り、しかもそれで揉めているレベルではありません。

とはいえ、学生スポーツでこれだけのビジネスになってしまっている国はどう考えてもアメリカだけであり、イギリスなどを除いたヨーロッパの国々では高校以降の競技スポーツ(特に集団球技系)の主体はプロクラブに移行しているのが普通であり、ユニバーシアードとかでは意外とショボい代表しか出てこなかったりします。

日本では各競技で未だに大学スポーツが非常に大きな選手供給源になっているにも関わらず、組織の統轄はまったくなされていません。また、アメリカのようにドラフトされたらさっさと休学してプロになり、残りの単位は引退後か夏期コースで取る、みたいな柔軟性もないため、今ひとつプロへの架け橋として機能していないようです。うーん、もったいない。でも競技の数掛ける大学の数存在するOB界のしがらみを断ち切って、今さら学生スポーツの統一管轄組織とか、まぁ大変ですね、、、念願のスポーツ庁ができたら是非その辺の改革も期待したいですね。

今までの組織論からは少し離れますが、色々言っても日本の大学スポーツの可能性はまだまだあります。クラブ制度が普及したサッカー界でも、流通経済大学のように次々と代表選手を輩出して存在感を高めている例もあります。女子ホッケーなんかは特にそうで、大学で一つか二つ受け皿になるようなチームを作ってもらって選手を集めて強化すれば、選手はホッケーと共に学業も修めることが出来て魅力的です。当然留学とか国際交流のノウハウもそれなりにあるから代表強化に必要な要素もすでに備えています。大学側からしても、日本の女子ホッケーのレベルからすれば短期間に大きな宣伝効果を得ることが出来て非常に良いと思うんですけどね、、、施設がある大学で、スタッフもすでにプロを雇っているようなところならかなり簡単にできちゃうはずだし。

あ、関西大学とか良いんじゃん!?

それでは。