決定力をつけるには?中編

時事ネタ中編です。

サッカーでもホッケーでも指摘される決定力不足を解消するための、気の長い改革案です。きっかけはソチでの女子代表ですが、主に自分自身のコーチングの向上のためのブレインストーミングです。

  1. シュート練習>従来のスケーティング練習
    世界のリンクで様々なレベルを見てきましたが、日本人はシュート力が世界最弱の部類に入ると思います。なんといっても、シュートスピードがない。非アジア人種は、たとえスケーティングがヘロヘロのオッサンホッケーで、体重移動も何もない手打ちのシュートでも剛速球を飛ばせることは良く知られています。いや、アジア人と言っても、ここ香港の子供や大人だってかなり良いシュート打ちます。スケーティングはさらにヘロヘロですし、パスする気もゼロですが(笑)
    しかし、日本人といえばスケーティングと呼ばれるほど、スケーティングは滑らかで、直線のスピードだけならNHL並みの選手が過去に何人もいたと思います。遺伝的特徴もあるかもしれませんが、これは文化だと私は思います。なぜなら、日本人は「シュートよりも何よりも、スケーティングが大好き」だからです。まずチームの練習でスケーティングの占める割合が非常に高い。そして一般滑走までしてスケーティングを極めようとするのは日本人だけです。
    ホッケーにおけるスケーティングの重要性については異論ありませんが、今までの日本人が、本当にホッケーに必要なスケーティングの質を獲得するために適切な量の練習をしてきたのかというと、答えはNoでしょう。トップレベルのホッケーを分析すると、ホッケーでは直線的に常に速く走ることではなく、必要な時に、必要な場所に、タイミングよく走りこむスケーティングの方が遥かに重要だということがわかります。
    つまり、まずは従来の走りこみスタイルのスケーティング練習からスピードに強弱をつけたり、走るコースを工夫する実用的なスケーティングに切り替え、さらに時間を減らす必要があります。心配しなくても日本人のスケーティングの特性は多少スケーティングの時間を減らしたからといって簡単には失われないでしょう。この辺はまた別の機会に書きます。
    そして、スケーティングの練習時間そのものを思い切って減らして、その分シュート練習に大胆に時間を割くべきです。ロシアやチェコのリンクの横にはたいていシュート練習用のケージがあり、そこで子供たちがシュートを打ちまくっています。多くの少年チームが、一般滑走の代わりに、毎日陸上で様々なシュートを30分打ちまくる練習を10-18才まで続けるだけでもシュートのレベルは上がるでしょう。氷上練習でもスケーティング20分を10分にして、代わりに壁打ちをヒタスラ繰り返すだけでも数ヶ月で効果があるでしょう。とにかくまずはシュートのスピードと狙いを向上させないことには、この後に書くスコアリング練習も意味を成さないからです。
  2. 個人戦術、グループ戦術としてのスコアリングを練習する
    個人技術としてのシュート力を高めながら導入しなければいけないのは、戦術としての個人戦術、グループ戦術としてのスコアリングです。どんなに足が速くてもホッケーで使えるかどうかは別、と書いたとおり、NHL選手よりも速いシュートを打ててもECHL止まりだった選手も何人もいます。
    DF、ゴーリーのタイミングをずらして騙す、ゴーリーにパックを見せない、DF、ゴーリーを横に動かすという「得点しやすいシュートに結び付ける戦術」がスコアリングであり、それを練習する必要があります。
    この100年言われているように「シュート打ってリバウンド」でも悪くはないのですが、「ゴール裏を動いてゴーリーを横に動かして膝をつかせておいてファーサイドのパッドに当ててバックドアでリバウンド」にすれば、得点確率は格段に上がります。
    「ゴーリーの目の前に立ってスクリーン」も勿論良いのですが、逆に「わざとゴーリーのブロッカーの前に立ってパックを見せておいて、シュートのタイミングで顔の前に移動してブロッカー側に打ってもらう」プレーをすれば、ゴーリーが完全に反応できる可能性は極めて低くなります。サメのマークで有名なNHLチームでは、高さを変えて左右からスクリーンになって交差するように横切りながらディフレクション、なんてプレーを実際に練習してました。プロでも点を取るために具体的な工夫をしてるんです。
    一人でロング、もしくはミドルシュートを打つ場合でも、DFの前でパックを横に動かしてからクイックリリース、というのがトップレベルで頻繁に使われるスコアリング法です。多少シュートが弱くても、ゴーリーとDFを横に動かしてから打つので得点の確率は高まります。ちなみに私も攻撃力が弱いチームを教えている時に「とにかく外から打ってリバウンド」と言っちゃうことはありますが、正直言ってそれ以外にスキルで対抗する手がない時がないときだと自覚しております。走力と知識で補うことが出来る守備と違い、スコアリングを改善するには選手の育成を10年遡って根本的な改革をする以外に手はないのです。
  3. ゲームコントロール能力をつける
    スピードを生かしてフォアチェックでパック奪回、という戦術はたしかにある程度通用していますが、他の集団球技と同じく「小さくても、スピードを生かして、一試合しつこく走りぬいて戦えば、格上相手にも、、、」という戦略が成功することは稀です。問題は「一試合しつこく走りぬいて」という部分です。よく走り、スピードのあるチームほど、攻め急ぎ、守り急ぎ、まるで相手にパックを渡してしまいたいかのようにプレーしてしまうものですが、残念ながら格上のチームは、そんな相手のゲームのスピードを落としたり、相手の体力を消耗させる方法を熟知しています。スウェーデン女子を見ていると、日本の激しいフォアチェックを見切ったら、落ち着いてブレークアウトをして、DFが中盤でパックを持っても攻め急がず、サッカーで言うところのビルドアップをきちんとして、パックを失わないように攻め込んできていました。
    この辺りも、10年がかりで文化を変えないと達成不可能だと思われます。スケートの速さではなく、チームとしてのプレーの速さや、逆にスピードを落としてチームをコントロールするタメ、判断力、シュート数ではなくスコアリングチャンスの数、運動量で当たりまくるのではなく、スマートに堅実に守り攻撃につなげる、などを基準に選手選考が行われるようになる必要があります。
    これはすなわち選手を選び、評価する指導者のホッケー観が変わらなければいけないことを意味しますし、そのような指導者を選び、任せるマネージメントの意識改革も求められるということです。気の遠くなるような話ですが、全国という規模ではなく、実は地域や、チームレベルの現場から変えていける部分も多いと思います。

さらに後編に続きます。

避けては通れない、体格と身体能力、メンタルと経験の差などについて、私の思うところを書きます。

それでは。

決定力をつけるには?前編

ご無沙汰していました。

昨年末に行われたChallenge Cup of Asia D1 で、私が監督を務める香港女子代表はシンガポール(7-1)、タイ(4-0)、UAE(9-0)を下して全勝優勝を果たしました。香港女子代表初の国際大会を良い結果で終えることが出来て良かったです。また私自身初めてナショナルチームを指揮させていただき、非常に良い勉強になりました。応援してくださった皆さんありがとうございました!

3月にはこの女子代表を連れてメキシコに行き、世界選手権D2B予選を、4月には男子代表のアシスタントコーチとしてルクセンブルグで世界選手権D3を戦う予定です。

さて、私が指導するレベルの遥か遥か雲の上の最高峰の舞台、ソチオリンピックでは日本女子代表が奮闘しています。

残念ながらBグループ全敗で順位決定戦に回っていますが、英語版の解説やプロコーチたちからの論評など、海外での評価は非常に高く、大会の大きな驚きの一つとして伝えられています。一番高く評価されているのは「スピード」と「チームプレーに徹する規律」を生かしたフォアチェックを中心としたシステマチックな守備です。

過去にも日本人ホッケー選手のスピードは世界で認められてきましたが、必ず「でも、スピードを生かせていない」という評価が続き「100万ドルの足、1セントの頭」なんて、非常に不名誉なことを解説者に言われたりしてました。「サイズが足りない部分はスピードとチームプレーでカバーすれば、、、」という台詞はホッケー以外のチームスポーツでも頻繁に聞かれてきましたが、実際それを戦術で表現し、且つ機能させた例はあまりなく、「とにかく攻守に走って運動量で勝負する」という、バカ走りをする意気込みだけで終わることがほとんどでした。その点今回の女子代表は「何をしようとしているのか、はっきりと戦術の意図が分かるチーム」「全員が同じ戦術を徹底している」「明らかに劣る体格でも、格上のチームに劣らない戦い方が出来ることを証明している」「ロシアの監督は、タレントで優っていても、チームとしては負けていることをはっきり分かっている」「足りない部分を求めるのではなく特長を生かして勝負する画期的なチーム作り」と、素晴らしい評価を受けています。

「日本のホッケー」という言葉は過去に飽きるほど聞きましたが、それを実際外部から認めてもらったのですから歴史的なチームです。また、今まで破ることが出来なかった予選の壁を破り、さらに世界選手権でもトップディヴィジョンに返り咲いているので、トップレベルに上がって行く方法論としては間違っていなかったと言えます。

一方、オリンピック本番のBグループ、つまり下位4チームの組で勝てなかっただけでなく1点しか取れなかったことで、多くの課題が見えてきたのも確かです。ランキングから見ても格下の日本チームが、フォアチェックとDZカバリジを基本にした守備的戦いをして、カウンターとパワープレーに攻撃の活路を見出そうとした戦略は弱者の正攻法であり、間違いではなかったと思います。歴史的に、番狂わせと呼ばれる試合で、点の取り合いになったことはほとんど無く、ロースコアに持ち込むことはほぼ必須の条件だからです。ガチンコ本番で強敵相手に「負けても良いから攻撃的なホッケーで」というと、点は多少取れても勝てることはほとんどないでしょう。

とはいっても、守り勝つためにはある程度の得点が必要です。シュート力は男女日本人選手が世界と一番差があるスキルなのは周知の事実なので、そこはゴール前のディフレクションなどで工夫していた、みたいな記事は見かけましたし、とにかく外からでも良いからどんどんスロットにパックを入れてリバウンドを、、、という記事もありました。

しかし、残念ながら、外から入れて泥臭くリバウンドという戦術?みたいなものは、一昔前の北米の戦術というかメンタリティであり、シュートやパス、そして身体が強くないとあまり機能しません。シュート力が弱くなればなるほど、ゴール近くからクリーンに打たないと入らなくなるからです。しかしゴール近くに個人技で迫るには、これまたサイズがないから難しい、、、というのが、現在まで続く得点力のなさの原因だと推測されます。

じゃーどーすれば得点力が上がるんだよ?という、私自身の疑問に答えるべく、いろいろと考えをめぐらせてみたのですが、長くなりそうなので続きは次回に、、、

それでは。

香港アイスホッケー男子、女子代表チーム、指導開始!

FaceBookTwitterでは定期的に発信してましたが、こちらのブログでは非常にご無沙汰しておりました。

香港でもホッケーシーズンが始まり、私の勤める香港アイスホッケーアカデミーでも強化から普及まで様々なプロジェクトが始動しています。 そして、26年ぶりにIIHFの世界選手権(D3と、女子はその予選)に復帰する香港代表チームも、男子+U18男子と女子のトライアウトを経てトレーニングを開始しました。私は男子チームのアシスタントコーチと、女子チームの監督、そして代表と、その育成年代のゴーリーコーチを任されることになりました。

日本のようなアジアの先進ホッケー国とは違い、香港では代表選手もすべてアマチュアであり、遠征費どころか代表の練習費用も基本的に自己負担です。通常のサイズのリンクが国内に一つしかないので、練習回数も非常に限られており、そのほとんどが休祝日の夜です。おそらく日本の地方の県代表以下の競技環境で世界大会を戦わなければなりません。

とはいっても他のD3の国々も似たような条件ですので言い訳は出来ません。 しかし、D3の新興国でも、最近は非常に積極的に優秀な指導者を雇って強化を図っているので、実力は年々上がってきています。昨年男子D3を制した南アフリカは元NHL育成コーチだったBob Manciniが率いていました。香港の隣国台湾は5年前から私の友人でもある元ハンガリー代表のKristof Kovagoを迎えて一貫した強化を行っています。

そして香港男子代表の監督は、香港アカデミーのGMで、NHLドラフト全体2位指名、元ニューヨーク・レンジャーズ主将、NHLオールスター5回選出、グレツキーと共にカナダ代表でもプレーした、ホッケーレジェンドのBarry Beck氏です。Beck氏は引退後ホッケースクールの運営やジュニアチームコーチなどを経て香港に渡り、7年間もホッケーの普及と強化に尽力しています。

女子のアシスタントコーチはバンクーバーオリンピックで中国女子代表のアシスタントキャプテンを務めた譚安琪、、、過去、日本の前に何度も立ちはだかった中国女子代表の、まさに中心選手でした。彼女も引退後香港でホッケー指導者としてのキャリアを積んでいます。

そんな強者達に紛れ、うっかり名を連ねてしまった私は、20年以上のホッケーコーチ生活で初めてのIIHF世界選手権代表チーム監督/コーチ業となります。世界ランク最下位近くの香港ですが、代表は代表。私のように、一人のホッケーコーチとして生きるために世界を流れ流れて来ただけの人物を雇ってくれた香港アカデミーと、さらに代表監督/コーチにまで選んでくれた香港アイスホッケー協会には感謝の言葉しかありません。

とにかく限られた競技環境ですので、十分な準備が出来るなんて言うことはできませんが、有給を削り、身銭を切ってトレーニングをする代表選手達と、それを支える人々が胸を張って帰って来られる結果を残せるように、知恵を絞りたいと思います。

よく考えてみれば私のホッケーコーチとしてのスタート地点は、基本的に未経験者しかいない筑波大学女子ホッケー部です。アジアリーグでプロのコーチも経験したとはいえ、プレーオフに進出したことが無く、未払い上等、時には切手代さえも払えないような弱小・赤貧チームでした。カナダでもアメリカでも、AAAとはいえ、エリートと呼ぶにはほど遠いチームを率いていましたし、シーズン開始時にはAレベルも怪しいようなチームを教えたこともあります。そういえば、契約なんてあってないような国で給料が滞り、家賃はおろかバス代すら払えないような日々もあったっけ(奥さんごめんなさい!)。

そう考えれば、まともなリンクすらなく、基本自腹、その他問題山積で、目下世界ランク最下位くらいの代表チームでの挑戦、、、これこそボヘミアンホッケーコーチの望むところです!

少なくとも生活はちゃんとできてるし(笑)

いやぁ、面白くなってきました!

それでは。