軽井沢ゴーリークリニック

お久しぶりです。

ブログではご無沙汰しておりましたが、FaceBookなどでは随時情報を更新してますので、そちらもチェックしてくださいね。そして最近、おそらく世界でもっとも読まれているゴーリー情報サイトIn Goal Magazineで連載を開始しました。ゴーリーのためのホッケーシステム研究という内容です。英語版のみですが、是非ご覧ください。

思い返せば昨年の春は日本各地でスクールやらワークショップをしてました。しかし香港ではほぼ毎日オフィスでジム、いや(ホッケー絡みの)事務もこなすサラリーマンホッケーコーチですので、なかなか日本に帰って活動することが出来ずにいました。しかし、昨年に引き続き、長野オリンピック日本代表コーチなどを務められた清野勝さんにお誘いいただき、「長野県アイスホッケー連盟ゴールキーパークリニック2014」のため帰国することが出来ました。

デモンストレーターには今年からデンマークリーグに移籍する日本代表福藤豊選手、さらにアイスバックスから小野航平選手も参加。シューターにはフランスリーグで活躍した近江創一郎と元アイスバックスの斉藤謙太と、非常に豪華なクリニックになりました。合計2日間のクリニックでしたが、小学生の部37人、中学生の部28人と大盛況でした。また、私が教える香港代表からも男女代表がシューター、ゴーリーとして参加してくれました。自覚はほとんどされていませんが、日本はアジア随一、競技人口とリンク数では世界でも有数のホッケー大国です。日本の競技力と環境に憧れるアジア諸国の選手はたくさんいるので、期待に応えるリーダーシップを発揮したいところです。

中学生のクリニックとプロ選手二人のプライベートレッスンのテーマになったのは、最近急速に普及してきたポスト際のテクニック、リバースVHでした。リバースVHに類似する動きは4年以上前からNHLで見られるようになってきていましたが、未完成の部分が多く、失敗例も多数見られました。しかし最近のNHLでは強力な2-1-2フォアチェックを駆使して、ゴールライン後ろからスコアリングチャンスを作るチームが増えたため、ゴーリーもゴール裏とデッドアングル絡みのプレーに対応が迫られ、リバースVHの技術が洗練されてきました。

NHLの試合やYouTube等で既に目にしたことがある方も多いかもしれませんが、こんな感じで使われています。それにしても近年の動画共有サイトの世界的普及、携帯HDビデオや各種コーチング関連アプリの発展は確実にコーチングの世界を変えています。秘密主義と情報不足の時代は終わり、オープンに(基本的)情報を共有し合い、さらに発展させていかなければどんどん時代から取り残されていきます。私はホッケーコーチングの情報発信としては世界的にも相当古くから長期間続けている方だと自負していますが、それでも全然時代に追いついていません。これまで以上に情報発信に力を入れなければと思います。

Butterfly Save to Reverse VH Position : Drill 1

Cancelling Reverse VH Position : Drill 1

Cancelling Reverse VH Position : Drill 2 Pass In Front

Cancelling Reverse VH Position : Drill 3 Pass Across

最後に、クリニックを通して一番心に残ったのは、やはりプロ選手の意識の高さです。福藤、小野選手共に、小中学生に混じってビデオ講義に参加し、ノートまでとっていました。私は幸運なことに、国内外で何人ものプロ選手と予備軍を指導する機会に恵まれました。プロ選手とアマチュア選手を明確に分けるのは、圧倒的に基本に忠実で正確なスキルであることは間違いありませんが、その差を生む「プロ意識」はスキル以上に際だっています。

勉強熱心であっても、自分を向上させることに徹することが出来ず、自己満足のマニアや批評家で終わるのがアマチュアです。一方、自分の築いてきた物を失うかもしれないという不安や批判を乗り越え、客観的な意見を取り入れて自分の技術と向き合って向上することが出来るのが本当のプロです。

「押しつけられているように感じないことは、本当の教えではない」

とは、たしか道元の言葉です。信念を持ちつつ、変化を恐れず柔軟に対応していける、本当のプロ意識を持ったコーチでありたいと、自分にも言い聞かせる一時帰国でした。

それでは。

決定力をつけるには?追補編2

さて、、、そもそもこの連載がスタートしたきっかけとなった、「決定力」の話にやっと戻りますが、日本的なメンタリティの中で大きく改善しなければならないのが、決定力のある選手を育てるためのコーチングと選手選考の基準です。

これは私自身が海外でのコーチングに適応するために学んだことですが、一般的に日本の指導者は「点取り屋の選手を手なずけるのが苦手」であると感じます。

オープン球技の中で、点取り屋と呼ばれる選手は、どんなレベルでもチームにほんの少ししかいません。世界最高レベルの選手しかいないNHLでさえ、チームの6割のポイントは4人の選手(だいたいFW3人とDF1人)があげているという統計もあります。守りやつなぎのプレーは、ほとんどの選手が練習である程度習得することが出来ますが、得点力ほど才能の差が現れる部分はありません。

この特殊な才能を持っている選手は、時としてわがままであったり、チームプレーを好まなかったり、献身的に守備をしなかったり、コーチに反抗したり、偉そうにしてチームの中で孤立してたりします。日本でも少なからずこの傾向が見られますが、日本以外の国々では特に顕著です。はっきりいって、我が強くない点取り屋なんて存在しません。

しかし、コーチとしては、どんなにわがままで扱いにくいプレーヤーであっても、点を取れるという唯一無二の個性を生かさない限り、最終的に試合で勝つことは非常に難しいでしょう。「うちはどのラインからでも得点できるチームワークと、献身的な守備で勝負するから、ワンマンプレーのストライカーは要らない」とか「うちのチームはスピードで勝負するから、スケーティング重視で選手を選ぶ。ゴール前で点が取れるだけではフィットしない」というなら、勝負どころでの決定力の無さは最初からほぼ諦めるべきです。

私もコーチとしてのキャリアが浅いころには、我が強い点取り屋の扱いを知らず、守備中心のチームプレーにフィットしないことで衝突したりしていましたが、結局のところ点取り屋を生かせないようなチームプレーで勝てることはありませんでした。点を取るラインは、自陣ではなく相手陣内でプレーし続けて初めて意味があるのであり、彼らが自陣でのプレーに専心しているようでは最初から勝ち目がない試合だからです。これは決して点取り屋を甘やかして放任すれば良いということではなく、むしろ逆に攻撃の自由を与える代わりに、チームのために点を取る責任をチーム全員の前で説き、そして、守りが必要な場面では守る、もしくはベンチに座っていることを納得させるだけの、厳しくかつ説得力あるコーチングをする必要があるということです。同時に、点はさほど取らなくても、献身的にプレーするラインへの賞賛を忘れてはいけません。好き嫌いにかかわらず「全員で守り、取るべき人が取って勝つ」というのが、現代的なボールゲームのあり方なのですから。

さてさて、長期にわたって連載してきました「決定力をつけるには?」ですが、そろそろまとめに入ります。ここまで書いてきておいていきなり前提をひっくり返しますが、国際舞台で本当に良い成績を残したいのであれば、そもそも日本のホッケーにもっとも足りないのは「決定力」なのか?ということが、マスコミやファンの視点ではなく、試合分析のプロの視点で綿密に分析されるべきでしょう。そしてその分析を行うプロ=技術委員が登用されるべきです。技術委員による分析は、サッカーの世界では当たり前に行われていますし、ホッケー先進国でも常識でしょう。そしてその技術委員会は、次の目標(一応オリンピックですかね?)に向け、足りない技術は何か?進むべき方向性はどこか?そしていかにしてそこに達するべきか?という指針をアマチュアレベルにまで示すべきです。指針はあくまで明確に、メンタル、体力、経験、決定力なんていう曖昧な言葉を使っても結構ですが、その課題をどうやってクリアするかの具体策がなければ、言葉遊びに過ぎません。

分析結果と末端の現場での指導が連動していることも非常に重要です。例えば、本当にシュートを決める力が不足しているという結論が出たのであれば、スケーティングの時間を削ってでもシュート力とスコアリング力を向上させるべきです。1点差で負けた試合の後に100周罰走をするのではなく、1000本シュートをする方がまだ意味があるはずです。

国際舞台での経験不足を唱えるのであれば、トップ選手は武者修行ではなく、トップレベルで競り合うことが選手としての日常になるように、海外のより高いレベルのリーグでプレーするべきでしょう。男子も女子も、日本と同レベルかそれより高い国々で、トップ選手がより高いレベルの国外リーグプレーしていないのは日本だけです。

そのためには、同時に、日本国内の競技構造を世界水準にすることも重要です。これは単純に競技レベルを上げることだけでなく、より高いレベルのリーグからスカウトされる構造を作るということです。現在、日本で競技ホッケーとして世界から認知されているのはアジアリーグだけです。インカレもインターハイも、どんなにレベルが高くても、いや実際低くないレベルだと思いますが、残念ながら世界から見れば草ホッケーの大会です(だってそもそもアジアリーグ以外英語でスタッツ出ないから名前すら分からなくてスカウトも出来ないし)。ということは、アジアリーグで18歳以下の選手がプレーできない限り、NHLやらKHLのドラフト網に引っかかる選手が現れるのは、世界選手権等でうっかりスカウトされるとして、まぁ20年に一回くらいしか起こりえないわけです。これではたとえどんなに現場レベルで素晴らしいコーチングが行われ、選手が世界を夢見て日々努力していてもその先がないのは当たり前です。

いかんいかん、、、例によって決定力から大きく脱線したまま話が終わりそうですが、この続きはまたどこかで、、、

それでは。

ハイブリッドアイシング

先のIIHF年次総会で、世界選手権とその予選に適応されることが正式に決定したハイブリッドアイシング。それは何ぞや?それによってホッケーはどう変わるのか?と、気になっている方も多いかと思います。

そもそもハイブリッドアイシングはタッチアイシングに代わり、昨年からNHLで導入されています。このタッチアイシングとは、IIHFでもその昔、私がホッケーを始めたころまで残っていたルールで、センターライン前から放り込まれてゴールラインを超えたパックでも、攻撃側のプレーヤーが先に触ればアイシングにならずプレー続行となるルールでした。ですから快速ウイングが居るチームは、アイシングを避けて攻撃続行が可能だったりしたのですが、当然守備側DFとボード際まで全力でパックを取り合うことになるので、激突事故による怪我が少なからず発生し、リスクを無くすため、現行のオートマチックアイシングが登場しました。その後アイシングをしたチームの交代が認められないようになり、防戦一方の展開で、とりあえずアイシングで難を脱する作戦が使えなくなりました。

NHLとその他いくつかの北米プロ、ジュニアリーグでは長らく(なんと1937年以来!)タッチアイシングが続いていましたが、やはりパックを争いボードに激突する事故が問題になりはじめました。しかし放り込まれたパックをめぐる攻防も北米プロホッケーの大きな魅力であったため捨てがたく、折衷案として採用されたのがハイブリッドアイシングでした。

ハイブリッドアイシングでは、ダンプインされたパックに、守備側が先に触れそうならアイシング、攻撃側が先に触れそうならプレー続行となります。判断の基準はエンドゾーンの二つのフェイスオフスポットを貫く仮想ラインをどちらのプレーヤーが先に超えそうか?で決まります。ちなみに「ほぼ同時」の場合はアイシングになります。さらに、強力に打ち込まれたパックがコーナーを回って逆サイドから出てきた場合は、「攻撃側か守備側のどちらが先に触れそうだったか?」という、これまた微妙な主観で判断されるそうです。こりゃ揉めそうですね(笑)

これは、脚が速いFWなら放り込まれたパックの争いに勝てて有利、、、かもしれませんが、、、背後からDFが迫ってるので要注意です。DFはFWにわざと先に行かせて、パックを取った瞬間にチェックすることも出来るわけですから、、、具体例はこちらのビデオで解説されていますので参考にしてください。またこのビデオも英語ですが非常に分かりやすいです。

というわけで、ルール改正に伴って、特に仕事が増える世界中のラインズマンは大変になりますし、プレーヤー、コーチも適応が求められます。なにせ仮想ラインでアイシングの判断が求められるんですから、しばらく判定で混乱もあるでしょう。

が、、、

実は新ルールよりも大事なのは、レベルに応じて新ルールを導入するかどうかという判断です。さし当たり、新ルールが導入されるのはIIHF大会に限られるわけですから、各世代の代表に直接関係するレベルの大会以外では、一年間様子を見てから導入を決めても良いのです。

例えば私が教えていたアメリカのユースホッケーでは、多くの大会で「アイシングしたチームは交代できない」というルールが適用されていませんでした。なぜなら、アイシングで逃げることを禁止することにより、点を取られるまでシフトが終わらないケースが多くなり、結果として、弱いラインを使えなくなり、最終的には子供のアイスタイムに影響するからです。

チェッキングはバンタム(13-14歳)になるまでは認められていませんし、オフサイドも、タグアップありの大会と無しの大会がありました。オーバータイムのルールもまちまち、試合時間もピリオドが20分正味になるのは基本的にジュニア(16-21歳)リーグであり、18AAAの全国大会ですら17分で行なっていました。

なぜ同じホッケーで、様々なルールが存在するのか?それは年齢やレベルに合わせてルールを導入、適用することにより、「ゲームの質」を保つため、に他なりません。「ゲームの質」とは何かと言うと、例えば、IIHFでは「6点差以上がついた試合」を「ロークオリティゲーム」と定めています。6点差以上がつく試合が頻発するようでは質の低い大会とみなされますので、日本のインカレやインターハイはロークオリティの全国大会を何十年も続けていることになります。こうしてロークオリティの大会を続けて競技力を上げることは非常に難しいでしょう。

他に「ゲームの質」を決める要素は、ペナルティの数、怪我の発生件数、チーム内でのアイスタイム格差、などが考えられます。新ルールを導入するときは、それが本当にそのレベルでゲームの質を高めるために役立つのか?を慎重に検討する必要があります。ハイブリッドアイシングの導入でオフィシャルが混乱しまくったり、パックの競り合いで怪我が増えるようであれば、それはゲームの質を高めることになっていないので、導入を遅らせて、プロや高いレベルでのハイブリッドアイシングをじゅうぶんに研究してから順次導入する、もしくは見送っても良いのです。

こうしてルール、対戦方式を変えるだけで、それぞれのレベルでホッケーの質は相当上がります。例えば同じ学生だから、社会人だから、という理由で、学生からはじめたばかりのプレーヤーがほとんどのディヴィジョンをフルチェッキングルールで行なうのは明らかに危険です。日本のホッケーでフルチェッキングを導入すべきレベルは、ごく限られていると思います。試合の質の中でも、怪我のリスクを減らすことは最重要課題の一つですから、ここは妥協すべきではありません。逆にヘルメット等の色の統一とか、その他、細かい防具の規制は、そりゃできれば良いでしょうが、現実的に試合の質への影響は少ないので、高いレベルに適用するだけでじゅうぶんです。

ちなみに香港アカデミーの運営するリーグのオフィシャル責任者に、ハイブリッドアイシングの導入について訊いてみたところ、「代表選手が所属するような、ある程度レベルが高いリーグ以外で今期から導入することはないだろう。女子リーグのレベルは高くないが、代表の多くがプレーしているので、世界選手権の準備として導入することになる」とのことでした。みなさんのプレーする大会では、どうなるでしょう?

それでは。

決定力をつけるには?追補編1

オリンピックを機会に書き始めたこの企画ですが、気づけばオリンピックも遥か昔ですね。 私が監督を務めた香港女子代表チームも、ついに世界選手権デビューとなるD2B予選で3月半ばにメキシコに行って参りました。結果、南アフリカに2-5、ブルガリアに2-4、メキシコに0-1で敗れ、初参戦・初勝利というわけにはいきませんでした。 ほぼ全員が大人になってからホッケーを始め、平均年齢が33歳以上と、対戦国より10歳以上年輩、練習も遠征も多額の自己負担、等々、多くの苦難がありましたが、特に最後の試合では、優勝したメキシコ相手に一歩も引かない戦いで0-1と大健闘でした。 また、「競技ホッケー」という概念が存在しなかった香港において、

  1. 選抜され
  2. 一貫して専門的コーチの指導を受け
  3. 氷上練習以外のトレーニングも行なう

という、初の本格的なホッケーチームの基礎を築くことができました。個人的にも今までの経験を生かし、久々に会心のチーム作りが出来たと思います。

その後4月には男子チームのアシスタントコーチとしてルクセンブルグで行なわれる世界選手権D3に行ってきました。結果、UAEとグルジアを破りましたが、北朝鮮、ブルガリアとルクセンブルグに完敗して4位で終わりました。D3とはいえ、上位3チームはすべてプロもしくはセミプロです。このレベルですら、上位に食い込むためには、香港ホッケー界の構造を根本的に変えていかなければいけないということですね。

さて、、、人の教えるチームにならば何とでも言えても、自分の教えるチームと環境ではなかなか上手くいかないものだと再認識しつつ、「決定力をつけるには?」の追補編です。

体格、体力に続きまして、こちらも敗因の定番である「メンタル」。

日本人はメンタルが弱いと勝手に思い込みがちですが、これは万国共通に思い込まれることのようで、ゲルマン魂すさまじいドイツ国民でさえ、サッカーで負けたときにはまっさきに「我が国民はメンタルが弱かった」と言われると聞いた事があります。 かく言う私も20年近く前からメンタルタフネス理論に触れ、活用・実践してきました。

アスリートだけでなく、人生一般で、メンタルタフネスの実践が有効であることは経験的にも承知しています。しかし、重要なトーナメントなどでの敗戦の理由を簡単にメンタル面を言い切ってしまう事には非常に抵抗があります。 繰り返しますが、敗戦の言い訳に「メンタル、体力、経験」を多用するチームや個人で、技術力では他を凌駕しているんだけれど、という例はほとんどありません。

メンタルタフネス、と言う概念やメンタルトレーニング、さらには今流行のビジネスコーチングも、実際には日々の練習(仕事)やアスリート(社会人)としての目標設定、達成過程などを明確にするため、つまりは技術、戦術を高め、精度を上げるために使われるべきものであり、試合前にメンタルトレーナーの話を聞いたから強豪に勝てるわけではないのです。

もちろんゴルフのパッティングやサッカーのPK戦など、特定の分野でメンタルトレーナーを活用する事例は多数あります。例えばイングランドはサッカーWカップでの度重なるPK戦敗退を受けて、代表に精神科医を雇っています。しかしこれはあくまでも試合の特定の局面の強化策であり、チームとしては、まずPK戦に持ち込むことなく勝てる方法を探しているでしょう。

メディアに出ている範囲内しか分かりませんが、今回スマイルジャパンの予選突破の原動力の一つになったと言われるメンタルコーチングは、どちらかというと北米で言うところの「チームビルディング」という内容のように感じます。毎年トライアウトで顔ぶれが変わり、個性と自己主張で満ち溢れる北米のホッケーでは、「チームのために、みんなで頑張る」という当たり前のことを自覚させるために、けっこうな労力が必要です。ですから、ある程度のレベルの競技ホッケーチームではシーズン前もシーズン中も、チームビルディングの各種イベントや個人、グループ面談が、コーチやメンタルトレーナー主導で行なわれるのが当たり前です。

こちらも想像ですが、日本で求められるチームビルディングは、北米と異なり、年功序列に縛られない健全な自己主張や、苦境にあってもリーダーシップを発揮できる環境作りにあったのではないかと思います。

日本でも代表レベルのホッケーチームにメンタルトレーナーが帯同するようになったのは画期的なことですし、おそらくオリンピック出場権獲得に大きく貢献したと思われます。しかし、オリンピックレベル本番では、明らかに技術、戦術で圧倒され、たとえ60分間「日本のホッケー」が出来ていても、一勝するには至らなかったでしょう。メンタル面の強化やチームビルディングは非常に重要ですが、それはあくまで技術・戦術の差が少なくなってきて、あと少しの差を埋めるための一押しです。

そして、おそらく国際舞台で勝ち抜くため、日本のホッケー選手にもっとも必要なメンタリティは、日本人同士のチームで競い合っているだけではなかなか得られないかもしれません。個性ぶつかり合う海外のホッケー界(といっても国によっていろいろですが)で、真剣勝負を年間何十試合も行なう環境にトップレベルの選手が身を置けば、サッカーなどでも「ハードワークで従順だが、柔軟性や想像性、リーダーシップに欠ける」と評されてきた日本的アスリートのメンタリティの殻を破る選手が多く出てくるでしょう。

結局のところ、国際試合で勝ち抜くメンタルを育てるには、トップレベルの選手が、日々真剣勝負を出来る国に行ってプレーするか、そういう環境を国内に作るしか方法がありません。女子も男子も、オリンピックやトップディヴィジョンの常連国では、トップリーグでプレーする選手が中心になっているか、もしくは自国にトップリーグかそれに近い環境が存在しています。

もし、本当に語学、その他の文化が原因で、日本人ホッケー選手が海外に進出しにくいのであれば、逆に国内リーグのレベルを国際的なレベルに高める方法もあります。特に女子では確実に可能です。これはまた機会を改めて書きますね。

さて、追補編2が最終回になるはずなんですが、なるべく早めに書きたいと思います。

それでは。

決定力をつけるには?後編

時事ネタ最終回は、敗因の言い訳ベスト3と呼ばれる、体格(体力、身体能力)、経験、メンタルです。「決定力をつけるには?」というテーマとは多少ずれますが、関連する点も多いので取り上げておきます。

まず、私の知る限り、この3つを言い訳にするチームで「スキル、戦術で相手を遥かに上回っていたのに、、、」という例を見たことがありません。残念ながら典型的なスキル・戦術弱者の言い訳といえるでしょう。

しかし、逆に言えば、誰もが言い訳に使う言葉だけに、しっかりと検証、研究されたことがない概念であり、成功への糸口もそこにあるかもしれません。例えば「本番に弱い」というアスリートへの評価は万国共通ですが、そこからアスリートのメンタルトレーニングを研究、実践したメンタルタフネス、スポーツ心理学先駆者たちは成功を収めています。東欧では、共産主義時代にアスリートの体格、身体的特性の遺伝を研究し、競技に適した才能を見出す方法論を確立しています。

現場での指導、育成方針を改善しなければいけないのは当然として、その他の領域に本当に改善の余地があるのか、また改善すべきなのかを考えてみました。

<体格改善>

ホッケー界で日本人の体格が劣っているのは明らかな事実です。スマイルジャパンの平均身長162cmは、IIHFの世界大会に出場している40か国中35位(1位はカナダ、アメリカの171cm)、平均体重59kgは34位(1位はアメリカの71kg)です。男子代表の平均身長178cmは46か国中43位(1位はロシア、チェコ、スロバキア、スウェーデン、ラトヴィアの186cm)、平均体重80kgは38位(1位はロシアの92kg)です。体格だけ比べてみれば、ボクシングで言うならば、国際試合では常に2~3階級上の選手と戦っていることになります。

各種格闘技で細かい階級分けがなされているように、体重と筋力には比例に近い関係がありますので、身体的接触を伴うスポーツでは特に体重が競技力に影響することは間違いありません。また、サッカーでもハンドボールでも、ゴールネットのサイズが一定である以上、ゴーリーの身長もある程度高い方が有利であることは明白であり、競技レベルが高まるほど、ゴーリーのポジションが高身長になる傾向があります。さらにゴーリー以外であってもホッケーのスカウティングでは良くも悪くも「サイズ」が重視されるので、よほど卓越したスキルが無い限り、残念ながらプロのホッケーチームが平均以下のサイズのプレーヤーを多数ドラフトして、多額の投資をすることは考えられません。

そう考えてみれば「世界と戦うには体格のハンディ、、、」とは言いますが、実際には日本より下位のデヴィジョンの国々も軒並み体格が良いのですから、世界ランキングで女子9位、男子22位というのは相当健闘していると言って間違いありません。ただし、単純なホッケー競技人口やリンクの数、経済規模等で、日本は世界のトップ10ですので、体格の不利を上回る環境の利点を持っているとも言えます。ですから体格の割には健闘しているが、環境を考えればもっと出来ることはあるはずだと考えるのが妥当です。

私はこのブログを書くまでは、日本国内でメジャースポーツである野球やサッカーの代表は、ホッケーよりはるかに大きな競技人口から選抜されるだけに、日本人の中でも体格が優れたアスリートが選抜されているはずだと思っていたので、(筋トレその他で改善できる体重ではなく)ホッケー選手の平均身長を向上させるには、マイナースポーツを脱する以外に手はないと考えていました。しかし、現実には、例えば世界トップレベルにあるサッカー女子代表は、アイスホッケー女子代表とほとんど変わらない身長ですし、サッカー男子代表、野球男子代表もアイスホッケーと大差ない体格です。対してバスケットボール、バレーボールやハンドボールなど、より高身長が有利な特性では、当然日本代表の平均身長も高くなっています。例えばハンドボールの男女代表はホッケー強豪国に匹敵する体格(男子183cm、85kg、女子167cm、61kg)です。

[2012-13男子日本代表]
アイスホッケー 179cm 80kg
サッカー 179cm 74kg
野球 179cm 82kg
ハンドボール 183cm 85kg

[2012-13女子日本代表]
アイスホッケー162cm 59kg
サッカー 163cm 56kg
ハンドボール 167cm 61kg

つまり、単純に日本人の平均身長が低いからホッケー選手の身長も低い、というわけではなく、「競技特性と、各競技のリクルート過程、育成、選考基準が選手の身長を何となく決めていく」とも考えられます。もう少し分かりやすく言えば「背の高い子供達は何となくバレーボールやバスケットボール、ハンドボールを選び、また、背が高いという理由でそのような競技にリクルートされ、選抜過程で生き残りやすい」という仮定です。この傾向はおそらく日本以外でも大差なく、北米には10代前半で180cm以上の子供達も珍しくありませんが、より高身長向きといわれる競技に流れていきます。超高身長の若年ホッケー選手は”He should play basketball.”と、よく言われています。

長々と書いてきましたが、問題は「日本のホッケーの強化のために、ホッケー選手の体格改善をする努力をすべきか?そしてそれは可能か?」ということです。私はすべきだと思いますし、可能だと思います。先述したように、サイズ面だけを基準に比べるならば日本代表は世界最下位レベルの体格ながら、ランキングでは非常に健闘していますが、現在のサイズでは世界に挑戦する限界に近づいているかもしれません。これからサイズに関わらずホッケーそのものの質を上げなければいけないのは当然ですが、サイズがある選手が増えることで、まず、より高いレベルの海外リーグに挑戦しやすくなります。私は強豪国のプロスカウトと話したときに、こう言われました。

「まずはサイズがあって、上手いプレーヤーを紹介して欲しい。現時点では、日本のレベルでいくら上手くても日本のリーグは世界水準に無いので、本場で通用するかどうかを計る目安にならず、契約の可能性が極めて低い。さらにサイズがなければ可能性はゼロに近くなる。サイズがあって上手い日本人が一人成功すれば、そこから可能性は広がる」

フェアではありませんが、これも現実の一部です。また、国内リーグのサイズアップを図ることで、国際試合との差が少なくなる利点もあります。本当に世界との差を縮めたいのであれば、強豪国で戦う選手を増やすか、国内の環境を強豪国に近づけるしかないので、サイズのある選手を増やす、というのは間違った方向性ではありません。サイズのない選手も、国内でより多くのサイズのある選手に囲まれてプレーしてこそ、国際舞台で通用するプレーを身につけることができるはずです。

それではどのようにしてサイズアップを図るか?これはリクルートと育成方法と、コーチの意識を大胆に変え、高身長の子供達をホッケーに誘導するしかありません。他競技では既に、バスケットボール協会が「ジュニアエリートアカデミー(ビッグマン&シューター)」、サッカーでは、なでしこジャパンが「スーパー少女プロジェクト」という形で実施しています。いずれも、高身長の子供を、競技歴問わず募って育成するプロジェクトです。アイスホッケーには「スケーティング」という大前提があるので、例えば、「滑れないけど背が高くて、身体能力が高い中学一年生を発掘してゴーリーにする」というと、無理があるように聞こえるかもしれませんが、「スケーティングの特訓は出来ても、身長は高くする特訓をすることことは出来ない」のですから、指導の方法論さえしっかりしていれば、やってみる価値はあります。

一般的に、早く高身長になる子供は、コーディネーションやバランス能力が追いつくまでに時間が掛かるため、身長が低くて機敏に動く子供に比べてスケーティングに難があり、「背は高いけど、動けないからダメ」と言われてしまう例を、国内外で見てきました。しかし、それでも “You can not teach size.” であり、心身の成長バランスが崩れるクラムジーの影響が大きい、高身長の子供達の正しい育成方法を研究すれば解決できる問題です。実際北米の高身長選手は、18歳くらいまでスケーティングはイマイチ、いやかなり下手だったりしますが、その後プロになるまでに専門的なスケーティング練習で挽回することが多く、大きく、上手くなられると、完全に歯が立たなくなってしまいます。

身長、体格を基準にしたプロジェクトには違和感もあるかもしれませんが、体格はアスリートの立派な才能であるどころか、現代表に欠けている要素であるならば、それを補うプロジェクトを行うのも一つの強化です。サイズがないことを前提に強化方針を考えるだけで、サイズを上げる方法を考えなければ、身体能力が高く、高身長のアスリートはホッケーを選んでくれないでしょう。野球のダルビッシュ選手やサッカーの城選手のように、身体能力が世界レベルで、高身長だったホッケー少年が、最終的に他の競技を選んで成功している例も現実にあるわけですから、、、

体重、もこれまた非常に重要なのですが、これはまたの機会に書きます。

最後に、繰り返しますが、サイズに関わらずホッケーそのものの質を上げなければいけないのは当然です。また、決してサイズが全てを解決するのではなく、技術や戦術不足を安易にサイズ不足に置き換えてはいけません。しかし、国際的競技力向上のために、サイズそのものを向上させる方法を模索する価値は大いにあります。

さて、次はメンタルと経験の問題です、、、

あ、後編でも収まらなくなってきましたね。じゃ、追補編で!

それでは。

決定力をつけるには?中編

時事ネタ中編です。

サッカーでもホッケーでも指摘される決定力不足を解消するための、気の長い改革案です。きっかけはソチでの女子代表ですが、主に自分自身のコーチングの向上のためのブレインストーミングです。

  1. シュート練習>従来のスケーティング練習
    世界のリンクで様々なレベルを見てきましたが、日本人はシュート力が世界最弱の部類に入ると思います。なんといっても、シュートスピードがない。非アジア人種は、たとえスケーティングがヘロヘロのオッサンホッケーで、体重移動も何もない手打ちのシュートでも剛速球を飛ばせることは良く知られています。いや、アジア人と言っても、ここ香港の子供や大人だってかなり良いシュート打ちます。スケーティングはさらにヘロヘロですし、パスする気もゼロですが(笑)
    しかし、日本人といえばスケーティングと呼ばれるほど、スケーティングは滑らかで、直線のスピードだけならNHL並みの選手が過去に何人もいたと思います。遺伝的特徴もあるかもしれませんが、これは文化だと私は思います。なぜなら、日本人は「シュートよりも何よりも、スケーティングが大好き」だからです。まずチームの練習でスケーティングの占める割合が非常に高い。そして一般滑走までしてスケーティングを極めようとするのは日本人だけです。
    ホッケーにおけるスケーティングの重要性については異論ありませんが、今までの日本人が、本当にホッケーに必要なスケーティングの質を獲得するために適切な量の練習をしてきたのかというと、答えはNoでしょう。トップレベルのホッケーを分析すると、ホッケーでは直線的に常に速く走ることではなく、必要な時に、必要な場所に、タイミングよく走りこむスケーティングの方が遥かに重要だということがわかります。
    つまり、まずは従来の走りこみスタイルのスケーティング練習からスピードに強弱をつけたり、走るコースを工夫する実用的なスケーティングに切り替え、さらに時間を減らす必要があります。心配しなくても日本人のスケーティングの特性は多少スケーティングの時間を減らしたからといって簡単には失われないでしょう。この辺はまた別の機会に書きます。
    そして、スケーティングの練習時間そのものを思い切って減らして、その分シュート練習に大胆に時間を割くべきです。ロシアやチェコのリンクの横にはたいていシュート練習用のケージがあり、そこで子供たちがシュートを打ちまくっています。多くの少年チームが、一般滑走の代わりに、毎日陸上で様々なシュートを30分打ちまくる練習を10-18才まで続けるだけでもシュートのレベルは上がるでしょう。氷上練習でもスケーティング20分を10分にして、代わりに壁打ちをヒタスラ繰り返すだけでも数ヶ月で効果があるでしょう。とにかくまずはシュートのスピードと狙いを向上させないことには、この後に書くスコアリング練習も意味を成さないからです。
  2. 個人戦術、グループ戦術としてのスコアリングを練習する
    個人技術としてのシュート力を高めながら導入しなければいけないのは、戦術としての個人戦術、グループ戦術としてのスコアリングです。どんなに足が速くてもホッケーで使えるかどうかは別、と書いたとおり、NHL選手よりも速いシュートを打ててもECHL止まりだった選手も何人もいます。
    DF、ゴーリーのタイミングをずらして騙す、ゴーリーにパックを見せない、DF、ゴーリーを横に動かすという「得点しやすいシュートに結び付ける戦術」がスコアリングであり、それを練習する必要があります。
    この100年言われているように「シュート打ってリバウンド」でも悪くはないのですが、「ゴール裏を動いてゴーリーを横に動かして膝をつかせておいてファーサイドのパッドに当ててバックドアでリバウンド」にすれば、得点確率は格段に上がります。
    「ゴーリーの目の前に立ってスクリーン」も勿論良いのですが、逆に「わざとゴーリーのブロッカーの前に立ってパックを見せておいて、シュートのタイミングで顔の前に移動してブロッカー側に打ってもらう」プレーをすれば、ゴーリーが完全に反応できる可能性は極めて低くなります。サメのマークで有名なNHLチームでは、高さを変えて左右からスクリーンになって交差するように横切りながらディフレクション、なんてプレーを実際に練習してました。プロでも点を取るために具体的な工夫をしてるんです。
    一人でロング、もしくはミドルシュートを打つ場合でも、DFの前でパックを横に動かしてからクイックリリース、というのがトップレベルで頻繁に使われるスコアリング法です。多少シュートが弱くても、ゴーリーとDFを横に動かしてから打つので得点の確率は高まります。ちなみに私も攻撃力が弱いチームを教えている時に「とにかく外から打ってリバウンド」と言っちゃうことはありますが、正直言ってそれ以外にスキルで対抗する手がない時がないときだと自覚しております。走力と知識で補うことが出来る守備と違い、スコアリングを改善するには選手の育成を10年遡って根本的な改革をする以外に手はないのです。
  3. ゲームコントロール能力をつける
    スピードを生かしてフォアチェックでパック奪回、という戦術はたしかにある程度通用していますが、他の集団球技と同じく「小さくても、スピードを生かして、一試合しつこく走りぬいて戦えば、格上相手にも、、、」という戦略が成功することは稀です。問題は「一試合しつこく走りぬいて」という部分です。よく走り、スピードのあるチームほど、攻め急ぎ、守り急ぎ、まるで相手にパックを渡してしまいたいかのようにプレーしてしまうものですが、残念ながら格上のチームは、そんな相手のゲームのスピードを落としたり、相手の体力を消耗させる方法を熟知しています。スウェーデン女子を見ていると、日本の激しいフォアチェックを見切ったら、落ち着いてブレークアウトをして、DFが中盤でパックを持っても攻め急がず、サッカーで言うところのビルドアップをきちんとして、パックを失わないように攻め込んできていました。
    この辺りも、10年がかりで文化を変えないと達成不可能だと思われます。スケートの速さではなく、チームとしてのプレーの速さや、逆にスピードを落としてチームをコントロールするタメ、判断力、シュート数ではなくスコアリングチャンスの数、運動量で当たりまくるのではなく、スマートに堅実に守り攻撃につなげる、などを基準に選手選考が行われるようになる必要があります。
    これはすなわち選手を選び、評価する指導者のホッケー観が変わらなければいけないことを意味しますし、そのような指導者を選び、任せるマネージメントの意識改革も求められるということです。気の遠くなるような話ですが、全国という規模ではなく、実は地域や、チームレベルの現場から変えていける部分も多いと思います。

さらに後編に続きます。

避けては通れない、体格と身体能力、メンタルと経験の差などについて、私の思うところを書きます。

それでは。

決定力をつけるには?前編

ご無沙汰していました。

昨年末に行われたChallenge Cup of Asia D1 で、私が監督を務める香港女子代表はシンガポール(7-1)、タイ(4-0)、UAE(9-0)を下して全勝優勝を果たしました。香港女子代表初の国際大会を良い結果で終えることが出来て良かったです。また私自身初めてナショナルチームを指揮させていただき、非常に良い勉強になりました。応援してくださった皆さんありがとうございました!

3月にはこの女子代表を連れてメキシコに行き、世界選手権D2B予選を、4月には男子代表のアシスタントコーチとしてルクセンブルグで世界選手権D3を戦う予定です。

さて、私が指導するレベルの遥か遥か雲の上の最高峰の舞台、ソチオリンピックでは日本女子代表が奮闘しています。

残念ながらBグループ全敗で順位決定戦に回っていますが、英語版の解説やプロコーチたちからの論評など、海外での評価は非常に高く、大会の大きな驚きの一つとして伝えられています。一番高く評価されているのは「スピード」と「チームプレーに徹する規律」を生かしたフォアチェックを中心としたシステマチックな守備です。

過去にも日本人ホッケー選手のスピードは世界で認められてきましたが、必ず「でも、スピードを生かせていない」という評価が続き「100万ドルの足、1セントの頭」なんて、非常に不名誉なことを解説者に言われたりしてました。「サイズが足りない部分はスピードとチームプレーでカバーすれば、、、」という台詞はホッケー以外のチームスポーツでも頻繁に聞かれてきましたが、実際それを戦術で表現し、且つ機能させた例はあまりなく、「とにかく攻守に走って運動量で勝負する」という、バカ走りをする意気込みだけで終わることがほとんどでした。その点今回の女子代表は「何をしようとしているのか、はっきりと戦術の意図が分かるチーム」「全員が同じ戦術を徹底している」「明らかに劣る体格でも、格上のチームに劣らない戦い方が出来ることを証明している」「ロシアの監督は、タレントで優っていても、チームとしては負けていることをはっきり分かっている」「足りない部分を求めるのではなく特長を生かして勝負する画期的なチーム作り」と、素晴らしい評価を受けています。

「日本のホッケー」という言葉は過去に飽きるほど聞きましたが、それを実際外部から認めてもらったのですから歴史的なチームです。また、今まで破ることが出来なかった予選の壁を破り、さらに世界選手権でもトップディヴィジョンに返り咲いているので、トップレベルに上がって行く方法論としては間違っていなかったと言えます。

一方、オリンピック本番のBグループ、つまり下位4チームの組で勝てなかっただけでなく1点しか取れなかったことで、多くの課題が見えてきたのも確かです。ランキングから見ても格下の日本チームが、フォアチェックとDZカバリジを基本にした守備的戦いをして、カウンターとパワープレーに攻撃の活路を見出そうとした戦略は弱者の正攻法であり、間違いではなかったと思います。歴史的に、番狂わせと呼ばれる試合で、点の取り合いになったことはほとんど無く、ロースコアに持ち込むことはほぼ必須の条件だからです。ガチンコ本番で強敵相手に「負けても良いから攻撃的なホッケーで」というと、点は多少取れても勝てることはほとんどないでしょう。

とはいっても、守り勝つためにはある程度の得点が必要です。シュート力は男女日本人選手が世界と一番差があるスキルなのは周知の事実なので、そこはゴール前のディフレクションなどで工夫していた、みたいな記事は見かけましたし、とにかく外からでも良いからどんどんスロットにパックを入れてリバウンドを、、、という記事もありました。

しかし、残念ながら、外から入れて泥臭くリバウンドという戦術?みたいなものは、一昔前の北米の戦術というかメンタリティであり、シュートやパス、そして身体が強くないとあまり機能しません。シュート力が弱くなればなるほど、ゴール近くからクリーンに打たないと入らなくなるからです。しかしゴール近くに個人技で迫るには、これまたサイズがないから難しい、、、というのが、現在まで続く得点力のなさの原因だと推測されます。

じゃーどーすれば得点力が上がるんだよ?という、私自身の疑問に答えるべく、いろいろと考えをめぐらせてみたのですが、長くなりそうなので続きは次回に、、、

それでは。

身体能力

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さて、私が監督を務める香港女子代表アイスホッケーチームは、約一ヶ月前から陸上トレーニングを開始し、先週から氷上練習も始まりました。代表チームといっても世界最弱のレベルですので、ほとんどが大人になってからスケートを始めた女性ばかりで、平均年齢も30歳を超えます。当然週5日ホッケーをやるような環境ではありませんので、全員学生や仕事をしながら余暇にホッケーを楽しんでいる、普通の女性たちです。そんな彼女たちが、元中国代表チームの主力だったアシスタントコーチの指導の下、始めて本格的な陸トレをしたのですから大変です。初日の陸トレの翌日は、全員歩くのも大変なほどの筋肉痛になったとか(笑)

私は競技ホッケーチームの定義として、

  1. 選抜もしくは推薦されたプレーヤーだけが、
  2. 専門的知識と資格を持つコーチの指導のもと、
  3. 陸トレやビデオミーティングなど、氷上外でのトレーニングも行なうチーム。

を掲げています。例えば、

「初心者大歓迎!目指すは全日本大会出場!」

というチームは、初心者の入部テストと専任コーチ、さらに陸上トレーニング等が無い限りは、どんなに上手い人が居て、全日本大会を目指していても、レクリエーションレベルということになります。そして、香港ではこの3つを兼ね備えたチームは過去に存在しなかったわけですから、今年は香港の競技ホッケー元年と言えるでしょう。

特に初心者に近いレベルのチームの陸上トレーニングを見ていると、ホッケーのパフォーマンスと、陸上での身体能力(俗に言う運動神経とほぼ同義です)が、非常に密接に関連しているということが分かります。つまり、全体的な身体能力が高いプレーヤーは、氷上でのパフォーマンスが高く、また同じ時期に始めたプレーヤーより圧倒的に早く上手くなります。これは、サッカー、バスケなどの球技をやっていたプレーヤーが、同じようなチームプレーのセンスがある、という直接の関連性だけでなく、陸上部の選手はほとんど例外なく足が速い、など全般に及びます。様々な競技を経験しているほど、その競技レベルが高いほど、ホッケープレーヤーとしてのポテンシャルも高いのが普通です。

例えば、私が見てきた中で、大学からスケート/ホッケーを始めて、非常に高いレベルに達した選手たちの多くは、過去に他の競技でも全国レベルかそれに近い成績を残していました。これは大人からはじめたホッケー選手に限ったことではなく、少年ホッケーの世界でも、ホッケー以外の競技で好成績を残している子供は、ホッケーでも高いパフォーマンスを発揮します。

パワースケーティングの権威の一人、Barry Karn氏は、

「NHLレベルであっても、陸上の40mダッシュの記録を、氷上の40mダッシュで上回ることができるのは、ほんの数パーセントの選手だけである」

という衝撃的なデータを得て「実は従来のスケーティングは〔滑る〕というスケートの特性を生かしきってない」ということに気づき、スケーティングメカニズムの改革に乗り出しました。しかし、このデータは同時に、

「陸上でダッシュできるスピードが、氷上のダッシュのスピードをほぼ決定する」

ことを示唆しており、陸上での身体能力が、氷上での身体能力を決定的に左右するという一例です。

北米ではシーズンスポーツ制の伝統があり、今でもユースホッケーの正式なホッケーシーズンは8月半ばに始まり3月末、 遅くても4月半ばまでには終了します。今でも多くの子供たちはオフシーズンに他のスポーツ競技チームに所属し、ホッケーシーズン中であってもフットボール等と掛け持ちすることは珍しくありません。そして複数競技で優秀な選手は高校卒業あたりを目処に種目を絞り、大学推薦を狙うのが普通です。私の教え子の中にも、ホッケーとラクロス、野球とホッケー、ソフトボールとホッケーなど掛け持ちした結果、大学にはホッケー以外の種目で進学した例がありました。その子たちは決してホッケーのレベルが低かったわけではなく、AAAチームでプレーして、ジュニアリーグのドラフトにまでかかったけれど、よりチャンスが大きい、大学のレベルが高い、などの理由で他の種目を選んだに過ぎません。さらに大学進学後も競技スポーツを(ときには全国、国際的なレベルで)掛け持ちして、プロになってまで二足の草鞋という例も、少なからずあります。

逆にホッケー一筋で、一年中ホッケーに明け暮れ、6歳から専門的な陸トレに取り組んできた!みたいなスーパー小学生が、意外に伸び止まってしまったり、早々とエリート路線から脱落してしまうことも少なくありません。これは日本に限った現象ではなく、王国カナダでも近年問題にされています。

Edmonton Journalの記事

ホッケーは高度な技術が必要とされる競技ですから、早期の専門化がある程度求められることは理解できますが、逆にホッケーに必要な身体能力は多岐に富んでおり、ホッケー以外の様々なスポーツを通して基礎的な身体能力を身につけるのが上達の近道でもあります。また、一年中常に競技ホッケーのトレーニングと試合を続けることによって、身も心も消耗してしまうバーンアウトの危険性も指摘されています。夏が終わり、「ホッケーがしたい!待ち遠しい!」と思って練習を始める方が、だらだらと一年中ホッケーを続けるよりも、はるかに集中して練習できるでしょう。

そもそもオフシーズンにはアイスタイムが確保しにくいのですから、思い切って氷から離れ、他のスポーツに取り組む方が、心身ともに健全な発達が望めるということです。

と、言いながら、私もオフシーズンにキャンプやレッスンを行なってきましたが、オフシーズンに、通常の練習と試合のサイクルを離れて、普段時間を掛けて行なうことができないようなスキルの練習等に取り組むことは、それはそれで意味があります。例えばゴーリーはシーズン中に本格的なスタイルの改造に取り組むことは難しいので、オフシーズンのキャンプなどは効果的です。それでも、やはりホッケー以外のスポーツに取り組むことは重要であり、ホッケー選手になる前にまず良いアスリートを目指すべきでしょう。そして、学校の勉強や社会活動もオフシーズンにしっかりと補うべきでしょう。

日本のスポーツ界には「一筋の美学」とでも言える、とにかく一つのことに専心することが成功への条件、という思想が根強くありますが、必ずしも有効な考えではなく、過度の専心は子供の可能性を摘んでしまう危険性もあります。ホッケープレーヤーになる前に、優れたアスリートになること こそが成功の秘訣です。

また、どんなにホッケーが好きな子供でも、将来ホッケー選手になることが決定しているわけではなく、むしろ他のスポーツや、音楽や、勉強や、社会活動に目覚めていくのが大半です。親も指導者も、ホッケーは、子供たちにとって数ある可能性の一つであり、最終的には人生を豊かにしてくれる人間活動一つに過ぎない、ということを忘れず、バランスの取れた人間性を育てることが出来るように関わっていきたいですね。

それでは。

香港アイスホッケー男子、女子代表チーム、指導開始!

FaceBookTwitterでは定期的に発信してましたが、こちらのブログでは非常にご無沙汰しておりました。

香港でもホッケーシーズンが始まり、私の勤める香港アイスホッケーアカデミーでも強化から普及まで様々なプロジェクトが始動しています。 そして、26年ぶりにIIHFの世界選手権(D3と、女子はその予選)に復帰する香港代表チームも、男子+U18男子と女子のトライアウトを経てトレーニングを開始しました。私は男子チームのアシスタントコーチと、女子チームの監督、そして代表と、その育成年代のゴーリーコーチを任されることになりました。

日本のようなアジアの先進ホッケー国とは違い、香港では代表選手もすべてアマチュアであり、遠征費どころか代表の練習費用も基本的に自己負担です。通常のサイズのリンクが国内に一つしかないので、練習回数も非常に限られており、そのほとんどが休祝日の夜です。おそらく日本の地方の県代表以下の競技環境で世界大会を戦わなければなりません。

とはいっても他のD3の国々も似たような条件ですので言い訳は出来ません。 しかし、D3の新興国でも、最近は非常に積極的に優秀な指導者を雇って強化を図っているので、実力は年々上がってきています。昨年男子D3を制した南アフリカは元NHL育成コーチだったBob Manciniが率いていました。香港の隣国台湾は5年前から私の友人でもある元ハンガリー代表のKristof Kovagoを迎えて一貫した強化を行っています。

そして香港男子代表の監督は、香港アカデミーのGMで、NHLドラフト全体2位指名、元ニューヨーク・レンジャーズ主将、NHLオールスター5回選出、グレツキーと共にカナダ代表でもプレーした、ホッケーレジェンドのBarry Beck氏です。Beck氏は引退後ホッケースクールの運営やジュニアチームコーチなどを経て香港に渡り、7年間もホッケーの普及と強化に尽力しています。

女子のアシスタントコーチはバンクーバーオリンピックで中国女子代表のアシスタントキャプテンを務めた譚安琪、、、過去、日本の前に何度も立ちはだかった中国女子代表の、まさに中心選手でした。彼女も引退後香港でホッケー指導者としてのキャリアを積んでいます。

そんな強者達に紛れ、うっかり名を連ねてしまった私は、20年以上のホッケーコーチ生活で初めてのIIHF世界選手権代表チーム監督/コーチ業となります。世界ランク最下位近くの香港ですが、代表は代表。私のように、一人のホッケーコーチとして生きるために世界を流れ流れて来ただけの人物を雇ってくれた香港アカデミーと、さらに代表監督/コーチにまで選んでくれた香港アイスホッケー協会には感謝の言葉しかありません。

とにかく限られた競技環境ですので、十分な準備が出来るなんて言うことはできませんが、有給を削り、身銭を切ってトレーニングをする代表選手達と、それを支える人々が胸を張って帰って来られる結果を残せるように、知恵を絞りたいと思います。

よく考えてみれば私のホッケーコーチとしてのスタート地点は、基本的に未経験者しかいない筑波大学女子ホッケー部です。アジアリーグでプロのコーチも経験したとはいえ、プレーオフに進出したことが無く、未払い上等、時には切手代さえも払えないような弱小・赤貧チームでした。カナダでもアメリカでも、AAAとはいえ、エリートと呼ぶにはほど遠いチームを率いていましたし、シーズン開始時にはAレベルも怪しいようなチームを教えたこともあります。そういえば、契約なんてあってないような国で給料が滞り、家賃はおろかバス代すら払えないような日々もあったっけ(奥さんごめんなさい!)。

そう考えれば、まともなリンクすらなく、基本自腹、その他問題山積で、目下世界ランク最下位くらいの代表チームでの挑戦、、、これこそボヘミアンホッケーコーチの望むところです!

少なくとも生活はちゃんとできてるし(笑)

いやぁ、面白くなってきました!

それでは。

日本滞在記完結編

いやはや、、、もう2ヶ月半前のことになりますか、、、

八戸でのゴールテンディングワークショップを終え、次に向かったのはチェコ!国際トライアウトと、フランソワ・アレールのゴーリーキャンプに行ってきました。

トライアウトにはチェコ、ロシア、リトアニア、ドイツ、スロバキア、日本などから30人近い選手が参加した国際トライアウト、、、と、ここでは呼ばれていますが、ジュニアチーム(16-21歳のプロ予備軍)やプロチームを目指す若者を集めて複数チームのスカウトを招くイベントは、北米では「ショーケース」と呼ばれ、各地で盛んに行われています。ヨーロッパでは基本的にプロは各チームの育成組織から持ち上がりで編成され、外国人は独自のルートで契約するため、このようなショーケース的イベントはまだまだ数が少なく、多くのスカウトを集めるに至っていません。しかし、北米での外国人選手制限が年々厳しくなってきたので、この先ヨーロッパにジュニアとジュニア上がりの選手が飽和し、このようなイベントが盛んになると思われます。

このトライアウトと同時に行われたフランソワ・アレールのゴーリーキャンプ、、、約四半世紀前から北米でゴールテンディングの大革命を始め、スイス、スウェーデンをゴーリー大国に導き、その他、世界の数え切れないゴーリーとゴーリーコーチ達に影響を与えたフランソワ・アレール。結果的にゴーリー防具やホッケー戦術、現行のホッケールールまで進歩させてしまったという彼のメソッドは、もちろん日本のホッケー界にも、かなり早い段階で輸入されていました。

日本アイスホッケー連盟の「長野プロジェクト」の一貫としてフランソワが初めて日本に招かれたのが1992年。私は当時日ア連理事であった父・三記夫氏の導きにより、フランソワの通訳をすることになり、そこからボヘミアンな人生を歩むことになりました(笑)

あれから20年、、、私は、いまだにゴーリー改革が進まない古豪チェコに、やっとフランソワのキャンプを紹介することができました。少しは恩返しが出来ましたかね、、、

日本でのキャンプはしばらく行われていなかったので、フランソワのメソッドがどのように変化したのか非常に興味深かったのですが、変わらない部分は変わらず、変わった部分は合理的に変わるという、彼のスタンスこそが不変でした。近年「すでに時代遅れ」などと揶揄されることもあるフランソワですが、合理性と確率を追い求めてホッケーそのものを変革してきたフランソワの理論に、「身体能力」、「戦う姿勢」や「直感」などという曖昧かつ陳腐な言葉で大衆の迎合を得るだけの批判で太刀打ちできるわけはありません。アシスタントコーチとして初めてホッケーの殿堂入りを果たすのではないかと言われているフランソワですが、彼が引退する前に、正しい形で業績が報われて欲しいと思います。

久々にフランソワと仕事をして日本に帰った直後には、日本代表福藤豊選手とのプライベートレッスンが実現しました。NHLでプレーしたことがある唯一の日本人である福藤選手、北米でコーチしていたころも、多くの関係者に「フクフジは今どこでプレーしているんだ?」と聞かれ、今働いている香港でも、国際的に活躍するレフェリーから「フクフジ?知ってる知ってる!ECHLとオランダ時代にフクがプレーした試合で笛を吹いたことがあるぞ!」と言われるほどの知名度です。

レッスンの模様

私はこれまでにも春名真仁選手、橋本三千雄選手や畑享和選手など、日本を代表するゴーリーとトレーニングをする幸運に恵まれてきました。彼らはそれぞれ異なった素晴らしい才能と個性に努力を重ねてその地位に辿り着いたのですが、福藤選手には、まさに世界レベルの圧倒的な身体能力を見ることが出来ました。そりゃNHLにドラフトされますよね、、、そして先に挙げたゴーリー達と同様、素晴らしい人間性の持ち主でした。

2日間と短い時間でしたが、フランスリーグで活躍する凄腕シューターの近江創一郎選手、大阪国体代表GKの米田憲司先生のご協力の下、充実したクリニックとなりました。

今期はキャプテンとしてバックスを引っ張ることになる福藤選手、、、アジアで最高のステータスを持つ選手にして技術的にまだまだ伸び代があるって、恐ろしいことですよ(笑)素晴らしい活躍をして、またサクッとアジアを飛び出してください!

ああ、やっと今年の春のまとめが終わった、、、

それでは。