ゆく年来る年2015

いやはや、ブログ放置しすぎてるうちに2015年が終わりそうです(アメリカ、アリゾナ州ではまだ年明けしてません)。

2015年はいろいろありました。

まず、2月、香港の旧正月に香港女子代表が地元香港で開催された世界選手権D2B予選を戦い、南アフリカを4-3で破って世界選手権史上初の勝利を挙げ、さらにブルガリアを下して準優勝を成し遂げました!コーチ人生長いですが、自分たちの手でゼロから作った代表チームが地元で行われた大会で勝利したのですから、これは感動しました。

2015 IIHF Ice Hockey Women's World Championship Div 2B Qualification on February 18-19 & 21st, 2015. At Mega Ice, MegaBox Hong Kong. Photo by Panda Man / Takumi Photography

2015 IIHF Ice Hockey Women’s World Championship Div 2B Qualification on February 18-19 & 21st, 2015. At Mega Ice, MegaBox Hong Kong. Photo by Panda Man / Takumi Photography

そして3月には2年間お世話になった香港を離れ、アメリカはアリゾナ州フェニックスに移住し、以前も教えていたアリゾナ・ジュニア・コヨーテズで指導を始めました。

5月には日本から5人のU14女子を連れ、イタリア・ボルツァーノで行われたWorld Selects Inviteの世界選抜チームの指揮をしました。ロシア、イタリア、アメリカ、カナダ、スイス、日本の即席混成チームでしたが、子供たちはすぐに打ち解け、大いに楽しんでました。

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6月前半はカリスマスケーティングコーチBoris Drozhenkoのキャンプでゴーリーを指導。Borisは来年のNHLドラフトの全体一位指名確実と言われるAuston Matthewsを育てたコーチですので、彼の画期的スケーティングシステムは今後大注目されるでしょう。

6月後半はカリフォルニア州ストックトンでデレック・アイスラー主催のゴーリーキャンプを行い、その後日本に帰国して、すぐにチェコに向かいフランソワ・アレールのキャンプを手伝いました。ヨーロピアンゴーリーとシューターのレベル向上を目の当たりにし、非常に刺激になるキャンプでした。2016年もやりますので、日本からの参加をお待ちしています。

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チェコから帰ると、日本で軽井沢、東京、八戸、大阪でスクールを行いました。大勢の参加者に恵まれたスクールでした。今年は4月後半から5月に行う予定ですので、近日中に詳細を発表できるようにしますね。また、スクール開催希望の方はご連絡ください。

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8月にはアメリカに戻り、ノースダコタ州ファーゴでゴーリーキャンプを行いました。アメリカで、こうして自分の名前でキャンプを開催できる場所が増えていくのは嬉しいことです。今年はもっと拡大できるようにしたいと思います。

9月からはジュニア・コヨーテズ、U18AAA、U12AA、さらに各チームのゴーリー指導を本格的に開始。毎日の指導に加えてロサンゼルス、デンバー、ミネソタ、セントルイスと遠征が続きました。

11月末には香港を再訪し、女子代表の指導。そのままブルガリアにて世界選手権D2B予選に再度挑みました。去年より明らかに戦力ダウンした陣容で心配はありましたが、結果再び2勝して準優勝。得点率、PP、PK、ゴールテンディングなど、ほとんどのスタッツを制しましたが、優勝まで2ゴール及びませんでした。

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12月後半は再びBoris Drozhenkoのキャンプを手伝いました。このキャンプには、Borisの指導に魅せられたショーン・ポディーンが息子とチームメイトを連れてミネソタから参加。ミネソタの指導者がアリゾナのキャンプに学びに来る、という不思議な光景でしたが、これが普通に出来るのがアメリカの良いところです。

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そんな感じで2015年を終え、あと数時間で2016年です。2016年は2月にノルウェーに出張、3月と4月にも某国でキャンプの可能性があり、忙しくなりそうです。

また、2016年は現在行っているコーチング等のホッケー事業をアメリカで法人化し、より拡大していきたいと思います。日本のホッケープレーヤーが海外でキャンプやトーナメントに参加できる機会ももっと提供していきたいですね。ご希望や質問などありましたらお寄せください。

今年もたくさんの方にお世話になりました。ありがとうございます。
来年もよろしくお願いします。

それでは。

軽井沢ゴーリークリニック

お久しぶりです。

ブログではご無沙汰しておりましたが、FaceBookなどでは随時情報を更新してますので、そちらもチェックしてくださいね。そして最近、おそらく世界でもっとも読まれているゴーリー情報サイトIn Goal Magazineで連載を開始しました。ゴーリーのためのホッケーシステム研究という内容です。英語版のみですが、是非ご覧ください。

思い返せば昨年の春は日本各地でスクールやらワークショップをしてました。しかし香港ではほぼ毎日オフィスでジム、いや(ホッケー絡みの)事務もこなすサラリーマンホッケーコーチですので、なかなか日本に帰って活動することが出来ずにいました。しかし、昨年に引き続き、長野オリンピック日本代表コーチなどを務められた清野勝さんにお誘いいただき、「長野県アイスホッケー連盟ゴールキーパークリニック2014」のため帰国することが出来ました。

デモンストレーターには今年からデンマークリーグに移籍する日本代表福藤豊選手、さらにアイスバックスから小野航平選手も参加。シューターにはフランスリーグで活躍した近江創一郎と元アイスバックスの斉藤謙太と、非常に豪華なクリニックになりました。合計2日間のクリニックでしたが、小学生の部37人、中学生の部28人と大盛況でした。また、私が教える香港代表からも男女代表がシューター、ゴーリーとして参加してくれました。自覚はほとんどされていませんが、日本はアジア随一、競技人口とリンク数では世界でも有数のホッケー大国です。日本の競技力と環境に憧れるアジア諸国の選手はたくさんいるので、期待に応えるリーダーシップを発揮したいところです。

中学生のクリニックとプロ選手二人のプライベートレッスンのテーマになったのは、最近急速に普及してきたポスト際のテクニック、リバースVHでした。リバースVHに類似する動きは4年以上前からNHLで見られるようになってきていましたが、未完成の部分が多く、失敗例も多数見られました。しかし最近のNHLでは強力な2-1-2フォアチェックを駆使して、ゴールライン後ろからスコアリングチャンスを作るチームが増えたため、ゴーリーもゴール裏とデッドアングル絡みのプレーに対応が迫られ、リバースVHの技術が洗練されてきました。

NHLの試合やYouTube等で既に目にしたことがある方も多いかもしれませんが、こんな感じで使われています。それにしても近年の動画共有サイトの世界的普及、携帯HDビデオや各種コーチング関連アプリの発展は確実にコーチングの世界を変えています。秘密主義と情報不足の時代は終わり、オープンに(基本的)情報を共有し合い、さらに発展させていかなければどんどん時代から取り残されていきます。私はホッケーコーチングの情報発信としては世界的にも相当古くから長期間続けている方だと自負していますが、それでも全然時代に追いついていません。これまで以上に情報発信に力を入れなければと思います。

Butterfly Save to Reverse VH Position : Drill 1

Cancelling Reverse VH Position : Drill 1

Cancelling Reverse VH Position : Drill 2 Pass In Front

Cancelling Reverse VH Position : Drill 3 Pass Across

最後に、クリニックを通して一番心に残ったのは、やはりプロ選手の意識の高さです。福藤、小野選手共に、小中学生に混じってビデオ講義に参加し、ノートまでとっていました。私は幸運なことに、国内外で何人ものプロ選手と予備軍を指導する機会に恵まれました。プロ選手とアマチュア選手を明確に分けるのは、圧倒的に基本に忠実で正確なスキルであることは間違いありませんが、その差を生む「プロ意識」はスキル以上に際だっています。

勉強熱心であっても、自分を向上させることに徹することが出来ず、自己満足のマニアや批評家で終わるのがアマチュアです。一方、自分の築いてきた物を失うかもしれないという不安や批判を乗り越え、客観的な意見を取り入れて自分の技術と向き合って向上することが出来るのが本当のプロです。

「押しつけられているように感じないことは、本当の教えではない」

とは、たしか道元の言葉です。信念を持ちつつ、変化を恐れず柔軟に対応していける、本当のプロ意識を持ったコーチでありたいと、自分にも言い聞かせる一時帰国でした。

それでは。

日本滞在記完結編

いやはや、、、もう2ヶ月半前のことになりますか、、、

八戸でのゴールテンディングワークショップを終え、次に向かったのはチェコ!国際トライアウトと、フランソワ・アレールのゴーリーキャンプに行ってきました。

トライアウトにはチェコ、ロシア、リトアニア、ドイツ、スロバキア、日本などから30人近い選手が参加した国際トライアウト、、、と、ここでは呼ばれていますが、ジュニアチーム(16-21歳のプロ予備軍)やプロチームを目指す若者を集めて複数チームのスカウトを招くイベントは、北米では「ショーケース」と呼ばれ、各地で盛んに行われています。ヨーロッパでは基本的にプロは各チームの育成組織から持ち上がりで編成され、外国人は独自のルートで契約するため、このようなショーケース的イベントはまだまだ数が少なく、多くのスカウトを集めるに至っていません。しかし、北米での外国人選手制限が年々厳しくなってきたので、この先ヨーロッパにジュニアとジュニア上がりの選手が飽和し、このようなイベントが盛んになると思われます。

このトライアウトと同時に行われたフランソワ・アレールのゴーリーキャンプ、、、約四半世紀前から北米でゴールテンディングの大革命を始め、スイス、スウェーデンをゴーリー大国に導き、その他、世界の数え切れないゴーリーとゴーリーコーチ達に影響を与えたフランソワ・アレール。結果的にゴーリー防具やホッケー戦術、現行のホッケールールまで進歩させてしまったという彼のメソッドは、もちろん日本のホッケー界にも、かなり早い段階で輸入されていました。

日本アイスホッケー連盟の「長野プロジェクト」の一貫としてフランソワが初めて日本に招かれたのが1992年。私は当時日ア連理事であった父・三記夫氏の導きにより、フランソワの通訳をすることになり、そこからボヘミアンな人生を歩むことになりました(笑)

あれから20年、、、私は、いまだにゴーリー改革が進まない古豪チェコに、やっとフランソワのキャンプを紹介することができました。少しは恩返しが出来ましたかね、、、

日本でのキャンプはしばらく行われていなかったので、フランソワのメソッドがどのように変化したのか非常に興味深かったのですが、変わらない部分は変わらず、変わった部分は合理的に変わるという、彼のスタンスこそが不変でした。近年「すでに時代遅れ」などと揶揄されることもあるフランソワですが、合理性と確率を追い求めてホッケーそのものを変革してきたフランソワの理論に、「身体能力」、「戦う姿勢」や「直感」などという曖昧かつ陳腐な言葉で大衆の迎合を得るだけの批判で太刀打ちできるわけはありません。アシスタントコーチとして初めてホッケーの殿堂入りを果たすのではないかと言われているフランソワですが、彼が引退する前に、正しい形で業績が報われて欲しいと思います。

久々にフランソワと仕事をして日本に帰った直後には、日本代表福藤豊選手とのプライベートレッスンが実現しました。NHLでプレーしたことがある唯一の日本人である福藤選手、北米でコーチしていたころも、多くの関係者に「フクフジは今どこでプレーしているんだ?」と聞かれ、今働いている香港でも、国際的に活躍するレフェリーから「フクフジ?知ってる知ってる!ECHLとオランダ時代にフクがプレーした試合で笛を吹いたことがあるぞ!」と言われるほどの知名度です。

レッスンの模様

私はこれまでにも春名真仁選手、橋本三千雄選手や畑享和選手など、日本を代表するゴーリーとトレーニングをする幸運に恵まれてきました。彼らはそれぞれ異なった素晴らしい才能と個性に努力を重ねてその地位に辿り着いたのですが、福藤選手には、まさに世界レベルの圧倒的な身体能力を見ることが出来ました。そりゃNHLにドラフトされますよね、、、そして先に挙げたゴーリー達と同様、素晴らしい人間性の持ち主でした。

2日間と短い時間でしたが、フランスリーグで活躍する凄腕シューターの近江創一郎選手、大阪国体代表GKの米田憲司先生のご協力の下、充実したクリニックとなりました。

今期はキャプテンとしてバックスを引っ張ることになる福藤選手、、、アジアで最高のステータスを持つ選手にして技術的にまだまだ伸び代があるって、恐ろしいことですよ(笑)素晴らしい活躍をして、またサクッとアジアを飛び出してください!

ああ、やっと今年の春のまとめが終わった、、、

それでは。

弱点発見!?

香港で仕事を開始しております。春のクリニック等の総括完結編を書こうと思っていたのですが、今日は現在進行中のスタンレーカップ決勝の話を、、、

シカゴがまたも事実上1点差の激戦を制してスタンレーカップ王手をかけました。クロフォードとラスクのゴーリー対決でもっとも話題になっているのは「ボストンがクロフォードの弱点であるグローブサイドを徹底的に狙っていて、事実第5戦では5点全てがグローブサイドに決まった!」という話です。

この話はさらに「現代のゴーリー先進国はフィンランドであり、ラスクはこの代表。クロフォードが苦手とするハイショットは今や時代遅れのケベックスタイルの弱点である」という、、、まぁ最近よく聞かれる議論(と呼べるほど根拠がない)に発展しています。フィンランドの著名なゴーリーコーチは「クロフォードはテクニックが低いので今すぐバックアップゴーリーに代えるべきだ」なんて言ってましたが、今日の結果見てどうなんでしょうね、、、こちらのCBS SPORTSの記事はそんな過熱した報道に釘を刺す冷静な分析です。

そもそも第5戦までのスタッツではクロフォードのグローブ側13失点に対してブロッカー側は17失点、、、第5戦でそれがグローブ側18失点/ブロッカー側17失点になって、それでもほとんどイーブンです(第6戦でグローブ19/ブロッカー17になりました)。グローブサイドの失点の方が少なかったなら、一体グローブ側を狙えという指示の根拠は何だったんだという話が書かれています。そして「現代のゴーリーはバタフライでボトムネットをほとんど塞いでいるため、ミドルからトップコーナーの失点割合が増えるのはごく当然のことである」と、これまたもっともなことを書いてくれています。単に「上が弱くなった」のではなく「下が強くなったので相対的に上の失点割合が増えた」ということです。全体としてのセーブ率、防御率、失点数が減っているわけですから、ゴーリーの進化の方向が間違っていないことは明白です。

私もクロフォードのグローブの動かし方には若干疑問がありますが、それでもまだ弱点と呼べるものではないと思います。ラスクが最先端のフィンランド式にTプッシュを使わずシャッフルとバックスケーティングだけでヌルヌル動いてショットに直角になれず、見事にバックドアにリバウンド出しちゃった、こちらの失点なんか、誰も弱点として指摘しないのは何故?

Patrick Kane Scores on Bickell Rebound

さらにラスクがポストに向かってブロックできないから、ほとんどクリーズかポストの外まで流れちゃうとか、攻めどころだと思うんですけどね。

しかし「クロフォードのグローブ」は、メディアを利用した戦略としてはある意味十分プロフェッショナルな攻め方です。正対不足などの弱点はメディアはもちろん現場の選手にすら伝わりにくいものです。私が知ってる限り、プロの選手でも、ゴーリーコーチに訊いてくることは「あのゴーリー、どこに打てば入るの?」であり、もっと重要な、正対の遅れや、パスアクロスやゴール裏など苦手なシチュエーションについて訊かれることはありません。

たいした根拠すらなくても「グローブの上が弱い」という情報を流してしまえば、チームはそこを徹底的に攻める理由ができます。「あれこれいろいろ試してみる」ことでなく「一貫して徹底的に攻める」方が、短期のシリーズでチームとしての集中を保つために効果的なものです。また、相手の弱点の情報を流すことによって、相手ゴーリーだけでなくチームにも疑念を抱かせて心理的に優位に立つことが出来ます。実際シカゴの監督もクロフォード自身も、「いきなり5失点もしてるけど、グローブサイドは大丈夫なのか?」というメディアからの度重なる質問に答えなければならなくなっています。強力なゴーリーやエースプレーヤーと戦うときは、とにかく一所を徹底的に攻め、疲弊させてこじ開け、それを「ついに弱点発見!」とメディアに書いてもらう、というやり方は今までにも行われてきました。その意味ではボストンのコーチは良い仕事してます。

ちなみにクロフォードはグローブサイドについて、記者の質問に「いやー去年は逆にブロッカーサイドが弱点って報道されてたと思うんだけど、今年はグローブなの?結局両方弱いって言いたいわけ?」とやり返してました(笑)

さて、シカゴは第6戦で優勝を決めることが出来るのか?それともボストンがまたもクロフォードのグローブサイドを攻略するのか???いろいろ書きましたが私はどちらのチームのホッケーも大好きですので、第7戦まで観られることを願っています。楽しみですね!

それでは。